第九十四話 小話「数え方」
茶色い荒野に、ポツンと二人が立っている。
天候は眩しいほどの快晴だ。
つまりはトカゲ狩り日和であり、既に一体狩り終えた。
戦利品はエウィンの足元で動かない。
それは、全長が二メートルのミファリザドだ。日本人ならば、コモドオオトカゲを連想するだろう。
昼食後の狩りは、エウィンとアゲハに課せられた日課だ。
ミファリザドは重要な食材であり、この傭兵は居候の対価として狩りを担当している。
「先ずは一体、順調順調」
魔物との戦闘は一瞬だった。エウィンは威風堂々と近寄ると、その頭部へかかと落としをおみまいした。
本来ならば、人間の打撃や蹴りなど通用しない。このトカゲはそれほどに屈強ながらも、今回ばかりは相手が悪かった。
エウィンは緑髪を揺らしながら周囲を見渡す。
当然ながら、禿げ上がった大地しか見当たらない。
その際に、黒髪のグラマラスな女性が視界に映り込むも、彼女は同行者のアゲハだ。
「一体……。前から、気になってたことが、あって……」
綺麗な声だが、その声量はいささか小さい。
そうであろうと、エウィンを振り向かせるには十分だ。
「ん? どうしました?」
「魔物の、数え方って、一体、二体、なんだよね?」
「そうですね。人間は一人二人で、石ころは一個とか二個って感じで……」
アゲハは日本人だ。
この世界に転生して既に半年以上が経っている。
だからこそ、馴染みつつも違和感を拭えない。
その内の一つが、物の数え方だ。
「日本人って、小さな動物は一匹二匹、このトカゲみたいな、大きいのは、一頭二頭って数えるから、魔物の数え方が、ちょっと不思議だなって……」
「あぁ、僕達も動物はそう数えますよ。猫は一匹ですしね」
「あ、それで、思い出した。エウィンさん、お箸の数え方、もしかして知らない?」
「え? 一本二本ですよね?」
「それも、あってるけど、二本一組で、一膳って数えるよ」
「あー、ハクアさんがイチゼンって言ってたの、そういう意味だったんですか。普通に知らなかったです。いや、忘れてただけか?」
荒野の真ん中で、新たな知識を得た。
エウィンは六歳で両親を失っているため、教養は他人より劣ってしまう。
対するアゲハだが、中退ながらも大学に通えていたことから、博識なことは間違いない。
「数え方に、変なこだわりがあるのは、日本語くらいだと、思うけどね。あ、でも、この世界も一緒、なんだ……」
アゲハの言う通りだ。
イダンリネア王国だけでなく、言葉を話せる一部の魔物ですら、日本語を用いている。
あるいは、アゲハがそう錯覚しているだけなのか?
どちらにせよ、不思議な現象だ。
「本は一冊で、木は一本。言われてみたら、僕達ってこだわってますね。魔物だけは、草原ウサギだろうと巨人族だろうとお構いなしに、一体二体ですけど」
「草原ウサギと言えば、日本にも、ウサギはいて、だけど、日本人はウサギを、一匹じゃなくて、一羽って数えるよ」
「え? 鳥じゃないのに?」
「うん、大きな耳を、鳥の羽に見立てて、だったかな?」
「へ~。それって見間違えてそう数え始めちゃった、とか?」
「ど、どうだったかな?」
「なんかそういうのってイイですね。ロマンがあると言うか……」
乾いた西風に吹かれながら、エウィンが満足げに頷く。
つまりは、風流だと言いたい。
独特な美徳は同時に不便かもしれないが、その点を否定する気にはなれなかった。




