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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
二章:新開 真 1
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事件の発露

 その日は、梅雨の合間の久しぶりの晴天だった。雨は嫌いでは無いが、やはり晴れていた方が気分が良い。私――新開 真(しんかい まこと)――は、そんなことを考えながら通報のあったマンションへ車を走らせていた。

 ウインドウ越しに見上げる青々とした空とは対照的に、心の中には靄がかかる。同僚の刑事から伝えられた内容から、この事件は長引きそうだという漠然とした印象を感じていた。現場に向かう間、同僚との話を思い出し概要を頭に叩き込む。


「名古屋市北区K町のマンションの一室で人が殺されているという通報が入った。被害者はこの部屋の住人、巻 永次(まき えいじ) 二十七歳と思われる」

「思われるって、どういうこと?」

 曖昧な表現に私が聞き返すと、同僚はすぐに答えた。

「被害者は胴体から頭と四肢が切り離されていた。つまりバラバラ殺人という訳だ。しかも、それらは全て袋に詰められ冷凍庫に入れられていた。だからまだ確認しているところだ。だが、状況から見て巻永次本人とみて間違いはないだろう」

「何よそれ、酷いわね。でもそんな状態で誰が見つけたの? まさか本人が通報したわけじゃないでしょ」

「第一発見者はこのマンションの管理会社の男で、遠方に住む親族に頼まれて部屋に入ったと言っている」

「いまどき管理会社とはいえ部屋まで入るものなの?」

 私の部屋に勝手に入ったら、うんざりするくらいクレーム入れてやるけど。

「それが、その親族ってのがえらく面倒な奴らしい。最初は入れないと断ったそうなんだが、何かあったら訴えてやるとか喚くもんだから仕方なく部屋に入ったそうだ」

「それで、すぐに冷凍庫から見つけたの? そいつが犯人なんじゃない?」

 普通、冷凍庫に死体が入ってると思う人間はいない。それを知っている犯人以外は。

 だが、それにも理由があったようだ。

「俺もそう思ったんだが、詳しく聞くとどうもそうじゃなさそうだ。そいつは一旦部屋を見て誰もいないと連絡したそうなんだが、親族はそれで納得しなかったんだと。毎日見に行けと言われて、渋々従ったそうだ」

 なんだそれは。いい年してモンスターペアレントか、クレーマー体質なのか。自分で見に行けよ。

「律儀ね。私なら、適当にフェードアウトするわ」

「俺もそうする。それでな、そいつはしばらく毎日見に行ったそうなんだが、ある日床に何かを擦った跡があることに気付いた。そして、その跡は風呂場からキッチンの冷蔵庫前まで続いていた」

「いやなことに気付いちゃったわけね」

 そのおかげで事件が発覚したわけだから、こちらとしては助かるんだけど。

「まあそいつも最初は冗談半分だったらしいがな。まずは風呂場を開けたが誰もいない。まさかと思って冷凍庫を開けたら変な袋が出てきて、興味本位で開けたら大当たりって訳だ」

「うへぇ、最悪ね」

「あとは現場で話するから、まずは向かってくれ。住所はこの後メールする」

「了解。すぐに行くわ」


 マンションに到着した私は、同僚と合流して現場検証に参加した。

 現場は名古屋市北区K町、Lマンションの最上階。現場に着くまでに巻永次の親と連絡が付いたそうで、いくらかの情報が得られていた。

 親族は福井県在住で、巻永次だけが名古屋に住んでいるそうだ。転職か何かかと訊くと、そうではないと否定された。詳しく聞くと、どうやら無職だったらしい。無職にしては良いマンションに住んでいるが、この親が地元では有数の資産家らしいので所謂すねかじりだったのだろう。羨ましい限りだ。

 巻永次は親族との親交はほとんどなく、普段は連絡をほとんど取っていなかったという。ではなぜ今回に限って連絡を取ろうとしたのかと聞くと、家の用事で人手が入り用になったという理由だった。だが、何度連絡しても何の音沙汰も無く、こんなことは今まで無かった為さすがに心配になり、管理会社へ確認を()()()()()のだという。

 同僚から話を聞いた後、現場を確認する。

 部屋はぱっと見は荒らされた形跡はなかったが、第一発見者の言う通り風呂場から冷蔵庫前まで擦り跡が付いていた。また、リビングの床や家具にも複数の傷跡が残っていた。犯人と被害者が格闘して付いたものだろうか。その割にリビングが妙に片付いていたから、犯人が痕跡を隠蔽していったかもしれない。

 リビングの棚の上には、秒針が止まった置時計だけが置かれていた。電池切れかと思ったが、鑑識によるとどうやら壊れているらしい。置時計にはカレンダー機能が付いており、4月18日金曜日、19時32分を示していた。この時間はいったい何を意味しているのだろうか。犯行日時であれば良いのだが。

 まあ、まずは鑑識の報告を待つことにする。何か、犯人に繋がる痕跡が見つかるかだろう。しばらく現場を観察した後、現場を後にした。


 署に帰る車の中で、最初に感じた懸念が形になっていく気がしていた。被害者をバラバラにするだけでなく、冷凍庫に入れるとは。凄惨極まる殺害方法で、強い殺意と執念にも似た何かが感じられる。

 なぜ、そこまでしたのだろうか?推測はいくらでも出来るが、先入観を持つと捜査に影響する為、まだ事実を受け止めるだけにしておく。

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