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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
一章:島津 前 1
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必然の邂逅

─*─*─*─*─*─


 彼女は建物の中にいた。目の前には、惣菜が並んでいる。

 ここは、どこかのスーパーだろうか。柱に貼ってあるチラシに、見覚えのあるペンギンのマスコットキャラクターがいる。なるほど、たしかにこの圧縮陳列はあの大手ディスカウントストアか。彼女は事務服姿で、仕事帰りに夕飯を買いにスーパーに寄った、というところだろう。惣菜をひとつ手に取ってかごに入れる。

 そして、歩き出そうと前を向いた時だった。彼女は、硬直したように動きを止めた。視線の先を見ると、男が二人いた。

 男は二人とも同じぐらいの背格好で、一人は軽くパーマを当て、もう一人はツーブロックの髪型をしていた。彼女と同年代といったところだろう。酒を飲んでいるのか、顔が少し赤い。ぱっと見の印象からは、チャラいという形容が頭に浮かぶ。

 男二人は、彼女の視線に気付いたのか振り返った。二人揃って値踏みするかのように、目線を下から上へ動かす。イヤらしい見方をするなと思っていたら、ニヤつきながら彼女に近付いてくる。

 そして、パーマが声を掛けた。

「何、おねーさん、ウチらに何か用? あっ、もしかしてウチらと仲良くしたいとか? じゃあ、今から一緒に飲む?」

 パーマは、見た目通りのセリフを吐いた。

 彼女は、身体を震わせて言葉を絞り出す。

「すみません、何でもないです…」

 そう言うと、踵を返し足早にその場を去ろうとする。

 しかし、ツーブロックの方が彼女の腕を掴んで引き戻した。

「急に逃げるなんてひどいなあ。そんなこと言わずにさ、飲もうよ。奢るからさ」

 彼女は、パーマとツーブロックに挟まれる格好になった。

 しばらく押し問答していたが、酔った二人は離してくれない。周りの人も、遠巻きに眺めるだけだ。見ているだけで、干渉できないのがもどかしい。

 俺が何も出来ず歯噛みしていると、近くを通った警備員が見つけてくれて駆け寄って来た。状況を察した警備員が、彼女と二人の男を引き離す。

 離れ際、パーマが手を振りながら彼女に向かって声を掛けた。

「ちぇっ、またねー」

 こんなところでナンパされて、美人も大変だな。

 しかし、これの何に心を動かされたのだろう。まだ分からない。


─*─*─*─*─*─



 そこで過去が一旦途切れた。やはり、続きがあるのか。

 場面が切り替わった。



─*─*─*─*─*─


 彼女は、またあの店にいた。同じ惣菜売り場だ。

 どういうわけか、あのパーマと向かい合い立ち話をしている。ツーブロックは不在のようだ。

「お仕事は投資家って言ってましたけど、どういうことをされているんですか?」

 彼女がパーマに向かって聞く。その顔には微笑みが浮かんでいた。

 一体、どういう展開なのか。いつの間に、立ち話するくらいの仲になったのだろう。もしかして、このパーマと良い仲になっていく過程を見せられているのだろうか。

 パーマは、得意げに答える。

「簡単なもんさ。家でパソコン見ながら、適当にマウスをクリックするだけだよ」

「投資って難しいって聞きますけど、簡単に出来ちゃうなんて凄いです。きっと、才能があるんですね」

 彼女は、パーマの言葉を額面通りに受け取ったようだ。好意を持たれていると、何でもポジティブに捉えて貰えるのか。パーマのことが羨ましくて嫉妬で吐きそう。

 彼女は、続けて質問をした。

「お仕事をしてない時は、何をされているんですか?」

「うーん、ネット見たり、配信で映画見たりするのがメインかな。あとはトレーニングルームがあるから、そこで筋トレしてるな。大抵の物が家に揃ってるから、買い物以外はほとんど家から出ないことが多いんだ」

 それはつまり、程度の良い引きこもりということでは。もしかしてこの男、投資家を名乗ってはいるが、本当のところは無職ではないか。

 だが、彼女は気に留める様子もない。

「そうなんですね。余裕のある生活って憧れます、羨ましいです」

 憧れると来た。好意とは恐ろしい。

 彼女は、更に質問を続ける。

「地元って、この辺りなんですか?」

「いや、地元は県外でさ、何にも無いからこっちに来たんだ。アイツも同じだよ。同級生なんだ」

 アイツというのは、この間のツーブロックのことだろうか。

「そうなんですか、お二人とも仲良いですよね」

「まあね、アイツとは長いからな。連れと呼べるのはアイツぐらいだよ」

「私も地元は遠くなんですけど、友達に会えないのが寂しくって。地元が恋しくなったりしませんか?」

 この質問に、パーマは嘲笑めいた表情で答える。

「全然。地元の奴らとは何か合わなくてさ、アイツら皆んな馬鹿ばっかだから。こっちで誰とも付き合わず、たまにアイツと遊ぶぐらいが楽でいいね」

「へえ、そういうのも良いですよね」

 彼女は何を聞いてもパーマを褒めそやす。こんな奴のどこが良いのだろう。

 それから少し話をして、彼女はパーマと別れた。

 前回に比べて、パーマの印象がだいぶ違った。酔っていないと分別があるのか、それとも複数人だと気が大きくなるタイプだったか。まあ、どうだっていいのだが。

 ふと彼女を見ると、口元が緩んだような気がした。


─*─*─*─*─*─



 また、場面が切り替わる。

 三度目だが、まだ続くのだろうか。過去最長になりそうだ。それだけ強い思いなのかもしれない。とりあえず、最後まで見届けよう。



─*─*─*─*─*─


 今度もまた、同じ場所だった。彼女の会社帰りに、総菜売り場前で会うのが定番なのだろう。そう思うと、微笑ましい関係ではないか。

 彼女はまた、パーマと向かい合い立ち話をしている。完全には心を許していないからか、まだ少し表情に硬さがある。あんな出会い方をしたのだ、それもそうだろう。

 しばし雑談したのち、彼女がワインの話題を出したのを切っ掛けにパーマが切り出した。

「それよりさ、ウチ近いんだけど今度アイツも呼んで一緒に飲もうよ。こう見えて結構ワインにはうるさくてさ、ウチのワインコレクション見たら驚くよ。なかなか飲めない希少なヴィンテージが揃ってるんだ」

「良いですね。ぜひご一緒したいです」

  言いながら儚げな微笑みをパーマに向けるが、次の言葉を出す前に目を伏せてで言い淀んだ。

「あ、でも…」

「なに? どうしたの?」

「いや、ちょっと言いにくいんですけど、私、あの人少し苦手で。出来れば二人で飲みたいな、なんて」

 伏目がちに、はにかみながら言う彼女。かわいい。一度で良いから俺も言われたい。

「あ、そうなの? もちろん、もちろん! そうしよう! じゃあ、日付け決めちゃおうよ。俺はいつでも良いんだけどさ、カナイさんは平日仕事だよね。あ、でも早い方が良いから、来週の金曜日とかどう?」

 パーマが興奮しながら提案する。彼女はカナイさんと言うのか。

「良いですよ。そうしましょう」

 彼女は、嬉しそうに頷いた。

「よしっOK、じゃあ19時ちょうどにコンビニで待ち合わせね」

 パーマが下心丸出しの顔で予定を告げる。

「分かりました。じゃあまた来週、楽しみにしてます。私も何かワイン持っていきますね」

 そう約束をして、彼女はパーマと別れた。


─*─*─*─*─*─



 そしてまた場面が切り替わる。結果から言うと、次が最後の光景だった。


 そして俺は、()()することになる。

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