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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
一章:島津 前 1
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終わる過去

ややグロいです。

苦手な方はお気をつけください。

 彼女はふうっと大きく長い息を吐くと、よろよろと立ち上がりパーマを一瞥してから何かを探すように部屋の中を歩き回っていた。そして、風呂場を見つけると小さく頷いてからリビングに戻った。彼女は、死体になったパーマの元へ行くと両足を持ち引きずり始めた。どこへ行くのかと眺めていると、風呂場の方へ向かっているようだ。

 苦労の末パーマを浴室に運び込んだ彼女は、肩を上下させ荒い呼吸を繰り返す。そして、少しのあいだ息を整えると、再びリビングへ戻りボストンバッグを探り出した。彼女は、中からいくつもの物を取り出す。緑のボディの電動のこぎり、裁ちばさみ、それにビニール製ゴミ袋の束が出てきた。それらを握りしめ、彼女は再び風呂場へ向かった。

 風呂場に入ると、彼女はおもむろに服を脱ぎだした。目のやり場に困るが、好奇心には勝てず彼女を見る。反対を向いた彼女の滑らかな白い背中に、薄紅色の模様が刻まれていた。それは、大きな傷跡だった。幼い頃に負った傷だろうか。

 俺がその背中に見とれていると、彼女は工具類を持って浴室に入った。彼女は裁ちばさみを手にパーマの元にしゃがみこむと、パーマの服を切り剥ぎ取っていく。袖からはさみを入れて、ジョキジョキと服を切っていく。ズボンは硬くて切れなかったのか、ベルトを外して脱がしていた。

 全裸になり浴室に横たわるパーマを前にして、次は電動のこぎりを手に取った。彼女の唾をのむ音が、浴室に響いた。俺もつられて、喉を鳴らす。のこぎりの刃を右腕の付け根に押し当てる。彼女は何度か深呼吸をした後、ついにスイッチを入れた。

 この世の光景とは思えなかった。電動のこぎりの低く唸るような駆動音が響く中、浴室が赤く染まっていく。周囲に肉と骨が散る。


 彼女は、苦労しながらも5分ほどで切り離すことに成功した。そして、同じように左腕を切断した。切断した腕を浴槽内に避け、次は右足に移った。こちらは、切り離すのに腕の倍の時間が掛けていた。左足も同様に切り落とす。最後に彼女は、首を切ろうとした。パーマをうつ伏せにして、背中側から刃を当てる。すでに躊躇いなど無くした彼女は、感情の灯らない表情でスイッチを入れた。

 途中、のこぎりの歯が折れてしまったが、彼女は動じる様子もなく替え刃を取り出して作業を再開する。そして、パーマの首は胴体から切り離された。最後にシャワーで血を流して、地獄のような作業は終わった。

 あまりの生々しい光景に、気持ちが悪くなってきた。だが、この先何があるのかという興味が勝り、我慢して見続ける。

 彼女は次にゴミ袋を広げ、バラバラになったパーマを部位毎に入れ始めた。液体が漏れないように二重、三重に袋で包み、最終的に五つの袋詰めが出来上がった。作業を終えた彼女は、シャワーを浴びて自身についた汚れを洗い流す。そして、浴室についた汚れも洗い流し、風呂場を出た。

 風呂場から出てきた彼女は、パーマの入った袋詰めをキッチンまで持っていく。袋はかなりの重量があるようで、彼女は一袋ずつ抱えて運んだ。恐らく胴体が入っている袋は持って歩くことが難しかったのか、引きずっていた。

 次に彼女は、冷蔵庫の前に立つ。業務用かと思えるほどの大きな冷蔵庫だ。彼女は冷凍室を開けると、なぜか中に入っていた物を外に出していく。冷凍室が空になると、今度は袋詰めのパーマを入れ始めた。五つ全て入れ終わると、まだ少し空いているスペースに先程外に出した物を戻し、入り切らない分は冷蔵室に放り込んだ。冷たくなったパーマを更に冷やして、腐敗防止だろうか。

 一連の作業を終えると、今度は散らかった部屋の掃除を始めた。パーマがかなり暴れた為、色々なものが散乱している。皿やグラス、ワインボトルの破片を拾い、零れたワインを拭いて机の位置を直す。ゴミは、全て服と一緒にゴミ袋へ放り込む。

 更に、棚の上にあった腕時計とアクセサリー類を掴んで全てビニール袋に入れて、それをボストンバッグの中へ乱暴に押し込んだ。強盗が目的だったのか。しかし、それなら眠らせるだけで殺す必要はない気もするが。金目の物をバッグに入れたら、今度は置時計を手に取る。見ると、秒針が止まっていた。どうやら棚から落ちた衝撃で壊れたようだ。

 時計の示す時刻は、19時32分。パーマがこの世を去った時間だ。

 彼女は、しばらく考えるように俯いていたが、これもビニール袋で包みバッグに放り込んだ。

 その後、証拠隠滅のためか時間をかけて入念に掃除をする。机やドアの取っ手など、彼女が触った場所を念入りに拭う。浴室の排水溝に残った髪の毛やパーマの肉片を取り除き、丹念に洗い流す。そして、掃除が終わり彼女は部屋の中を見渡す。机や棚の下などに落とし物が無いか確認するが、大丈夫と判断したようだ。

 ふと彼女の耳元を見ると、左耳のイヤリングが無くなっていた。だが、彼女は気付いていない様子だ。どこかに落としたのだろうか。

 服を着て荷物をまとめた彼女は、周囲に人がいないことを確認してから部屋を出た。音が立たないように、扉をそっと閉めて鍵を掛ける。誰もいない廊下を掛けるように通り抜け、エレベーターホールまで辿り着く。

 ボタンを押して、エレベーターの到着を待つ。到着を待つ間、落ち着きなく何度も周りを見回していた。やっと到着したエレベーターで一階まで降りると足早に玄関を出た。マンションから歩道へ出る際も、辺りを見渡して人の流れが途切れるタイミングを見計らう。

 その後、人気のない川沿いの道に入ると、彼女はまた周囲を見渡す。すると彼女は、持っていたパーマの部屋の鍵を川に投げ捨てた。街の喧騒で、着水音は聞こえなかった。


 そして、彼女の過去は終わった。


─*―*―*―*―*─



 彼女の過去を見終えた俺は、抑えていた気持ち悪さに今になって襲われてトイレに走り便器に向かって嘔吐した。しばらくの間、嘔吐感は収まらなかった。何度目かの吐き気をやり過ごし、ようやく気分が回復した。ふらふらと席に戻って水を一口飲み、改めてさっきの光景に考えを巡らせる。俺は、恐ろしい物を見てしまったのかもしれない。

 でも、と思い直す。こんな事件が本当に起きていたら、いまごろ大騒ぎになっているはずだ。だが、まだそんなニュースは聞いたことがない。こんな凄惨な事件がニュースになっていないということは、これはきっと彼女の妄想だったのだろう。自分を納得させるために、そう思うことにした。

 しかし、妄想だったにしてもかなり衝撃的な内容だった。人は見かけによらないとはいうが、あんな美人でもこんなに深くて暗い心の闇を抱えているのか。いったい彼女に何があったのだろう。考えても仕方の無いことだ。どうせ確認は出来ないのだし。


 それにしても、こんなにひどい内容を見たのは初めてだ。今日は気分が悪いからもう帰ろう。明日からまた仕事だ。

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