少女はいつも二番だった
少女はいつも二番だった。彼女は一番になりたかった。彼女の名前は花園百合。いつも二番目の少女。彼女には親友がいた。その少女は病弱で触れたら消えてしまいそうな程儚く弱弱しい容姿をしていたが彼女は健康優良児の百合よりも勉強も運動もよくできた。そう彼女こそがいつも一番の少女で百合の幼馴染。名前は雪桜鈴蘭。
百合と鈴蘭は名門女子校の中学部の頃から一緒だった。鈴蘭は幼い頃から病弱で皆と違う真っ白な髪色をしていたため差別されてきた。中学部に入ってもそれは変わらないと思ってた。けれど百合は違った。
「ねえ、そんなすみっこで何しているの?そんな所に一人でいるよりこっちで一緒に遊んだ方が楽しいよ?一緒に遊ぼ?あなたの名前は?」
「気持ち悪くないの?」
「えっ?」
「だって私の髪色、皆と違うんだよ?お化けみたいって言われちゃうんだよ?なのに…。」
「全然。」
百合は聞いている方が清々しい位にきっぱりと言い切った。
「えっ?どうして?」
「だって遊ぶのに髪色は関係ないじゃん。それより名前教えてよ。ちゃんと名前呼んで遊びたいもん。」
「……鈴蘭。」
「えっ?声が小さくて聞こえないよ。」
「鈴蘭よ。雪桜鈴蘭。」
「へえ。綺麗な名前だね。それにその髪色も綺麗だと思うな。雪桜って雪の季節に咲く桜って意味でしょ?その髪色とよくあっていて素敵じゃない。それにその髪色だって私は綺麗だと思うなあ。むしろ私の癖っ毛よりよっぽどいいし。交換したいくらい。」
初めてだった。自分の髪色を変だと言う者はたくさんいた。けれど自分の髪色を綺麗だと褒めてくれる人は1人もいなかった。だから予想もしなかった反応にしばらく唖然としてしまった。
「……」
「えっと…、私何か気にさわること言ったかな?鈴蘭。」
「……!ううん。何でもないの。ただ余りにも予想しなかった答えだったからびっくりしただけ。」
「そっかぁ~。よかった。何か気にさわること言っちゃったのかと思ったよ~。友達になろうよ、鈴蘭。呼び捨てでいい?」
「もちろん。私も百合ってよんでいい?」
「当たり前じゃん!」
それからというもの、百合と鈴蘭は無二の親友だった。だが百合には煮え切らないことが一つあった。それは鈴蘭がいつも一番で百合自身はいつも二番だということだった。確かに百合と友達となってからというもの鈴蘭はいじめられなくなり明るくなったし病弱なのは変わらないが、お人よしで成績もいいしクラスのまとめ役だから同級生からも先生からも人望は厚かった。そんな子だから一番であることも納得できた。否、しようとした丨丨丨丨。けれど、できなかった。百合の家は花園グループというグル丨プ会社だ。一方、鈴蘭の家は成宮グル丨プというグル―プ会社の子会社だった。いくら同じ社長令嬢といえどもグル―プ会社の社長令嬢がたかが子会社の令嬢に負けることは許されない。否、そんなこと父に許されるはずもない。幼い頃から「百獣の王ライオンの如く全てのものの頂点に立て」といわれてきた。「全てのものの頂点に立って者こそ花園グル―プの頂点に立てる」と。ずっとずっとそういわれてきた――。
時は変わり中三の末【三月】
「また二番だったそうだな。」
父は言った。
「百合、あなたはどうしてお父様のご期待に添えないの。社員の中には花園グループはお父様の代で終わりだという者まで出てきているんですよ。あなたの陰口をたたいている者だっている…。それなのに、お父様はあなたを信じて下さっているんですよ。だったら、その期待に添えるように努力するのが筋というものではありませんか?」
そう母も言った。
言葉は優しかったが、ようは「期待外れの馬鹿」といわれているようなものだった。今、思えば二人とも自分を立派な女社長に育てようと必死だっただけで悪気はなかったのだろうけれど、当時はそういわれるごとに溜まるイライラを抑えるのに必死だった。そして、それを鈴蘭にぶつけないことにーーーーー。
高校1年の新学期
「おはよう。百合。」
「ん?ああ、鈴蘭か。おはよう。」
「どうしたの?顔色、余り良くないよ?具合悪いの?」
無垢な笑顔でそう聞いてくる鈴蘭を恨めしく思った。
「あんたのせいよ。あんたなんていなくなればいいんだわ。」 そういえたらどんなに楽か…。そう思いもした。
でも言えない。自分を支えてくれたのは彼女だと知っていたから。そのときだった!
