レイジ君、一難去ってまた一難?(苦)
更新です。
僕は勝利した後、お嬢様と一緒にシンシアの所に向かった。
「えっと、シンシアさんで宜しかったでしょうか?」
あれよこれよと話しが進んだ所為で碌に自己紹介も出来なかったお嬢様は、シンシアと改めて挨拶を交わした。
「は、はい! その……自己紹介が遅れました! 私はシンシアと申しましゅ!」
シンシアが緊張でガチガチになっている。
「私はリリィ・クラディスです。宜しくお願いしますわ」
シンシアの自己紹介に、お嬢様も返礼した
「緊張なさらないで下さい。貴方は何も悪くないのでしょう?」
「はい……」
「それでしたら堂々としていれば良いのです」
「は、はい! えっと、改めて私を助けて頂き有難う御座います」
シンシアはお嬢様に向かって、深々と頭を下げた。
「お気になさらないで下さい。私は貴族として、人として当然の事をした迄ですわ」
お嬢様はそう言って優しくシンシアに微笑んだ。
そしてその微笑みを受けたシンシアは顔を赤らめている。
「……リリィ様。……その、リリィ様の事をお姉様と呼んでも宜しいでしょうか?」
貴方はお嬢様と同い年ですよ主人公様。
「別に構いませんわ。それでしたら私もシンシアと呼んでも?」
「是非! あぁ嬉しいです」
お姉様呼びが許可されたシンシアは恍惚な表情をしていた。
これはアレです。
間違いなくフラグを立てた気がしますね。
「それと、貴方の為に戦った私の戦闘執事であるレイジ兄様ですわ」
「ご紹介に預かりました。私はレイジ・ニイサマと申します。以後、気軽にレイジとお呼び下さい」
お嬢様に紹介された為、僕は軽く頭を下げ挨拶した。
「私の為に有難う御座いますレイジさん!」
「どう致しまして」
僕は別に大した事はしてないからね。
「それではシンシア。早速フランソワさんのところに参りましょう」
「はい、お姉様!」
僕等はフランソワが居る控え室に向かった。
・
フランソワの控え室に行くと、フランソワはケイロンが居る医務室に居ると聞いた為、結局医務室に向かう事となった。
僕等がフランソワの所に向かう途中、シンシアはお嬢様の趣味等を聞き出していた。
「お嬢様、そろそろ……」
乙女ゲームの世界なのにガールズラブのゲームを見せ付けられていた僕は、フランソワ達の控え室に着いたのも有り、話しを強制中断させた。
「準備は宜しいですか?」
「大丈夫ですわ、レイジ兄様」
「畏まりました」
コンコンッ。
僕は主人に代わりドアをノックした。
「どうぞ」
中からフランソワの声が聞こえてくる。
その返答を聞いた僕は扉を開け、お嬢様達に入るよう促した。
「お邪魔しますわ」
「お邪魔……します」
お嬢様はともかく、シンシアはオドオドしていた。
当然だろう。相手はチンピラの如く絡んできた相手、しかも本物の貴族だ。平民なら恐怖して当然。
「……来ましたのね。まぁ約束ですものね」
フランソワは僕が倒したケイロンの看病をしていた。
「……その、貴方の戦闘執事さんは」
大丈夫ですか? そう続けて云おうとしたお嬢様を僕は手で制した。
ケイロンに命の別状はない。しかし、暫くの間目を覚ます事も無い位には重症だ。
そんな相手に大丈夫? なんて聞くのは死体蹴りにも等しい行為。
だからこそお嬢様に言わせるべき言葉ではない。
しかし、何を言おうとしたか察したフランソワは、
「気にしないで宜しいですわ。決闘で起こった出来事です。覚悟は出来ていました」
決闘前迄の怒りが収まったのか、憑き物が落ちたかの様にフランソワは落ち着いていた。
「……そうですか」
逆に勝利したお嬢様は申し訳無さからか、明らさまに凹んでいる。
「さて、約束を果たしましょう。私、紅月序列七位フランソワ・ジルバニスはシンシア様に対する非礼、お詫び申し上げます」
そうしてフランソワはシンシアに頭を下げた。
「!?」
シンシアは素直に頭を下げたフランソワに信じられないといった顔で見ていた。
まぁ、普通に考えてフランソワが頭を下げるとは思ってなかったのだろうが、決闘で決めた事を反故したとなれば家格を貶める行為だ。それが分からないフランソワではない為、これは当然の結果だった。
「えっと……もう大丈夫です」
シンシアは頭を下げるフランソワの頭を上げさせた。
これでこのイベントは全て終わった。
僕はそう思っていた。
「フランソワさん」
しかし、イベントは終わって無かったらしい。
「何で御座いましょうかリリィ様」
お嬢様がフランソワの眼をしっかりと見据えると、
「シンシアに謝罪した貴方に、決闘での決まり事とはいえ名家の出である貴方に頭を下げさせた事を謝罪致します」
今度はお嬢様がフランソワに頭を下げた。
「え、えっと……」
流石にこの展開には僕もフランソワも茫然とした。
決闘を仕掛けたのはフランソワだ。
賭ける内容もフランソワが決めた事だ。
それなのに勝者であるお嬢様が謝罪する必要は言わば皆無。
「何故リリィ様が謝られるのですか?」
本当にフランソワの言う通りだ。
「理由は今申しましたわ。フランソワさんが謝罪したのです。光真の名を出して決闘と云う手段に貴方を追い込んだのも私です……ですので私にも非はあります」
「……リリィ様。頭を上げて下さいませ」
お嬢様を見つめるフランソワの眼には薄らと涙が浮かんでいる。
「リリィ様は高潔な方みたいですね。貴方様を見ていると、自分の醜さが際立ってしまいそうです」
「…………」
「リリィ様、もしも可能でしたら私とお友達になって頂けませんか?」
「宜しいのですか? こんな私で……」
「リリィ様が良いのです」
「嬉しいですわ! 是非、私とお友達になってくださいまし!」
僕は初めて見た。
数々のルートを見てきた中で、フランソワが浄化されているルートを……。
こうして今回の騒動はお嬢様とシンシアとフランソワがお友達となって終わった。
しかし、僕は思いだすべきだった。
この世界が乙女ゲームであり、力の無い主人公が絡まれる定番イベント。
そして、それを本来救う筈の人物に成り代わって主人公を救ってしまった事を……。
僕は知っている。
定番通りに乙女ゲームを救うド定番役者。
即ち、強キャラだと。
見て頂きありがとうございます。