レイジ君、本気だす
更新です。
「こんばんわ。約束通り一人で来てくれて嬉しいわ」
深夜、僕はナナリーに学院外の森林に呼び出されていた。
何と無くこうなる予感もあり、呼び出された以上、僕はある予想が出来た。
「私は貴方に深夜呼び出される程親しいとは思ってなかったのですが……どう云った御用ですか?」
「ふふっ、単刀直入にお聞きしますわ」
僕は渇いた喉をゴクリと鳴らす。
「実力を隠して、平民に近づいた貴方の目的は一体何ですの?」
これはブラフか?
後ろめたい隠し事がある奴程、場所とその場の雰囲気、抽象的な言葉で問い詰めるとボロを出す。
そんな手段で僕はボロを出さない。
それに僕の根本的な秘密……ループをしている事と、この世界がゲームと言う事。この秘密は僕が漏らさない限り、他者には絶対に知る事が出来ない情報だ。
だから焦らず対応すればいい。
「どう言う意味ですか?」
「あらっ、心当たりが有るのでは無いのですか?」
核心には触れてこない……やはりブラフか。
「無いですね。何かあるのでしたらハッキリ言って頂けないと私には分かりません」
「ふ〜ん、そうですか。まぁ、それではお聞きします。一年前に私の差し金でクラディス家に賊が入った筈ですが。何故実力を隠すのですか?」
やっぱりコイツがお嬢様を狙ったのか……。
「その問いに答える前に教えてくれませんか?」
「何かしら」
「何故お嬢様を狙ったのです」
例えこのループが失敗に終わったとしても、次の為にも僕はこの答えを聞き出さないといけない。
「リリィを狙ったのは建前です」
「建前?」
「そうです。騎士崩れの野盗に『貴族の家に侵入して戦闘執事と戦ってきなさい!』って言っても普通は断るでしょ?」
確かにその通りだ。
「ですので『報酬を支払うのでグラディス家のご令嬢を攫って来なさい』って伝えた方が心の汚い野盗は疑い無く動きます。まぁ、予想よりも早く貴方に勘付かれてしまいましたけどね」
「……偵察が主で最初から敵意は無いと?」
「はい! もし、マヌケにもリリィを攫えてしまったら直ぐに解放する予定でしたわ!」
「一体どうしてそんな事を……」
「聖女と呼ばれる同級生がどの様な人物か、そして学院生活を問題無く過ごせる為の戦闘執事をちゃんと所有できているか……の確認ですわ」
もしかして、シンシアの側に置いても問題無いかをあの時から試されていた?
そうなってくると、フランソワとシンシアのイベントも意図的に起こされた。いや、平民のシンシアが貴族に絡まれるのは遅かれ早かれ起こるべき問題で、絡んだのが偶々フランソワだっただけか……だとしてもお嬢様が間に入ったのは偶然の筈。
──これも違う。
今回のお嬢様は聖女と呼ばれる程のお人好しだ、困ってる人を見捨てられる訳が無い。
そうだとしたら、
「全て狙い通りって訳か」
「……フフフッ」
僕とお嬢様を掌の上で踊らせるとは良い度胸だ。だけど、僕とお嬢様をこのまま都合の良い道具として使えると思うな。
「お嬢様と僕をシンシア皇女殿下の防波堤として簡単に使えると思ったか?」
「ッ!? どうしてそれを……」
此処までは都合良く使われた。
もしも、これ以上を望むならお前にも対価を支払わせる。
「ナナリーさんだけが情報を扱ってると思わないで下さい」
「そう……」
こう言えばアンタは疑って僕の背後関係を洗う。
いや、洗ったからこそ潔白である僕の情報源が気になった、だろ?
さぁ疑え! お前が上のつもりでいるなら絶対に僕は協力しない! お前が僕やお嬢様の所まで降りて来い。
「色々と知ってそうね。喋って頂けませんか?」
そう呟くと同時、ナナリーの背後の影からジンが無言で現れた。
「天元の戦闘執事をこれ見よがしに見せ付ける。脅しとしては常套手段ですね」
「正直、こんな手は使いたくありませんがね」
結局力技に走る……如何にも貴族らしいやり方だ。
「そうですか、なら決闘しませんか?」
「決闘……賭けの対象は?」
「僕が負けたら無条件で貴方やリオンさんに協力しましょう」
「私が負けたら?」
「無条件で僕やお嬢様に協力して下さい」
「天元の私相手に、ただの戦闘執事が挑むのです。もう一つ条件を付けさせて貰います」
まぁ、そうですよね。
「何ですか?」
「私の戦闘執事になって貰います。勿論、リリィさんには代わりの戦闘執事紹介は私がします」
僕を飼い殺すのと同時に自分の息が掛かった戦闘執事をお嬢様に付ける。抜け目無いな。
ナナリーの言う通り……此処までしないと対等な賭けにならない。
だけど、これで決闘の条件は整った。
「分かりました、それでやりましょう」
「良いでしょう……フフフッちゃんと対等になりましたね」
「流石に非公式の決闘なので施設は取れません。ですので場所も丁度良いですし此処で良いですよね」
「それで良いわ」
「それでは軽く準備させて頂きますね」
相手は天元戦闘執事のジンが相手だ、僕も本気でやらないといけないな。でも、僕が本気でやるのは何ループぶりだったかな……。
「あれ?」
僕は自分の顔を触ると異変に気付いた。
「ははっ……まさか、自然に嗤ってるとか」
思いの外、僕も楽しみにしてたみたいだ。
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