「ごほっ!ごほごほごほっ!」
「!」
「鈴蘭?どうしたの?!鈴蘭!鈴蘭!」
「だいじょ…ごほっごっほ!だいじょうぶ…いつもの…こと…」
ふっ……。鈴蘭は気を失った。あまりのことで何が起きているのか、わからなかった。ついさっきまで鈴蘭は自分のことを心配していたはずだ。その鈴蘭が今こうして自分の目の前に倒れている。何故?どうして?いくら自問自答しても答えは出てこなかった。これは罰なのだろうか。自分のことを心配してくれていた鈴蘭をほんの一瞬でも恨めしいと感じた罰なのだろうか。だとしたら、そんなことはもう二度と思いません。主よ、醜い私の心をお許しください!夢中で叫んだ。
「鈴蘭、鈴蘭、鈴蘭!」
「どうしたのじゃ。」
「鈴蘭が…っひく…突然、咳き込んで…。私、どうしていいかわからなくて…。」
「よし、わかった。雪桜はわしが医務室に連れて行くゆえ安心してよいぞ。そちも今日は寮へ戻れ、花園。よいな。」
「はい、じいちゃん先生。」
「よし、よい返事じゃ。」
―数日後―
鈴蘭、元気になったかな…。早く学校にくればいいなぁ。そう思ってた矢先、頭の上から声がした。
「ゆーり。何ぼうっとしてんの?恋わずらい?
私のいない間に彼氏でもできた?」
「ふぇ!鈴蘭!!いつからそこに?」
「百合が恋わずらいしてた時から。」
「いや、それ答えになってないし。てか、私、恋わずらいなんてしてないから。それにいつ元気になったの?じいちゃん先生に聞いても答えてくれないし、本当に心配したんだよ。」
「えへへっ。ごめん、ごめん。ちょっと家に帰って療養してたんだ。今はもうなんともないよ。心配かけてごめんね。」
「ごめんねじゃないよう~。本当に心配したんだからね!まったく…。」
「だから、ごめんって言ってんじゃん。あとね、私の病気、「ぜんそく」っていう生まれた時からある病気なんだ。だから一時的に良くなっただけで完全に治ったとは言い切れないけど、それでももう大丈夫になったから。心配しないで。」
「そこまでいうなら信じるけど…。でも無理しないでね。」
「んっ。わかってる。」
「ほんとう~?」
「ほんとだよっ!」
キーン―コーン キーンーコーン カンコーン
「あっ!予鈴だっ!」
「早く教室に入らなきゃ!じいちゃん先生におこられちゃうっ!」
「間に合いそ「コーン」」
「遅いぞ。花園、雪桜。特に雪桜!お前は休んどった時の遅れを取り戻さなければならぬと言う事がわかっておるのか!」
「すいません…。」
「ごめんなさい。」
「うむ、よろしい。今度から気をつけるんじゃぞ。」
「「はいっ!」」
「それでは授業を始めるぞ。」
キーンコーン カーンコーン キーンコーン
カーンコーン コーン
「であるからして…っと予鈴がなってしまったようじゃの。それでは今日はここまで。」
「気をつけ。礼。」
「ふぁ~やっと終わったよ。」
「そうだね。でも久々の授業、楽しかった。」
時は変わり、秋
「もうすぐ文化祭だね、百合。」
「そうだね。うちのクラスは何やるんだっけ?」
「劇だよ、劇っ!白雪姫。もう忘れちゃったの?」
「ああ、そういえば。でも、さあ女子高なのに白雪姫ってどうかと思うよ?まあ、鈴蘭が姫役だからうまくいくとは思うけど。」
「何でみんなそういうのかなあ~。私、お芝居なんてやったことないのに。でも百合のいう通り白雪姫はどうかと思うよ私も。」
「へえ~。なんで?お姫様役、そんなに不満?」
「そうじゃないけど…。」
「じゃあ、なんで?」
「だってキャラ萌えしないじゃない。」
「…。」
「どうかした?」
「鈴蘭、自重しようよ…。」
そんなこんなでときは過ぎ、文化祭前日
「小人さん、一緒にお料理しましょう♪」
ぴっ、ごろごろごろ、ぴっしゃーん
「きゃあぁ!」
「鈴蘭!って、あれ?鈴蘭がいない。確かにこっちのほうから悲鳴が聞こえたのに…。」
「花園さん、雪桜さん、みつかった?」
「ううん。そっちは?」
「だめ。どこにもいないみたい。」
「ええっ!じゃあ、どこに…。」
「ねぇ、雪桜さんって雷苦手じゃなかったけ?」
「あっ、そういえば…。一歩も動けないって行ってたような…。えっ、じゃあマジで行方不明?」
「どうしよう…。」
