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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
五章:島津 前 3
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能力の真偽

―*―*―*―*─*─


 見覚えのある部屋に居た。新開の部屋だ。新開は前と全く同じ姿勢でソファに座って酒を飲み、テレビを見ている。

 今のところ前回との違いはない。記憶が更新されていないのだろうか?

 人の記憶はうつろいやすい。どれだけ印象に残ったとしても薄れて行くし、上書きされるから、一ケ月も経てば大体の人の見れる過去は変わっていく。()()()()()()でもあれば別かもしれないが。

 以前との違いは何か無いかと探すと、手に持っている酒が今日は日本酒だった。たしか、前はビールだったはずだ。飲んでいるは三河地方の地酒か。同僚がなかなか手に入らないと言っていた銘柄じゃないか。

 いや、酒だけではまだ分からない。他も探そう。

 新開はテレビを見ていた。そうだ、テレビ番組が違っていれば確実だ。画面を注視すると、確かに前回とは違っていた。今日は、映画を見ているようだ。画面の中にはスーツ姿の白人俳優がいた。彼は、クラブミュージックのリズムに乗って、ひたすらに銃を撃ちまくっている。

 これは、飼い犬を殺されて過剰なまでに復讐する、ストレス解消に丁度良いあの映画か。

 新開を見ると、前傾姿勢で酒瓶とつまみのイカを握りしめ、瞬きを忘れるほど見入っていた。確かにこの映画は面白いが、そこまで興奮するほどか? 新開が少し怖くなって来た。

 案の定、それ以降進展はなかったので、ただ単に映画に興奮しているだけだった。

 もう少し、こう、何かないのだろうか。こいつは。


―*―*―*―*─*─



 新開に見たものを伝えると、さすがに恥ずかしかったのか耳を赤くしていた。……耳を赤くしてるのって、何か良いな。いや、関係ない。

 新開は、俺の能力の真偽を測っている様子だ。

「地酒はこの間寄った酒屋さんで偶々見かけて買ったけど誰にも言ってないはずだし、映画はネット配信で適当に目に付いたのを見ただけだし、どっちも島津君には知りようがないからな」

 誰に言うでもなしにぶつぶつと呟いている。しばらく考えていたかと思うと、ため息のような長い息を吐いてこちらを向いた。

「うーん、わかったわ、島津君のこと疑うの、やっぱりやめるわ」

 意外に素直に受け入れてくれたようだ。

 まさか幻覚を見ていた、なんていう落ちでなくて安心する。俺の頭はまだ正常と思って良いらしい。

 

 それから、これからの方針について議論をしたが、一向に考えがまとまらないまま時間だけが過ぎていった。

 しばらく無言のままいると、痺れを切らしたように新開が言う。

「一から考え直した方が良いかも知れないわね」

 俺もそう思う。きっとまだ何か見落としがあるはずだ。

「そうだな。じゃあ俺が見た内容をもう一回精査するか。と、言いたいところなんだけど、犯人の過去を見てからもう二ヶ月以上も経っているし、正直あんまり覚えていないんだよな」

「そんなこと言わないでよ、島津君が頼りなのに。どうにか思い出せないの?」

「そう言われてもな。小説の探偵だったら、反則みたいな記憶力持ってて、いつでも何でも思い出せるんだけど。そんな記憶力普通に人間には備わってないって。覚えてるのは大まかな流れだけで、細部もう朧気にしか覚えてないな」

 探偵のことが妬ましく思える。何で全部記憶してるんだよ。卑怯だぞ。

「何とか絞り出してよ」

 新開は懇願するように言ってくるが、無理なものは無理だ。

「無理だよ。あっ、もう一回犯人に会えないかな? 記憶が上書きされてなければ、また同じ過去が見れるかもしれない」

 可能性は低いが、それでも殺人なんていう強烈な記憶ならまだ上書きされていないかもしれない。

 新開はしばし考え込んでいた。

「そうね、あんまり気乗りしないけど、それしかなさそうね。なんとかしてみるわ」

 そう言って、何かを決心するようにビールを流し込んだ。

「犯人が分かってるのに、何も出来ないなんて。もどかしいったらないわ。じゃあ、金居香織と会う算段をつけるから、決まったらまた連絡するわ」

 それで今日の話は終わったのか、新開はビールをお替わりして、手羽餃子なるものを注文していた。

 しかし良く飲む。俺も酒は嫌いじゃないが、すぐに摂取限界が来て体が受け付けなくなるので少しだけ羨ましい。

 美味しそうに飲み食いしている新開を眺めていたら、こっちに気付いて「何? 手羽餃子欲しいなら自分で頼んでよね」などと言っている。こうやって見ていると、悩みなんてなさそうで、微笑ましくすらある。

 そうして、二度目の話し合いは終わった。

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