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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
七章:島津 前 4 / 新開 真 4
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新開真:事件の真相

 島津君と一緒に金居香織と会ったあの日から二週間後、私は金居香織に会いに来ていた。今度は逮捕するために。

 

「金居香織、()()()()()()()()()()()の容疑で逮捕する」

 金居香織は、抵抗しても無駄と悟ったのか大人しく従った。


 彼女を署に連行する車の中で、先日の喫茶店での島津君との会話を思い返す。


***


「被害者は、二人いたんだ」

 急に黙ったかと思ったら、島津君がわけの分からないことを言い出した。

「さっきから本当に何言ってんの、疲れてるんじゃない? 大丈夫?」

 無理に付き合わせたせいだろうか。私の心配をよそに、島津君は首を横に振る。

「大丈夫だって、むしろ今は頭が冴え渡っているぐらいだ」

「そう、じゃあ発言の意味を教えてくれるかしら」

「そのまんまの意味だ、被害者は二人いた。そもそも、俺が見ていたのは巻永次じゃなくて、もう一人の被害者の殺害現場だったんだ」

 何を言っているのだろう。やはり疲れておかしくなってしまったのか?

「どういうこと? もう一人って誰のことよ?」

 島津君に説明を求めると、興奮した様子で答えた。

「最初、店には男が二人いたって言っただろう? 一人が巻永次でもう一人がパーマの男なんだよ。もう一人の被害者はそいつで、俺が見ていた殺害現場もそいつのだったんだよ!」

 これしかないといった口調で言い切った。

 もう一人? パーマの男? いったい誰のこと? どういうことなの?

「ちょっと、自分だけ理解してないで、もう少しわかるように説明してよ!」

 叫ぶように言うと、私の嘆願がやっと耳に入ったのか島津君は落ち着きを取り戻した。

「ごめんごめん、つい興奮しちゃったよ。探偵もきっと全てが解決したときは、こんな風に興奮したんだろうな。それで、結論から言うと金居香織は二人殺しているんだ。一人は巻永次、そしてもう一人は俺が彼女の過去を見たときに殺されたパーマの男だ。ずっと俺はパーマの男が巻永次だと勘違いしていたんだ」

 薄っすらと理解はできるが、それでもまだ腑に落ちない。それに、もしそうだったとしても重大な疑問が残る。

「でも、何で島津君はパーマ男の部屋しか見てないのに、巻永次の部屋のことが分かったの? 最上階に住んでるとか、置時計があったこととか、それに冷凍庫に詰められてことだって。置き時計の時間までぴったり合ってじゃない。これはどう考えれば良いのよ」

「まず、巻永次が住んでいたのは何階だ?」

「だから、最上階よ。最上階の()()()よ」

「やっぱり。俺が見たのも最上階だったが、パーマが住んでいたのは15階だ」

「えっ」

 私が絶句していると、島津君が続ける。

「置時計は彼女が持ち去っていた、パーマの家から。てっきり俺は、彼女が後で置時計を元に戻したものだと思っていた。だけど、部屋の鍵は確実に川へ捨てていた。理由はわからないが、彼女はそれを巻永次の家に置いたんだ」

 島津君は息継ぎをするように唾を飲み込んだ。

「最後に冷凍庫の件だが、それは簡単な話だ。二人は全く同じ方法で殺された。二人ともバラバラにされて、冷凍庫に詰められた」

「なにそれ、そんなこと気付けるわけないでしょ」

 いつだったか島津君が言っていた、機械の喩えが頭に浮かんだ。知らない部品が混じっていたどころか、最初から別の部品しかなかったのだ。こんなのわかるわけがない。

「ところで、さっきから言ってるそのパーマとやらは、どこの誰だか分からないの? 被害者の家を見てるんでしょ? せめて、住所ぐらいは分からない?」

 島津君は頭を掻きながら申し訳なさそうに答える。

「さっきからずっと考えてたんだけどわからないんだよな。マンションを見ればわかると思うんだけど」

「マンションをしらみ潰しに探せばいつかは当たると思うけど、条件に合うのをピックアップするだけでもかなり掛かりそうね。何か他にもっと、そのパーマ男に関する手がかりは無いの?」

 島津君は答えない。腕を組み、目を瞑って手がかりになることがないか記憶を辿っている。

 そうして五分ほど経ったとき、「あっ」という声と共に目を開けた。

「置時計だ。置時計の購入者を調べれば、パーマに行き着くんじゃないか? 確かアレって腕時計を買った人だけが貰えるノベルティだろ? そんな店なら購入者の情報を管理してないかな」

 置時計は元から巻永次の物だと思っていたから、入手履歴まで調べていなかった。

「冴えてるじゃない、すぐ調べないと」

 そう言って、私は席を立ち駆け出した。

 

 店を出て車を走らせているときに思い出した。勘定を払うのを忘れていた。でも、急いでいるからごめんね島津君。そう心の中で呟いてアクセルを踏み込んだ。


***


 その後、時計屋から手に入れた置時計の入手者リストから、その人物は特定された。名前は刈上二郎。私が、福井県の中学校で名前を聞き、マンションまで訪問した人物だった。

 刈上二郎の部屋に入り、冷凍庫を確認すると、バラバラになったパーマ男改め刈上二郎が発見された。そして、刈上二郎の口の中からイヤリングが見つかり、解析すると金居香織のDNAが検出された。これが決定打となり、金居香織を逮捕するに至った。

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