一方、その頃の鈴蘭
「ったた…。知らない所へ来ちゃったよ。でも桜綺麗だなぁ。ちょうど今が満開で見頃みたい。どうしよう。私、学校で劇の練習してたはずなのに…。」
「どなたですか。ここは我が梅宮家の私有地ですが?」
「へっ?私有地?えっと、どういうことでしょうか。」
「どういうことも何もありませんよ。私は梅宮桜。梅宮家第二十四代当主です。」
「えっと、今西暦何年ですか。ちょっと他の時代からきてしまったみたいで。」
「今は1870年ですけど…。他の時代?どういうことですの。そちらこそ。」
「私は西暦2010年から来てしまった見たい何です。」
「西暦2010年ですって?つまり時空を越えてきてしまったと?」
「ええ、まあ…。」
「仕方ありませんわね。あなたの話を信じましょう。」
「えっ、本当ですか?」
「梅宮家は代々、賢者の家として勢力を拡大してきました。ここであなたを見捨てて家の名に傷が付いても困りますもの。それに私と同じような髪色の方ははじめて見ましたから。何となく放っておけないだけですわ。」
「ありがとうございます。助かります。」
「その代わり一つ条件がありますわ。記憶喪失のふりをしてください。よろしいですね。」
「ええ、わかりました。」
「では、本宅に参りましょう。少し歩きますよ。」
十五分後
「着きました。ここが我が梅宮家の本宅ですわ。どうかしましたか。」
「いえ、何でもありません。ただ、お金持ちなのはわかってたとはいえ、ここまで大きなお屋敷を所有しているとは思わなかったので。すみません。」
「かまいませんよ。よくあることですから。」
「あなたのことは何て呼べばよろしいですか。」
「桜でかまいませんわ。えっと…。」
「鈴蘭です。雪桜鈴蘭。鈴蘭って呼んでくださいね。」
「さて、お互い自己紹介も済んだことだし屋敷に入りましょうか。」
「そうですね。」
「姫様、どこへ行ってらしたのですか。供も連れずに行かれたので心配したのですよ。」
「ごめんなさい。ちょっと南の私有地まで花を愛でに行っていただけよ。」
「なら、ようございますが…。ここ最近は野盗も多いと聞きます故、お気をつけくださいませ。ところで姫様、その方はどちら様で?」
「ああ、この人は雪桜鈴蘭さん。南の私有地で生き倒れてたの。どこかから迷い込んじゃったのだと思うけれど、彼女は自分自身の名前以外のことをすべて忘れてしまったらしくて…。しばらく家で面倒見ようと思うの。かまわないかしら。」
「ええ、姫様がお望みならば。」
「なら、この子にもできるだけ歳の近い話し相手のような侍女をつけてあげて頂戴。知らない家で色々と不安だと思うから。頭文字はそうね、「蒼」がいいわ。」
「かしこまりました。」
「あの、桜さん。何か悪くない?」
「えっ、何が?侍女とかそういうのはきにしなくていいわよ。それにわたしは華族の名門である梅宮家の名に傷を付けないためにあなたを助けたわけではないの。この家にはひとつ伝説がありますの。それは『南の私有地の桜満開になる時、白髪の少女そこに舞い降りる。賢者の家の銀髪の少女と白髪の少女が出会い、満月の夜に卯の方角から鳥の橋を渡る。その時、賢者の家には大いなる恵が与えられる。そして橋を渡り終えた時、白髪の少女あるべき場所に帰る。』と言うものですわ。恐らくその星の端の正体がわかれば、あなたは家に帰れると思うの。だからこの伝説のことを一緒に調べてみましょう。私も協力するから。ねっ?」
「うん、わかった。ありがとう。桜さん。」
「じゃあ、早速書庫に行きましょう。まずは資料を集めなくっちゃ。」
「着いたわ。ここが書庫よ。さあ、張り切って調べましょう。」
「ええ。」
そして二人は調べ始めた。けれどなかなか手がかりらしきものは見つからなかった。
「ねえ、桜さん。もう無理なんじゃないかなぁ。だって満月の夜は今夜だし。間に合わないよ。」
「そうでもないわよ?手がかり見つけたわ。ここを見て頂戴。『七月七日子の刻の満月の夜に空中襟巻きを身に付け鳥の橋を渡る時』と書いてあるわ。空中襟巻きというのは我が家の家宝でそれを巻けば空中でも歩けるわ。空中にある鳥の橋といえば七夕伝説にある織姫と彦星が一年に一度会うためにカササギたちが架けてくれる橋のことじゃないかしら。子の刻は午前0時で卯の方角は東だから東から鳥の橋を渡ればいいんじゃない。」
