表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
七章:島津 前 4 / 新開 真 4
27/32

島津前:最期の抵抗

 前回新開と話をした翌週土曜日の昼過ぎ。俺は、喫茶店で新開と共に金居香織と向かい合っていた。

 新開が挨拶をする。

「何度もすみません、また少しお話を聞かせてください」

「いえ、大丈夫です、宜しくお願いします」

 金居香織は、緊張した面持ちで答えた。そして、戸惑いを隠せない表情で俺の方をチラ見すると当然の疑問を口にした。

「こちらの方も刑事さんですか?」

「そのようなものです」

 何と言って良いのか分からないので誤魔化す。ジーンズにポロシャツはさすがにラフ過ぎたか。新開にも、もう少しTPOを考えろと苦言を呈された。仕方がないじゃないか、一般人なんだから。

 軽く挨拶をすると、店員が注文を取りに来た。

 新開はメニュー表を見ることもなく注文を告げる。

「今日はアイスコーヒーだけにするわ。普通サイズでお願い」

 なぜか()()に力が入っていた。どうしてだろう。金居香織もアイスコーヒーを頼み、俺はカフェラテを頼んだ。

 注文の品が来る間、新開主導で世間話をしていた。俺が喋らなくても良いように気を遣ってくれてたのだろう。と思ったが、新開はこの間の酒屋が良かったとか、おすすめの酒は何かないかとか、趣味全開で話している。本当にただ聞きたくて聞いている気がする。相手は犯人なのに、まるで緊張感がない。いつもこうなのか。

 そうこうしているうちに、注文の品が来て本題に入る。が、今日の俺の目的は彼女の過去を見ることなので、事情聴取の内容は重要ではない。新開が事情聴取を開始するのを横目に、俺は金居香織の過去を見る。

 果たして、彼女の記憶は上書きされてるだろうか。殺害現場なんて何度も見たくはないが、今度ばかりは見れるように祈った。



─*―*―*―*―*─


 ここは……惣菜売り場だ。辺りには見覚えのある圧縮陳列が。

 その前で、金居香織がパーマこと巻永次、そしてツーブロックの二人組に絡まれていた。押し問答をしているところに警備員がやってきて、彼女と二人を引き離していた。

 よかった、記憶は更新されていないようだ。やはり殺人事件ともなると、通常よりもずっと心に残るのかもしれない。


***


 暗転して、次の場面に移った。

 彼女と巻永次の二人が話をしていた。彼女は、巻永次が普段何をしているのか、またどういった交友関係があるのかを聞き出している。好意的に会話をしていると思っていたが、単に情報を引き出して機を伺っているだけだったのだろう。

 彼女は、別れ際に口元を緩めていた。やはりこの時にはもう殺害を計画していたのかもしれない。だが、新たに気

になるようなことはなかった。


***


 また次の場面に移った。

 ワインの話をきっかけに、巻永次が彼女を家に誘っている。巻永次が()()()ことツーブロックも呼ぼうと提案するが、彼女はそれをやんわりと拒否する。そして、彼女と巻永次は、次の金曜日にコンビニで待ち合わせの約束をして、店を後にした。ここも、特に気になることは見当たらなかった。


***


 そして、ついに最後の場面だ。

 彼女は、コンビニの前で待ち合わせをしている。そこに、巻永次がやってきた。巻永次は相変わらずのパーマ頭だ。この後殺されるのだと思うと、複雑な気持ちになる。何度も見て少しだけ愛着が湧いたパーマもこれで見納めか。

 そして、二人は揃って歩き出した。辺りを見回すが、やっぱり俺にはここがどこだか分からない。遠くで救急車の音が聞こえるだけだった。

 二人は、巻永次のマンションに到着した。オートロックの玄関を抜け、エレベーターに乗って最上階まで上がり、1501号室に入った。部屋に入った後は適当に会話をしつつ、晩餐の準備を整えていた。

 棚の上にある置時計を見る。今の日時は、4月18日金曜日、19時7分で間違いない。同じく棚の上に置いてある腕時計を見たが、どれも同じ時刻を示していた。やはり、この置時計は間違っていないはずだ。

 乾杯をした後、少しして巻永次が眠気に襲われる。そしてそのまま机に突っ伏して、最後の眠りについた。彼女は、その様子を冷たい目で観察していた。

 問題の場面が始まった。

 巻永次の首にロープが掛かり、彼女が首を絞める。巻永次の文字通り最後の抵抗で、机や棚の上の物が散乱した。

 前回は驚きのあまりただ茫然と眺めるだけだったが、今回は何一つ見逃さないようにしっかりと目を見開き脳に焼き付ける。

 目の前では、巻永次が必死で腕を振り回している。

 そこで、あることに気付いた。


 ……そうか、()()()()()()()()()()()。道理で部屋の中から見つからないはずだ。


 巻永次の右手が、彼女の頭を掴もうと掠めたときだった。それまでそこにあったはずの左耳のイヤリングが消え去っていたのだ。もう一度巻永次の右手を見ると、固く拳を握りしめている。そしてその拳を、自分の口元へ持っていった。

 抵抗虚しく力尽きた巻永次は、歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべて息絶えていた。だらりと垂れた右腕の先、開かれた右手の中にイヤリングは無かった。


 巻永次は、イヤリングを()()()()()()()のだ。


 おそらく咄嗟の行動だったに違いない。犯人に繋がる証拠を気付かれずに残すため、最期の力を振り絞ってイヤリングを口の中に隠したのだ。

 その後、金居香織は前回と同様、風呂場で巻永次の服を剥ぎ取り解体して袋詰めした後、冷凍庫にそれを詰め込んだ。そして、部屋を片付けると金目のものと置時計をカバンに詰めていた。

 すべての作業を終えた彼女は、部屋を出て鍵を掛けてからエレベーターで降りると、マンションから出て川に鍵を投げ捨てた。


─*─*―*―*―*─



 やはり、置時計は彼女が持ち出していた。しかし、新開からは巻永次宅に置時計はあったと聞いている。わざわざ犯行現場にもどって返したのだろうか。一体なんのために? あれ、でも鍵は川に捨てていたのに、どうやって部屋に入ったのだろう。

 新たに疑問が増えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