レイジ君、生存を喜ぶ?(嬉)
更新です。
木が大地を穿ち、砂埃が舞う戦場跡には二人の執事が立っていた。
その二人の内一人は全身から血を流し、また一人は全身をボロボロにさせている。
「まさか、僕のトラップをそんな単純な手段で耐え抜きますか……」
「ハァハァ……こっちの台詞だ……私の斬撃をそこまで食らってよく立っている」
いや……正直死ぬ寸前です。
早く、出血箇所を全て縫合しないと出血死する。
そして、僕同様にジンもあらゆる処の骨が折れ瀕死な筈だ。
弾丸が衝突する寸前、ジンは"気纏"で肉体を極限まで強化し"纏技"で身に纏う全てを硬くし、弾丸に耐え抜きながらも僕を切り刻んだ。
その光景を切られながら見た僕は、暗殺者みたいな戦い方をしていたのに此処に来て力技かよ……と言う感想しか出なかった。
「さあ、続きだレイジ」
「…………」
ジンも気付いてる筈だ。このまま続ければ二人共死に、勝者は居なくなる事を……それでも僕等は拳を固めお互いを迎え討とうとするが、
「そこまでです」
僕等の戦いは強制的にナナリーに止められた。
「……まだ決着ついてないのですけど」
「そうですよナナリー様」
「えぇ、ですから引き分けです」
僕とジンの言葉は呆気なく潰される。
「取り敢えず二人共傷を治しなさい」
・
僕は自身の傷口を糸で縫合し、出血を止めた。
「凄いねレイジ。私の骨折とかも治せる? 出来るならやってよ」
「……まぁ、戦いも終わりましたし良いですよ。──糸刺しますけど抵抗しないで下さいね」
僕は一言断りを入れるとジンの体内に糸を刺す。
敵ならはこのまま曼珠沙華で体内から食い破らせたいが今回はそんな事をしない──そんな衝動に駆られつつも、僕はジンの折れた骨を糸で繋ぎ応急処置を施す。
「本当に凄いね、こんな芸当出来る者が無銘なのが不思議だ」
「……あくまで応急処置なので後は安静にして下さい」
「了解〜」
僕はジンの処置を終えるとナナリーに向き直った。
「さて、何で戦いを止めたのですか?」
まぁ、理由は想像付く。
「あのままやってましたら二人共死んでしまいますし、止めるのは当然です」
そうですね、手駒と手駒予定が間違いなく死にましたね。
「……賭けはどうするつもりですか?」
順当に考えれば無効だろう。
「元々非公式の決闘ですし……そうですね、二人は勝者であり敗者って事にして互いに協力関係って事で手を打ちませんか?」
協力関係? 賭けは無効で表向きは今迄通りやりましょうって事か。
「……つまり現状維持って事ですね」
「違います。貴方が困った時には私が力を貸します。その代わり私が困った時には貴方の力を貸して下さい」
負けた時の代償と比べればまだいいが、ナナリーとリオンの計画を考えれば……素直に頷けない。
だから、
「出来る範囲でって事で良ければ……」
僕が無難にそう言うとナナリーは少し考えた後、「……今はそれで良いでしょう」との返事が返ってきた。
・
「それでは明日からも宜しくお願いしますね、レイジさん」
「またねレイジ」
二人はそう言って僕の前から消えていった。
「ハァ〜引き分けか……やはり天元相手には一筋縄ではいかないか」
あと何回ループしたら僕は奴等と同じ土俵に立てるんだ?
あと何回ループしたら僕のループは終わる?
あと何回ループしたら僕は……。
僕は胸に溜まったモヤモヤを抱えながらもお嬢様がぐっすりと寝てるであろう寮へと帰った。
「ムニャムニャ……」
お嬢様が何も悩みが無さそうな表情でベッドで寝ている。僕は彼女の傍らに立つとそっと頭を撫でた。
「レイジ兄様いけませんわ!? 私と兄様は」
「っ!」
その叫びに撫でてた頭を思わず離してしまった。
「……ムニャムニャ」
……盛大な寝言だった。
「どういう夢を見てるんですか……全く」
「レイジ兄様……」
幸せな夢を見てるんですね。
その夢が何時迄も見れる様に、僕は必ず貴方を救ってみせますよ。
見て頂きありがとうございます。