「そうね。そうだわ、桜さん。すごいわ、あなた。私なんてもう諦めかけていたのに…。でも、いいの?家宝なんてそんな大切なもの使っちゃって。」
「当主の私がいいって言うんだからいいのよ。それにあなたの寂しそうな顔見たくないし。人って頑張れば案外何でもできるものよね。」
「うん。あっそうだ。この髪留めあげる。一緒に過ごせるの今日が最後でしょ?桜さんには私のこと忘れてほしくないし。できれば思い出してほしいんだ。それ見て。受け取ってくれる?」
「もちろん。ねえ髪留め交換しない?私も鈴蘭には私のこと忘れてほしくないから。ねっ?」
「うん、交換しよう。絶対に私のこと忘れないでね。絶対だよ。」
「当たり前よ。そっちこそ私のこと忘れないでよね。」
「うん」
二人は最後の夕食の間、ずっとこの2週間二人で過ごした時のことを話していた。夕食が終わり部屋に帰っても、ずっとずっと話していた。そして遂に子の刻になった。
「とうとうお別れだね。桜さん。」
「うん。髪留め、ちゃんと結んだ?襟巻き、ちゃんとつけた?鈴蘭。」
「当たり前でしょう。もう子供じゃないんだから。」
「あはは。ごめん、ごめん。じゃあ、行こうか。」
「そうだね。」
橋の中ほどまで進んだら、声が聞こえた。
『桜に鈴蘭…。二人の清き少女たちよ。汝らの願いは何だ。言うてみよ。』
「私は家族の元へ帰りたい。」
「私は家をもっと発展させたい」
『桜と別れを惜しんでたのではないのか、鈴蘭よ。そして桜よ。お前はなぜ家を発展させたいのだ。』
「桜さんとも別れたくない。けれど桜さんにはこっちでやる事があるし、私も元の世界にいる家族が何より大事なの。」
「家を発展させたいのは使用人達のお給料をもっと上げたいから。殆どの人達が私より家族も多いし、貧しい生活を送っているから。」
『よかろう。お主らの願いかなえよう。』
そう声がした瞬間、二人に光が降り注ぎ、二人の周りは昼のように明るくなった。
「「きゃああ、眩しい!!」」
光が鈴蘭を包み込むようにし、消えていった。桜がきちんと目を開けた時にはもう鈴蘭も光も消えていて、何もなかったようになっていた。
「鈴蘭、鈴蘭!こんな所で何してんの?もう劇、始まるよ。」
「ふえ、百合?えっ、劇って?」
「何言ってんの。白雪姫だよ。文化祭の劇!夕べの雷でどうかしちゃったの?」
「あっ、そうか。帰ってきたんだ。」
「帰ってきた?何言ってんの?ほんとに大丈夫?」
「あはは、劇が終わったら話すよ。話したいことがいっぱいあるんだ。」
「私も言いたいことがあるんだ。劇が終わったら会おう。」
「うん。」
「こうして白雪姫は王子様と結婚し、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。」
パチパチパチパチパチ…。
「百合。終わったね。」
「うん。成功したみたいで、よかったよね。」
「で何?話したいことって?」
「あっ、うん。えっとね…。そのごめん。私、昔鈴蘭のこと憎んでたんだ。」
「えっ?」
「いや、だって鈴蘭は試験でいつも一番でしょ?だから私はいつも親から『何で一番になれないんだ。』って言われてて…。それで…。」
「なんだぁ。そんなことなら、いいよ。百合、憎んでることなんてかけらも見せないで私によくしてくれたし。だから過去のことは水に流そう。ねっ?」
「う、うん。それで、鈴蘭の方は?」
「うん。わたしはね、タイムトリップしちゃったんだ。それでかくかくじかじかということがあって…。」
「へえ。タイムトリップなんてすごいね。そういえば、いつもと違うね。ゴム。」
「ああ、これはタイムトリップした。証拠品。明治時代の品なの。」
「うそ!」
「ほんと。」
「すごいね。そういわれれば年代ものぽいかも。」
「でしょー。」
こうして鈴蘭は無事に元の世界に帰り、家族や友達と幸せに暮らしました。また、桜の実家である梅宮家も今や『明治は梅宮なしでは語れない。』といわれるほど大きく立派な家になりましたとさ。