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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
六章:新開 真 3
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中学時代 後編

「二人が遂に、彼女自身に危害を加え始めたのです。最初は、すれ違いざまにぶつかって転ばせたり、道端を歩く彼女に対して石を投げたりエアガンを打ったり。それだけでも十分に酷いのですが。そして、きっかけとなる事件がありました。

 彼らは、人気のないところに彼女を呼び出して暴行を働いたんです。何があったかは分かりませんが、彼女は背中に大きな傷を負いました。全治三ヶ月以上だったと聞いています。でも、表向きは彼女が自分一人でそこに行って、不注意で怪我をしただけ、とされました。彼女のご両親は当然抗議しましたが、結局、どうすることも出来ませんでした。それから一度も学校に来ることなく、退院とともに転校していきました」

 今の日本でこんなことがまだあったとは。腹の底が煮えたぎる思いがする。

 ただ、これが彼女の犯した殺人とどう関連するかは分からない。子供の頃のストレスで、人格形成に影響があったということか? でもイコール殺人とはならないだろう。今のところ彼女の人となりを知れたというだけだ。

「お話いただき、ありがとうございます。ちなみに、その二人は今どうしているんですか?」

 二人から、彼女に繋がる情報が得られるとは思わなかった。話の流れで気になったので聞いてみただけだった。だが、結果的にはこれが一番の収穫になった。

「その二人は1~2年ほど前に県外に出て行ったはずです。たしか、愛知県だったかな?」

「えっ、そうなんですか」

 もしかして、意外と近くにいたりして。

「ああ、そうそう、思い出しました。二人の越していった先は、それこそ刑事さんがいらした名古屋市ですよ」

 これは、偶然なのだろうか? それとも、いま頭をよぎった通りのことが起きているのだろうか?

 私は、その疑問を口にする。

「もしかして、その()()()()()()()()()()()()という名前ではないですか?」

「そうです。なんだご存じだったんですか。いや、刑事さんもお人が悪い。最初に言ってくださればよかったのに」

 そういうことか、これが動機だったのか。

 二人のせいで県外に引っ越すことになり、それが原因で家庭環境が壊れ離婚した。そして、忘れたころに再開し積年の恨みから殺すに至った。彼女の境遇を考えると、確かに理解出来なくもない。

 一人で納得していると、校長が声をかけてきた。

「どうかされましたか?」

「いえ、確認ですが、巻永次さんというのはこの写真の方ですか?」

 懐から写真を出して尋ねる。

「ええ、昔の顔しか知りませんが面影があります。確かにこの写真の人物です。あの、何かあったのでしょうか?」

 校長は何も知らないのか、不思議そうに訊いてきた。地元なのに知らないのだろうか?

「実は、巻永次さんが自宅マンションで死亡しているのが発見されました」

「えっ、そんなことが……」

 校長はあまりの驚きで、二の句が継げない様子だ。

「こちらでは、話題になっていないのですか?」

「ええ、そういえば少し前になにか込み入った様子ではありましたが。恐らく体裁が悪いので、隠しているのだと思います。そうですか、彼が亡くなっていたんですか……」

 息子の死より体裁を気にするとは。

「それで、二人組とおっしゃっていましたが、もう一人の名前は何というのでしょうか?」

 分かったところで何の役に立つかは不明だが、念のため聞いておく。

「もう一人は、刈上と言います。ただ、苗字は分かるんですが、名前が思い出せなくて、いや歳をとるといかんですね。少しお待ちください」

 校長は立ち上がり、棚から卒業アルバムを取り出しページをめくる。

「ああ、ありました。名前は二郎ですね。刈上二郎(かりあげじろう)です」

 刈上二郎か。案外、島津君が見っていう男二人の内のもう一人かもしれない。一度会って、話を聞いてみるか。もしかしたら、金居香織について何か聞けるかもしれない。

「刈上さんの現在の住所は知らないですよね? 巻永次さんの件でお話を聞きたいのですが」

「そうですね、さすがに現住所までは知りませんが、でも、彼のお父さんと知り合いですから、ちょっと聞いてみます」

「聞いてもらって悪いのですが、教えて貰えるでしょうか? 先生のお話を聞く限り、あまり印象がよろしくないので……」

「大丈夫ですよ、何とかします」

 そう言って、電話を掛ける。相手はすぐ応答したようだ。

「あ、もしもし、私です。いえ、こちらこそお世話になります。はい、お電話した要件なんですが、そちらの二郎君なんですけど、ええ、そうです二郎君です。二郎君の同級生の子から、中学校の同窓会の案内を送りたいけど、住所が分からないという話がありまして、幹事の子が困っているそうで、お手数おかけして申し訳ないのですが、教えていただけませんか? いえ、やはり卒業生の子に頼られると、どうしても力を貸してあげたくなってしまいましてね。はい、すみませんがお願いします…」

 それから10分程で電話が終わり、聞き出した住所を教えてもらった。

 なぜ、校長はここまでしてくれるのだろう?

「住所を聞いていただき、ありがとうございます。とても助かりました。ところで、なぜここまでして頂けるのでしょうか? 金居さんの過去だって、知らないと言えば、それで話は終わりだったのに。こう言っては何ですが、そこまでする義理は無いと思うのですが」

 校長は、囁くように答えてくれた。

「そうですね、多分、誰かに聞いて貰いたかったんだと思います。当時、私を含めて大人たちは何も出来なかった、いや、しなかったので誰か事情を知らない人に話をして懺悔したかったんだと思います。すみません、刑事さんにそのようなことをして。この話が何かの役に立ってくれると良いのですが……」

 言い終わると深いため息を吐き、後悔の念を滲ませていた。

 複雑な思いを胸に帰路についた。


***


 翌日、校長から教えてもらった刈上二郎の住居を訪ねた。

 金居香織のアパートと同じくH町にあり、彼女の家からは5分ほどの場所に位置する。巻永次の住居と同様に立派な造りのマンションだった。きっと、刈上二郎も巻永次と同じく、親の脛を齧っているに違いない。

 インターホンを押したが返事は無かった。今日は留守なのだろう。しょうがない、出直すことにする。

 それから、翌日、翌々日と訪れたが、いつ来ても留守だった。居留守を使っているな、これは。そうとしか考えられない。

 会えたときには、ちょっといじわるでもしてやろうか。金居香織との関係を聞いていたせいか、黒い感情が湧いてくる。明日は、金居香織と会う日だからその後でまた来よう。それまで、首を洗って待ってなさい。そう心の中で呟いてマンションを去った。

 それにしても、動機を探るためにまさか県外へ赴くとは思わなかった。だが、そのおかげで金居香織と巻永次の接点が判明した。労力に見合う十分なリターンがあったと思う。

 ただ、動機は分かった、分かったのだが、一体どうやって巻永次を殺したのだろうか? いや、どうやったかはすでに知っている。知りたいのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということなのだが……。

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