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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
三章:島津 前 2
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ニュース

 あの衝撃的な過去を見てからしばらく経ち、梅雨前線が猛威を振るう季節になっていた。日々の生活をベタつく湿気に悩まされながら、俺は彼女のことなどすっかり忘れてアパートと会社の反復横跳び生活を繰り返す。

 俺は、朝の通勤の車の中にいた。

 早く渋滞は抜けたいが、会社には行きたくないという相矛盾した気持ちで満たされて鬱々とする。コンビニで買ったカフェラテを飲みながら、なにか明るい気持ちになることは無いかとラジオでニュースを聞いていた。

 そんな中、ある事件の報道を聞いた時、俺は驚きのあまりハンドルを握り締め硬直してしまった。同時に思考も停止して、危うく追突する所だった。


「次のニュースです。名古屋市北区のマンションの一室から、遺体が見つかるという事件がありました。遺体の身元は、この部屋に住む巻永次さん二十七歳と見られています。一週間ほど前から連絡が付かないと親族から相談があり、マンションの管理会社が部屋に入り確認したところ、冷蔵庫内から遺体が発見されました。警察で死因の特定を急いでいますが、遺体の損傷が激しく、死後どのくらい経過しているかは現時点で不明とのことです。警察は今後、仕事や交友関係でのトラブルがなかったか調査を進める方針です」


 名古屋市で冷蔵庫内に遺体……まさか、俺が見たあれか? 彼女の過去は妄想などでは無く、現実だとでもいうのか? いや、しかし、そんなことが本当にあり得るわけが……とても信じられない。

 頭の中に様々な思いが巡り、考えが定まらない。心を落ち着ける為に、深く息を吸い数秒止めてから吐く。何度目かの呼吸で、いくらか思考がクリアになって来た。冷静さを取り戻した俺は、何があったのか整理をする。

 彼女の過去を見たのは確か、五月の連休明けだったはずだ。すでに一ケ月も経っていたのか。衝撃的ではあったが、記憶しようと思って見たわけではないから、一ケ月も前のことを思い出せるだろうか。記憶が薄れて、彼女もパーマも今ではぼんやりとしか浮かんでこない。

 始まりはスーパーだった。よし、そこは覚えている。それから、何度かの邂逅を経てパーマの家に行っていたな。二人でワインを飲んでいたはずだ。そうだ、そこでパーマがなぜか眠ってしまったのだ。今から考えると、彼女がワインに睡眠薬を入れていたのかもしれない。

 そして、()()()()が起こった。今思い出しても気分が悪くなる。

 しかし、今頃になって発覚するなんて。あのパーマ、若いのに人付き合いなさ過ぎだろう。今どきは普通なのか?ニュースでは北区だと言っていたな。まあ北区と言われても、中区にしか行かない俺からすると、北の方にあるのだろうなということしか分からない。

 あと、()()()()()()()()()()か。まさに名は体を表す、だな。


 ニュースを聞いて、俺は迷っていた。知っている情報を警察へ伝えた方が良いような気がする。事件解決への協力は市民の務めだからな。だが、何と言って伝えれば良い?

 ()()()()()()()()、と言って誰が信じるのか。むしろ、犯人しか知り得ない情報を知っていると、疑われる可能性の方が高い。秘密の暴露というのだったか。

 ニュースでも、冷蔵庫と言っていたが冷凍庫とは言っていなかった。パーマがバラバラになっていることも伏せられていた。まして、死因が絞殺ということは、犯人以外に知る人はいないだろう。

 結局、俺に出来ることはなさそうだ。せいぜい、匿名で投書をするぐらいだろうか。そんな情報を警察が信じるとは思えないし、きっと俺が送ったとバレてしまうだろう。やはり、何も出来ないな。などと考えているうちに、会社に到着してしまった。パーマの心配よりも、自分の心配をしなくては。

 まぁ日本の警察は優秀だし、すぐに捕まるだろう。俺の出る幕は無いはずだ。きっと無い。無いと思う。


 だが、予想に反して事件解決のニュースが聞こえてくることは無かった。俺も日々の仕事に追われる中で、すっかりそんなニュースなど忘れていた。


***


 それから更に一ケ月が経った。

 七月に入り季節は夏。鬱陶しい梅雨のジメジメは過ぎ去ったが、容赦なく照りつける太陽が体力を奪っていく。なんで七月でこんなに暑いんだ。八月を迎える前に溶けてなくなってしまう。ずっと春か秋にならないだろうか。いや、春は花粉症で辛いから、秋が良い、秋でお願いします。

 そんなことを考えながら、俺はまたいつものように喫茶店に足を向けた。


 そこで俺は、()()()と再会することになる。

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