ナナリー、どうする?(悩)
更新です。
私は本当にあの男と組んで良いのだろうか?
彼が持つ情報収集力が私と同等かそれ以上だったら?
どうやって情報を入手したのか分からないが、彼はシンシア皇女殿下の正体を知っていた。
状況を考えるならば、私やリオンがシンシア皇女殿下の護衛だろうと云う事も勘付いているだろう。
いや、勘付いてる前提で動いた方が良い。
そうじゃないと『お嬢様と僕をシンシア皇女殿下の防波堤として簡単に使えると思ったか?』なんて言葉は出てこない。
その情報を知っていた彼の情報網を侮ってはいけない。
それと彼の戦闘力も馬鹿には出来ない。
彼の事をジンはこう言っていた。
彼の行う"気"の操作は、天元の戦闘執事をも凌いでいると。……あんな細い糸に"気"を流し込み、凶器として扱う事は本来ならば難しいらしい。
それは何故か?
"纏技"は肉体から離れれば離れる程、その力を弱くする。
彼は細い糸で繋がっていたとは云え、離れた丸太にも"纏技"し、大砲の様に飛ばしていた。
それもジンに言わせれば"気"の精密操作が成せる業らしい。
そして戦いの後に見せた、自身の治療行為。
あんな、誰が見ても危険な刺し傷や切り傷を傷痕一つ残さず治した。
それどころかジンの折れた骨同士すらも糸で繋いでみせる。
やっている事が出鱈目過ぎだ。
ジンだってあの糸に対応出来たのは、彼の戦闘スタイルを一年前に一度見ていたからだ。
普通ならば初見殺しらしい。
人間は視覚から情報を得るのに、攻撃される直前迄、彼の武器は無手としてしか認識させて貰えない。
いざ攻撃された後に細い線や細い点に対応出来る者はそうは居ない。
或いは他の天元戦闘執事なら対応出来ない事も無いが、初見ならば軽く無いダメージを覚悟しないといけない。
しかも、今回の戦い、レイジは十指から糸を繰り出す指の内、両手の小指を使用してなかったらしい。
それは何故か? 答えは、私の部屋に糸結界とやらを設置した時に判明した。
「ナナリー様、結界を貼らせて頂きました。もしも結界に反応があれば、状況が糸を伝って私に伝わります」
「そう……もしかして、フランやシアの部屋にも同じ様に結界を?」
「勿論で御座います」
「成る程、そう言う事なのね」
「何がですか?」
「いぇ、何でも無いわ」
理由は分かった。彼が作り出した結界を二人の部屋にも張ったからだ。そして、結界維持の為、単純に二本指が使えなくなっただけだ。
そんな縛りが有った中でもあの戦闘力だ。……彼の実力は、まだ底を見せて無いと言う訳だ。
それ程迄に強い彼が、もしも私達の敵になったとしたら?
もしも、私とリオンの邪魔をしたとして、私達は彼を排除出来るのかしら……。
──いや、悲観してはいけない。
リオンの戦闘執事、ヴェルサスも大概な強さだ。戦いになったとしても、彼ならばレイジを止められるでしょう。
それに少しの間だが彼等と共にして分かった事も有る。……彼にとってリリィと云う人物は圧倒的に弱点となる事だ。
「流石、レイジ兄様です!」
「いぇ、私はお嬢様の命令を実行した迄です」
ならば、いざとなったら私はその弱点を突ける様に準備を進めよう。
「これで、ナナリーさんも安心出来ますね!」
「……えぇ、そうですわね。有難うリリィ。有難うレイジさん」
まぁ、それでも味方である内は全力で貴方達の支援を致しますわ。
見て頂きありがとうございます。