レイジ君、本気だす(真)
更新です。
「まさか、レイジニイサマが自分から決闘を申し込むとはね」
ヘラヘラした顔でジンは僕を見ている。
「主従同様に白々しいですね。一年前から僕の事を知ってたでしょうに……」
賊が入った時、僕は間違いなく一人も逃さなかったし、死体や戦いの痕跡も消した。
それなのに賊を退治させたのが僕だと断じる理由は一つ。
「あの場で覗き見てたのですよね?」
「まぁ、流石に分かるか。そうだよ。私はあの時しっかりと戦いを見させて貰った」
こう言っては何だが、僕はあの時周囲の索敵はした。しかし、他の侵入者の反応は無かった……つまりそれだけ高度な気配遮断を使える訳だ。
恐らくこの戦いでもその能力を駆使し、森に姿を隠しながら僕を狙い撃つ筈だ。
「それでは始めましょうか」
「そうだね」
僕は自身を強化させる為、深呼吸をしながら身体中に"気"を巡らせる。
緊迫した空気の中、戦いは始まる。
「それじゃいくよ!」
最初に動いたのはジンだった。
一瞬でレイジを囲む様に投げナイフを放おる。
「甘いです!」
飛んで来たナイフを僕は糸で全て叩き落とす。
「今度はこっちの番ですね」
僕はジンがやった様に糸でジンを囲む。
「っ!」
しかし、一瞬だけ焦った表情をしたものの、ジンは一瞬で包囲の輪から抜け出した。
「流石だね……今の一連の攻防だけでも君が天元の戦闘執事になれる資質が見えたよ」
「それはありがとうございます。まぁ、その話しは僕に勝った時にして下さい。勝てたらの話しですがね」
続けて糸を真っ直ぐ飛ばす。
先程は糸を線の様に飛ばしたが、次は真っ直ぐ点として飛ばす。
「あぁ、怖い怖い!」
普通の相手なら細い点が高速で飛んで来たら回避すら難しいのだが、ジンは躱した。
「よくまぁ今のを躱しましたね。倒せない迄も少しは効果が有ると思ったのですが……」
「今のでどうにか出来るのは天元には居ないよ」
その通りだ。
そんなのでどうにか出来るなら僕は過去のループでも問題無く倒せた筈だ。
「でもね、少しだけビックリしたから私も見せてあげる」
ジンは森に溶け込む様に気配とその姿を消す。
暗殺を得意とするだけあって、僕でもジンを捉える事が出来ない。
ヒュッ!
深夜、静寂な森に不釣り合いな風切り音が異質に響く。
「っ!?」
僕は反射的に糸でソレを叩き落とす。
「ナイフ……」
ヒュッ!
再び風切り音が聞こえると同時に僕は音の方に自分から飛び込む。
「そこか!」
「残念反対だよ」
音のした方とは逆の位置からジンが攻撃してきた。
意識外からの攻撃に僕の反応は遅れ、
「がはっっ……」
腹を殴られ、身体はくの字に折れ曲がる。
「舐めるな!」
何もせずにやられる訳にもいかない、と反撃したが既にジンの姿は掻き消えていた。
「忍者かよ……」
このままでは嬲り殺しにされるのが目に見えている。
「それなら!」
周辺の木々を糸で加工して引き抜くと、出入り口が一箇所だけ有るバリケードを一瞬で作る。
「これで侵入経路は一つに絞られる!」
このバリケード群も僕の"気"でコーティングしており簡単には壊せない。
つまり、ジンはどう足掻いても入り口から出入りするしか無い。
「凄いね〜君の強さの秘密は精密過ぎる気の操作かな? ……でも残念、私の勝ちだね」
「!?」
もう既にバリケード内に侵入していたジンに僕は焦った
──かの様に見せた。
「入った時点で僕の勝ちなんだよ」
バリケード同士を繋いだ糸を総て僕の方に手繰り寄せると、気を木に纏わせた弾丸が僕等に向けて殺到する。
「なっ!? これは……」
そして、これを不味いと感じたジンは唯一の逃げ道の入り口へと走る。
そうだ、この弾丸から逃れるには入り口から出るしか無い。しかし、僕はその入り口にこそ大本命である最高硬度まで硬めた細い糸を格子状に編み込んでいた。
もしこのままジンが突っ込めば自分から細切れ状態になる。
今、この時、この場所に安全地帯なんて無い。
──僕の立つ場所を除いてだ。
本当の安全地帯は僕が立っているこの場所だけだった。
「さぁどうでる!」
確かにジンは強い……しかし、暗殺術は最高レベルだが、単純な強さでは他の天元戦闘執事には一歩届いていない。
お前のナイフで僕の糸も木も一瞬で破壊するのは不可能だろ? 最初の数度、糸とナイフをぶつけただげで理解していたよ。
そんなジンだからこそ、この手段が通用する。
「──疾っ!」
ジンは逃げ道が無い事に気が付いたのか、ナイフを構えて反転し、僕を狙いに来た。
だけど、僕は自分の安全の為にも、此処から一歩も動けない。
ジンは構えたナイフを僕に投擲し、更に別のナイフを構えて僕の懐に飛び込んで来た。
「レイジを倒せばこれは解除されるのだろ?」
「正解だけど不正解!」
その瞬間、弾丸が僕達を襲い決着が付いたのだった。
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