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探偵は難しい  作者: ぬさ
二章:新開 真 1
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進まぬ捜査

 遺体は直ちに検死に回され、死因が特定された。被害者は縄状の物で絞殺された後、各部を切断されたということだった。

 遺体の切断面は酷く崩れていたが、生活反応が見られなかったことから直接の死因は別にあることが判明。遺体を丹念に調べると、首に索条痕が見られたことから、絞殺した後に切断したと推測された。また、切断面の具合から使用された道具はのこぎりだということも分かった。

 しかし、死因は判明したが冷凍庫に入れられてから相当の時間が経っているらしく、死亡推定日時を割り出すことは出来なかった。恐らく、これが犯人の狙いなのだろう。冷やしてしまえば、腐敗臭の抑制と共に死亡日時のかく乱が可能だ。手間はかかるが、なかなかに上手い手だ。


 本格的な捜査が始まったが、思うような進展は得られない日々が続いていた。私が最初に感じた印象は残念ながら当たっていたらしい。

「いやあ、まいったよ。まさか何にも出ねえとは思わなかった」

 同僚がツーブロックに刈り上げた頭をガシガシと掻きながら言う。

「ホントそうね、まいっちゃうわ。それに監視カメラも空振りだなんて思わなかった」

 部屋からは、犯人に繋がる痕跡は発見されず、マンションやその周辺の監視カメラからも犯人と思しき人物は発見されなかった。

 同僚はお茶をグイっと飲み干して、愚痴を続ける。

「犯行時刻も分かんねえし、いったいどこから探ったらいいんだ」

「法律で監視カメラの録画期間を十年ぐらいにして欲しいわ。なんで二週間とか一ケ月とかなのよ。そんなんで防犯になると思ってんのかしら。もうちょっと考えなさいよね」

 私も、釣られて愚痴を吐き出す。

 周辺の監視カメラの録画は最長一ヶ月で、巻永次が写った映像すら一件も見つかっていない。その為、犯行日時は事件発覚から一ヶ月以上前であろうという推測がなされたが、つまりは何も分からないのと同じだった。

「大体、巻永次ももうちょっと近所付き合いしてくれてればな」

「それはしょうがないんじゃない? 時代よ時代。私も近所に誰が住んでるかなんて知らないし」

「まあ、そうか。いやな時代だな」

 マンション周辺に聞き込みを行ったが、近所付き合いはほとんどしていないことが判明しただけだった。隣室の住人ですら、巻永次の顔写真を見せてもピンと来ていない様子だった。

 そのような状況の為、不審なことが無かったかという質問にも大した成果は得られなかった。

「しっかし、あの両親も一体何考えてるんだよ。遺体の引き取りは業者任せだし、話を聞きたいなら来いとか。息子が死んでるんだぞ」

 同僚は鼻息を荒くして憤る。先日、福井県に出張してからずっとこの調子だ。よっぽど酷い対応だったらしい。

「葬式も簡素なのしかしなかったっていうから、名古屋に住まわせてたのも厄介払いの為かもね。でも、ちょっとは巻永次のことわかったんじゃないの?」

「いや、全然。関東の大学を出てからは定職にも就かず遊び惚けてたってことぐらいだな。昔っからやんちゃだったみたいだ。だけど、地元の人間に話を聞いても、なんか皆話をしたがらないんだよな。なんだあれは」

 同僚は、疲れた様子で天井を仰ぐ。

 それも捜査が進まない理由な気がしていた。両親が箝口令を敷いているようなのだ。体裁など気にしている場合ではないのに、これだから金持ちは。


***


 遅々として捜査が進まないまま、すでに一ヶ月が過ぎようとしていた。いつの間にか梅雨が明け、痛いほどの日差しで外回りが一層辛くなってくる。さっさと解決して、この空のように晴れやかな気分になりたいものだ。

 だが、そんな願望は叶えられないまま時間ばかりが過ぎる。今日も有力な情報を得られないまま一日の仕事を終え、私は帰宅中の車の中で考え事をしていた。

 最近、課長の当たりが強くなってきている。焦るのは分かるのだが、部下に当たったところで事件が解決するわけではない。時間と労力の無駄だということが分からないのだろうか。考えていたらムカついてきたから、今日はお酒を飲んでしまおう。

 晩酌の準備をする為、途中でコンビニに寄る。今日は何にしようか。とりあえずビールをかごに入れ、次はつまみを探す。店内を見て回り、適当にスナック菓子を選んでかごに放り込んだ。

 レジに向かう途中、和菓子コーナーで鬼饅頭を見つけた。サツマイモの入った蒸し饅頭だ。昔、よく祖母の家で食べていたのを思い出し、懐かしくて買うことにした。素朴な味で美味しい。

 アパートに着いて部屋に入ったら上着を脱いでハンガーに掛け、そのままソファに倒れこみテレビを点けてだらける。これが日課になってしまっている。実家暮らしの時は、もっとちゃんとしろと親に小言を言われたものだ。一人暮らしの今、誰に迷惑を掛ける訳でも無いのでもう直すつもりも無い。

 袋からビールを取り出し、プルタブを開けてビールを喉の奥に流し込む。体の中の熱が、炭酸の爽快感と共に冷えていく。最高だ。

 ビールを一缶飲み干した所で、あのドラマがやっていることを思い出した。特にファンという訳でも無いのだが、何故かいつも見てしまう。ちょうど始まるところだったので、二本目のビールを開けてつまみを食べながら鑑賞することにした。

 そのドラマは、主人公やその周りの登場人物が毎週誰かしら異界に落ちては這い上がってくるという新機軸の恋愛ドラマだ。先週からは新シリーズの地獄編が始まっていて、主人公が叫喚地獄に落ちて這い上がってきていた。あれには感動して、思わず涙ぐんでしまった。今週はどうなるのだろうか。

 主人公を演じるのは、今売り出し中のイケメン俳優、天王寺正臣(てんのうじまさおみ)で、ツーブロックがよく似合っている。署内でもこのドラマを見ている人は多いらしく、彼に影響されてなのか、最近はツーブロックをよく見るようになった。そういえば、同僚もツーブロックにしていたな。私はこの髪型は好きでも嫌いでもないが、あまり量産されると鬱陶しい。

 ドラマを見終わり、最後のビールも空になったので、そろそろシャワーを浴びて寝よう。また明日も仕事だ。

 明日は名古屋市の中心街で聞き込みをする予定になっていた。明日こそは、何か進展があると良いのだが。


 そうして、今日という日が終わっていった。

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