レイジ君、目を付けられた(震)
更新です。
この世界で僕は強キャラだと思っている。
何度も何度もループして鍛えた。
時には四肢が捥げた事もある。
そんな血反吐を吐いてまで鍛えた技術や経験は全て僕が自分で培ってきた努力の賜物。
繰り返し、繰り返し、何年、何百年、何千年。もう何回ループしたかなんてハッキリ覚えていない。
そして数多のループの果てに手を出したらいけない奴等が居る事も分かった。
奴等の所為で僕の努力なんて本物の天才には及ばない事を理解させられた。
奴等……天元序列一位と二位の家が囲う序列上位の戦闘執事だ。奴等は本物の天才だ。
僕は天元の戦闘執事とは過去に四回戦った事が有る。
そして、その内勝てたのがたったの一回。
その一回も辛勝だし、残り三回は見事に殺された。
そんな経験からか、僕は天元の家とはなるべく争わない方向で動いている。
天元は三家しかない中、一位と二位が同じ国の貴族だ。
その化け物を飼う天元一位と二位の家の御子息と御息女が今年、ラインベルン国際学院に入学している。
勿論関わらないつもりでいたけど、僕は自分が迂闊だった事を思い知った。
何故なら、
「こんにちわリリィ嬢。俺はランドグリース帝国の天元序列一位を拝命しているリオン・グランダルだ。以後お見知り置きを」
お嬢様が運悪くイベントを発生させてしまったからだ。
いや、そうじゃない。
僕は思い出すべきだった。
先日のシンシアが絡まれる事件で、本来シンシアを助けるのはこのリオンという男だった。
彼はシンシアを護る為にこの学院に来ている。
何故、天元一位が平民のシンシアを護るのか? それは、彼女が本来ランドグリース帝国の継承権十二位の王女だからだ。
まぁ、シンシア本人は自分の事を平民だと思ってるし、訳もあって実際に平民の暮らしもしている。
そして、その平民の暮らしを影ながら護っているのがこのリオンだ。
リオンルートを進んだシンシアは数々の苦難を乗り越え、ランドグリース帝国の女帝となってリオンと結ばれる……と言う訳だ。
まぁ、乙女ゲームが原作なのだから王道的展開だろう。
そして、その王道を初めからぶち壊したのが今回のお嬢様だ。
あの争い、当然シンシア助けるつもりで動いていたリオンにとって、先手を取って解決したお嬢様が気になり、お嬢様に接触したのだろう。
簡単に言えば、おもしれぇ女って思われた?
まぁ多分、当たらずとも遠からずだ。僕としては勘弁して欲しいイベントだが……。
「これは失礼致しました。私はハイロス王国の光真序列五位、リリィ・クラディスと申します。どうぞ宜しくお願い致しますわ」
「宜しくリリィ嬢。良かったら君の戦闘執事も紹介してくれないかな?」
えっ、何で僕を?
「この前の戦い、俺の戦闘執事が絶賛していてね。どんな人物か気になったんだ」
リオンの戦闘執事、ヴェルサスはグランダル家の序列三位の執事であり、僕を一回殺した一人だ。
「そうでしたか。それではご紹介させて頂きます。当家の……私の専属戦闘執事のレイジ兄様です」
嫌だっ! 天元に名前覚えられたく無い。でも、名乗らなきゃお嬢様の面子を潰してしまう。
ぐぬぬっ!
「……ご紹介にあずかりました。私はレイジ・ニイサマと申します。宜しくどうぞ」
僕は苦悶の末に名乗った。
「成る程成る程! 俺の執事が模擬戦したがってたのだけど、良かったら受けてくれないかな? 君にも良い経験になると思うよ」
本当に勘弁してくれ。アンタの戦闘執事には一回殺されてるんだ。
あの敗北から僕も強くなった、けどまだ戦いたくない……。
「いぇ、流石に天元の戦闘様には足元にも及びませんので、ご遠慮させて頂きます」
それにリオンも本気で言ってないでしょ?
「そうだね、此方も急に失礼した。今回はリリィ嬢に先日の御礼をする為に来ただけだからね」
「お礼、ですか?」
「あぁ、此方の話しだよリリィ嬢。ただ、困った事が有ったら俺に言って欲しい。出来る限りの事はさせてもらう」
「……はぁ」
お嬢様は意味が分からないと云った感じだが、意味が分かる僕としては貸しが出来たと解釈した。だったら、この貸しに甘える事にする。
「それでは失礼するよ。リリィ嬢、レイジニイサマ、また話そうじゃないか」
「はい、リオン様。また宜しくお願いします」
そうして僕等はリオンと別れ、先日延期になった学長の有難い無駄話しを聞く為、講堂に向かった。
・
「──であるからして」
学長の無駄話しは一時間経っても終わらず。
「──である様に」
最初は真面目に聞いていた生徒達も大半が船を漕ぎ始めていた。
勿論、お嬢様や若様方に着いている執事達は講堂の後ろで控えている為、船を漕ぐ等出来る訳がない。
「長いですね」
学長の有り難くない話しに我慢出来なくなったのか、知らない糸目の執事が僕に話しかけてきた。
「そうですね」
「もう一時間半は喋ってますからね」
まぁ、この学長は毎回二時間位は喋るから、流石にそろそろ終わるだろう。
「私はジンと申します」
「……」
この男の名乗りを聞いて僕は頭を抱えたくなった。
何故ならこの男は天元二位のナナリー・ミザレスの戦闘執事だからだ。
今朝のリオンといい、タイミングを考えるなら狙って接触して来たと考えるのが常道だ。
「アハハッ、私の名前を聞いて警戒したね。まぁ、今日の所は挨拶に来ただけだから気になさらず! でも、此方が名乗ったのだから名前位は名乗っても良いんじゃないかな? レイジニイサマ」
「ご存知の通り私はレイジ・ニイサマと申します」
そっちも名前だけしか名乗ってないのだから、僕もこれ以上の名乗りを上げる義理も無い。
「おやぁ〜? 嫌われたかな……まぁ、いいや。今日は本当に挨拶だけだからね」
「そうですか。それならまたの機会でお願いします」
「──以上となります」
学長の話しも終わった様だ。
「それでは、私はお嬢様の下に参ります」
返事を待たずリリィお嬢様の居る場所に向かった。
「あちゃ〜、距離の詰め方間違えたか。……まぁ、こっちもお転婆娘のお守りに戻るか」
僕の背中にジンの呟きが聞こえて来た。
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