呼出し再び
新開と話をして一週間が経った。七月も下旬にさしかかり、暑さが日毎に増していく。
あれ以来、新開から連絡は無い。捜査は上手く言っているのだろうか。そんなことを考えながら、俺は会社でパソコンのディスプレイをぼんやりと眺めていた。
しかし、今日の会議は散々だったな。部長もあんなに怒らなくても良いじゃないか。しかも課長は庇うどころか、後ろから刺してくるし。この前見たグレースーツより酷くないか。今日はもうやる気がしないから、仕事をするフリして、定時までやり過ごそう。
ひたすらエクセルを開いたり閉じたりしていたら、新開から電話が掛かって来た。噂をすればというやつか。通話ボタンをタップする。
「もしもし? 私、私」
詐欺か。着信時に名前が分かるとはいえ、名を名乗れ。
「どうした? ちょっと声が聞きたくなったとか、そういう電話か?」
「馬鹿ね、ちがうわよ」
あれ、思ったより怒られない。真面目な電話だったか。
「この間の件、島津君の情報を元にいろいろ調べたんだけど、考えれば考えるほど彼女の犯行は不可能に思えてきてね。ちょっと参ってるのよ」
「どういうことだ?」
「電話だと長くなるから、また前の店で話をしましょう。明日の夜、前と同じで18時ちょうどね。土曜日だから暇でしょ」
暇と決めつけ、予定をねじ込んでくる。
「あ、その時間、髪を切りに行くから暇じゃないんだけど…」
そんな俺の言い分は通じなかったようで、押し切られる。
「なんで昼間にしとかないのよ。じゃあ、それキャンセルね。残念だけど。こっちは殺人事件が解決するかどうかが掛かってるの。だから、明日でお願いね」
日中に出歩きたくないからだよ。これはもう、何を言っても無駄だな。諦めて従うことにする。
「はいはい、わかりました。行きますよ」
「じゃあ、遅れないように!」
新開はそれだけ告げると、返事をする間もなく電話を切った。
***
次の日、あの手羽先屋で新開と再会した。
今回は乾杯もソコソコに、事件について話し始める。
「島津君が見たのって、この写真の彼女で合ってる?」
新開は、スマホで写真を見せてきた。そこには、俺が見たあの女性が写っていた。
「うん、確かにこの人だったよ」
「本当に? ちゃんと見て。本当に彼女?」
新開は疑いの眼差しを俺に向ける。
「すごい疑うな、本当だって。何かあったのか?」
「うん、それがね、この間教えて貰った情報から、彼女のこと調べたのよ。なんてったって、こっちはもう犯人が分かってるから、すぐに解決するだろうと気楽に考えてたのよ。どうせすぐに証拠が見つかるって。そしたら、どういうわけか彼女のアリバイが成立しちゃって。もう、どうなってるのよ」
非難の目を向けて来る。
「えっ、そんなはずないでしょ。確かに彼女が犯人だよ。こんな美人そうそう見間違えないって」
「あっそう。じゃあちょっと長くなるけど、事の経緯を説明するわ」
そう言って新開は、この一週間で調べたことを話し始めた。




