お嬢様、学院で頑張る(偉)
更新です。
あの襲撃から一年が経ち、僕は十七歳、お嬢様は十二歳になり学院編が始まる年齢になった。
いわゆる原作の開始って奴だ。
まぁ、聖女ルートのお嬢様って時点で原作イベントは基本的に起こらないのですけどね。
「レイジ兄様! 学院生活の六年間楽しみですね」
お嬢様が云う通り、僕達はこの学院を六年間通う事となる。
しかも、他国という事もあり気軽に生き来出来る訳もない。その為、在学中は当然ながら寮生活だ。
「お嬢様、往来で執事の私を兄様と呼ばれるのは、お辞め下さい」
他の方に何と思われるかも考えて下さい。
「分かりましたわ、レイジにいさ……」
流石に今直ぐに治せというのも大変か?
「意識して治して行きましょう」
「……はい」
あからさまにションボリしないで下さいな。
「それでは寮に荷物を置いた後、講堂に集合との事です、お嬢様」
「分かりましたわ!」
ラインベルン国際学院では、戦闘執事を連れてる貴族達を受け入れる為、アホみたいな大きさの寮を用意をしている。
ここの学院寮を最初に見た者は、あまりの大きさにビックリする事になるだろう。
僕はそんな事を考えつつお嬢様と寮へ向かった。
・
「凄い……大きいですわ」
この寮を見たらこんな反応しますよね。
「左様で御座いますね」
学院寮が東京ドームを軽く越える程のサイズがあったら僕でもビビる。しかし、流石に僕には見慣れた光景だ。
「レイジ……は全然ビックリなさらないのですね!」
どうしても僕を呼ぶ時にどもる……もういいか?
「ハァ〜、この学院に通う間、私はレイジ・ニイサマと名乗りますのでお嬢様は今迄通りでお願いします」
甘やかすのは良くないけど、これ位はね?
「っっ!?」
名前を呼ぼうとする度にそんな反応されたら逆に周りから何か有ると思われますよ、お嬢様。
「有難うレイジ兄様!」
「それでは参りましょう」
そうして僕とお嬢様は荷物を置いて講堂へと向かった。
・
講堂に向かう途中、道に人が集まり過ぎて通る事が出来なかった。
僕とお嬢様は何事かと其処に意識を向けると、どうやら喧嘩が勃発している様だ。
「何で平民がこんな所に居るのかしら?」
「あ、あの……」
僕はこの台詞を知っている。
この言葉は原作ルートで、リリィお嬢様が平民シンシアに向けて言う台詞だ。
しかし、聖女ルートのお嬢様はこんな事を絶対に言わないし、そもそも僕の隣りに居る。
だったら、誰がこの言葉を言っているのかと言うと、
「何か言ったらどうかしら? 平民風情がこの私、フランソワを無視するつもりかしら?」
フランソワ・ジルバニス。
彼女は原作ルートでリリィお嬢様の取り巻きであり、前ループではシンシアを虐め、あろうことか事件の総てをお嬢様に押し付けたクソ女だ。
どうにかして排除をしたい気持ちは有るが、今やる訳にはいかない。
「お辞めなさい!」
僕がそんな事で頭を悩ませていると、隣りに居た筈のお嬢様が、いつの間にかシンシアとフランソワの間に入って仲裁をしていた。
ドジっ娘なのにフットワーク軽いですね、お嬢様。
「ハァ〜……主人公イベに首を突っ込みますか」
しかし、首を突っ込んだ以上は執事である僕も介入するしかない。
「お嬢様、状況も分からないまま、喧嘩事に介入しない方が宜しいかと思います」
「しかしレイジ兄様! 権力を傘に力の無い者を虐める行為を許してはいけませんわ!」
僕は想定以上にお嬢様を真面目な娘に育ててしまった様だ。
「あら、貴方はどなたかしら? 名を名乗りなさい」
フランソワさん、その人は貴方より格上ですよ?
「人に名を尋ねる前に自分の名を名乗るのが礼儀かと存じますが……まぁ、よろしいですわ」
お嬢様は軽く息を吐くと、
「私はハイロス王国の光真序列五位、クラディス家の長女リリィですわ!」
この世界、公爵とかそういった階級は無く、世界全体で総称された別の呼び名があった。
最上級の貴族は天元と呼ばれ、序列は三位迄ある。僕の兄アルバは天元序列三位の家で戦闘執事をやっている。
次に上級は光真と呼ばれ、序列は十位迄ある。お嬢様の家は此処の序列五位にある家だ。
次に中級、紅月と呼ばれ、序列は三十位迄ある。因みに、お嬢様の名乗りを聞いてプルプル震えてるフランソワは此処の序列七位だ。
最後に下級、蒼波と呼ばれる物で、各国の王が自由権限で誰にでも与えられる称号である。この階級は、性格の悪い格上貴族達から木端貴族とも揶揄される程だ。
つまり、この世界で本当の貴族といえる者は全部で43家しか無い。
そして僕達が所属している弱小国家に一家とはいえ、天元が居るのが本当に不思議でしょうがない。
「さぁ、名乗りましたわ! 貴方も名乗りなさい!」
「わ、私は、フ、フランソワ・ジルバニス。イリス王国の紅月、序列は七、七位で御座います……」
まぁ、原作でもお嬢様の取り巻きをしてた様な奴だし、権力の前に逆らえない女って事ですね。
「そうですか。今謝るのでしたら私は何も見なかった事にしますわ」
「ぐっ……申し、訳ありませんでした……」
お嬢様の圧に屈っするとフランソワは謝罪した。
しかし、
「何故私に謝るのですか? 貴方が謝るべきなのはそこの子だと思いますわ」
流石にこれはやり過ぎだ。
お嬢様相手に謝らせ、それで手打ちが理想的な終わりだったのに、権力を傘にと云って介入したお嬢様が、紅月序列七位の貴族を平民相手に頭を下げさせようとした。
これは本当に不味い。
「お嬢様、流石に──」
バサッ。
僕が止める間も無くフランソワはお嬢様に手袋を投げ付けた。
「まぁ、こうなるよね……」
貴族が手袋を投げ付ける。
これは決闘の申し込みだ。
そして貴族の決闘とはブランド品の強さ、戦闘執事同士の戦いを意味する。
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