お嬢様、学院で頑張る(怒)
更新です。
本日は最後?です。
決闘とは両者が大事なモノを賭けて争う死闘。
時には財を賭け、
時にはプライドを賭け、
時には命を賭け、
時には貴族の序列すらも賭ける。
それが決闘だ。
「決闘……ですか」
お嬢様は考えている事だろう。
今回のループで僕は平均的な戦闘執事程度の実力しか、お嬢様に見せていない。
そんなお嬢様には僕が負ける未来も見えている筈だ。そして、負けるリスクが高ければ気軽に決闘なんて受けられない。
「どうしました? 私の頭を平民に下げさせるつもりなら拾って下さいな」
「…………」
「もしも私が勝った場合は地を這って私に謝罪しなさい! さぁ、拾え!」
勿論、手袋を拾わなくてもいい。
その場合、名誉や自尊心等は傷付く事になるが。
だがまぁ、
「お嬢様、手袋を拾って下さい」
「レイジ兄様?」
正直、今回は並程度しか実力を出すつもりは無かったが多少は致し方ない。
フランソワの戦闘執事、ケイロンはそこらの戦闘執事より遥かに強い。それでも僕の足元にも及ばないのだが……フランソワもケイロンの実力を知っているからこそ、自信を持って決闘を申し込んだのだろう。
だからこそ、お嬢様の名誉の為にもその自信を打ち砕く。
……いや、そんな建前はどうでもいい。
僕が一番気に食わないのは前のループでお嬢様を嵌めたフランソワが、今回もお嬢様を辱めようとしている事だ。
「お嬢様拾って下さい」
「ですが……」
「貴方様の戦闘執事である私を信じて下さい」
僕はお嬢様を安心させる為に優しく微笑んだ。
「分かりましたわ、レイジ兄様」
そうして、お嬢様は投げ付けられた手袋を拾う。
・
僕達は学院の設備である決闘場を借りる事となった。
何で設備が整った決闘場があるかと言うと、この世界では某モンスター同士を戦わせるゲーム並みに戦闘執事バトルが行われる。
まぁ、それだけ貴族達は短気という事なのだ。
講堂で行われる集会は学長の一声によって延期される。代わりに僕らの決闘が催し物の様に扱われる事となり、凄い数のギャラリーを集めていた。
「レイジ兄様、私は勝利を信じております」
「お任せ下さい。お嬢様に勝利を捧げてみせます」
挨拶を済ませた僕は、決闘場の真ん中へと向かった。
・
「大変お待たせしました」
「いえ、構いませんよ」
僕の入場が遅れたにも関わらず、大人の対応をするケイロンさん。基本的に仕事が出来る戦闘執事は、温厚でこんな感じの紳士が多い。勿論、一部例外もいるが。
「私の名前はレイジ・ニイサマと申します。気軽にレイジとお呼び下さい。出来ればそちらのお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
僕はこれから倒す執事の名前を聞いた。
「これは失礼致しました。私はケイロンと申します」
まぁ、名前自体は最初から知っているけど、名乗りは大事だ。
「それではお互い名乗りも終わりましたし、そろそろ始めましょう」
僕は拳を構えると相手の準備が整うのを待つ。
「承知しました」
フランソワの執事、ケイロンも手に持った剣を構えると、自然な流れで戦いの火蓋は落とされる。
歓声が響く中、僕達は観衆の視界からその姿を消した。
僕等の戦いの軌跡をなぞる様に、数多の閃光が会場を疾った。
バァン!
閃光は音となって会場を震わせる。
僕らが踏みしめた大地は陥没し、ぶつかる拳と剣は衝撃と火花を起こす。
これが"気"を纒技レベルで操れる戦闘執事の戦いだ。
正直、今の闘技場の設備では、何が起こってるかは常人には分からないだろう。
「やりますね」
「……」
敵が僕を称賛してくるが、正直どうでもいい。
最初から僕が勝つのは分かりきってる戦いだからだ。
だからこそ通過点である戦いよりも、今後の活動に支障をきたさない為の着地点を僕は模索する。
圧倒的な力を見せつけ、今後お嬢様に刃向かう輩達を制するか。
或いはギリギリの勝利を演出して現状を維持するか。
それとも……。
どちらにせよ、ケイロンさんの様な実力者を倒す以上、今後の学院生活に多少の影響は出る。
ならば、
「降参してくれませんか?」
相手が折れてくれるなら、これ程楽な事はない。
「フランソワ様の為にもそれは出来ません」
それはそうですよね。
僕も同じだよケイロンさん。
同じだからこそ、折れて欲しい。
「こうして手を合わせてる貴方なら薄々勘付いているのではないですか?」
「何がでしょうか?」
「僕との実力差ですよ」
「…………」
分からない筈が無い。
彼なら今、僕が気纒しかしていない事を。
ケイロンさん自身が分かってる筈だ。
何をやっても僕に勝てない、と……。
「もしも、降参して頂けないのでしたら、僕は貴方を再起不能にしないといけなくなります」
もしも降参をしないのなら、暫くの間は執事として活動出来ない位に壊す。
「それでも、お断りします」
……これ以上の説得は無駄、か。
僕はケイロンの心を折る事を諦めた。
「──そうですか、それでは……サヨウナラ」
僕は纒技で覆った糸を一本、相手の脳へと向けて一瞬で飛ばす。
「…………」
「私の勝ちです」
僕はケイロンの意識を根本から断った。
殺しはしないが、暫く戦闘執事は出来ないだろう。
「忠誠を尽くす貴方の心意気は、正に執事の鏡でした」
会場がシーンと静まり返っている中、僕は会場を後にする。
・
控え室にはリリィお嬢様が待っていた。
「お嬢様、ただいま戻りました」
「レイジ兄様ってあんなにも強かったのですね……」
まだだ、まだ軌道修正は効く筈。
「かなりギリギリの戦いでしたが、私の切り札が上手い事行きましたので何とかなりました」
「そう、ですか……それでも私の行いの所為で、レイジ兄様に負担を強いる事になってしまいました。申し訳ありません」
お嬢様が僕に頭を下げてきた。
「お嬢様、執事に頭を下げないでください!」
「ダメですよ! 悪いと思った時はちゃんと頭を下げないとダメなのですわ!」
リリィお嬢様は予想以上に頑固だった。
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