彼女と遭う
島津君と話をした翌週から、私は聞いた情報を元に聞き込みを開始した。犯人の女と被害者:巻永次が会っていたという店を特定することが出来れば、その周辺に犯人がいる可能性が高い。まずは、二人と接触していたという警備員を探す。
正直なところ、一、二日で見つかるだろうと高をくくっていた。だが、見つからないまますでに数日が経過した。三ヶ月前から在籍している人に絞って探すが、それでもかなりの人数がいる。警備員は基本的にアルバイトで、毎日いるわけではなきすでに辞めた人もいたから、空振りになることもざらだった。
今日も、名古屋市内のドンキを巡って車を走らせる。今日こそ見つかると良いのだが。
世間は夏休みに入ったらしく、子供が駆けまわっている。私もあんな風に何も考えずに、ただただどこかにドライブに行きたい。この状況もドライブと言えなくもないが、窓の外には見どころのない景色が流れていくばかりだ。
信号待ちをしていると、手羽先屋が目に入った。先日の島津君との再会について思い出した。
それにしても、あんなところで島津君に会うなんてなんという偶然だろう。しかし、相変わらずというか、全然変わっていなかったな。島津君の様子を思い出すと頬が緩む。そういえば結局、あの時のお礼を言えずじまいだった。今更って感じがして、気恥ずかしい。まぁ連絡先は聞けたし、いつでも言えるだろう。
信号が青に変わった。よしっと呟いて、アクセルを踏み込んだ。
さて、今日こそ見つかるだろうか?名古屋市内だけ探していたが、もしかしたら市外の店舗なのかもしれない。そうだとしたら、本当に見つけられるか自信がない。そんなことを思い始める。まだまだ時間がかかることを覚悟をして臨んだが、次の店舗であっさり見つかった。
見つかったのは、ドンキ瑞穂区H町店。被害者の住む北区からはやや離れており、被害者の家から車で20分の位置にある。
件の警備員は、安田宗司さんという六十代の男性だった。元は民間警備会社に在籍していたが、定年退職後は暇を持て余すのが嫌で、地元スーパーの警備員アルバイトを始めたそうだ。
三ヶ月も前の出来事なので、見ていたとしても記憶に残っていない可能性が高い。半分諦めモードで巻永次の顔写真を見せたところ、写真を見た安田さんは頭を掻きながら上を向いて、記憶を探っていた。やはり駄目そうかと諦めかけたとき、安田さんが「あっ」と言って手を叩いた。
「思い出したよ。そうそう、そうだ、この人だ。この人見たことあるよ」
馴れ馴れしい口調で言う。
「本当ですか?」
見間違えでは無いことを祈り続きを聞く。
「うん、結構前なんだけど、確かあそこの惣菜売り場の所で若い男二人と女の人が揉めててさ。その男の一人が、この写真の人だったはずだよ。俺がたまたま通りかかって助けたんだ。
いやね、普段はあんまりお客同士の揉め事には首突っ込まないんだけど、ほら、逆ギレっていうの? こっちも殴られたりするのは嫌だからさ。だから、いつもは口頭でやんわり注意するぐらいで済ましてるんだけど、その時は、あんまりしつこそうだったから、引き離したんだ。
でね、それから何日か経って、あの男二人とお姉さんがまた話してたんだ。また揉めてるのかなって思ったら、今度は何故か知り合いみたいにしてて。あれえ、実は知り合いだったのかな? でも、なんで前は揉めてたんだろうって、不思議に思ったんだ。だからかな、その写真の人のこと覚えてたのはさ」
安田さんはオーバーな身振りで当時のことを語った。特に、嘘や勘違いをいっているようには思えなかった。島津君の話と一致する、当たりと見て良さそうだ。
「ありがとうございます。ちなみに、その女性はこの店によく来ますか?」
「そうだね、いつもじゃないけど週末に見かけることが多いかな」
「どんな特徴の方ですか? 覚えている範囲で結構ですので教えてください」
「あんまり人の特徴覚えるの得意じゃないんだけど。えーっと、たしか髪型は肩にかからないぐらいの長さで、背格好は刑事さんと同じぐらいだったな。あと、特徴というか、派手さは無いんだけどべっぴんさんだよ」
安田さんは言い終えると、私の顔を見て付け加えるように言う。
「あ、刑事さんと同じぐらいね」
しょっ引いてやろうか、こいつ。だが、かなり有力な情報を得られた。
揉め事の際の監視カメラ映像も確認したが、残念ながら二週間以上前のデータは残っていないそうだ。暫くここに通って、その女性を探すことにする。
話を聞いた翌日の夕方、丁度週末だったおかげもあってか、その女性は見つかった。女性を探す為、安田さんに付き添って貰い店内を回っていると、惣菜売り場で安田さんが「あっ、あの人だよ」と言って指をさした。その指の向かう先に彼女は居た。
なるほど、地味な事務服を着てはいるが、確かに整った顔立ちでスタイルの良い美人だ。これは助けたくなる気持ちもわかる。安田さんに礼を言って別れ、彼女に近づき手帳を出して尋ねた。
「こんばんは。私、こういう者ですけど、少しお話し出来ますか」
「えっ、警察の方ですか? 私に何の用でしょうか?」
彼女は困惑顔で答えた。
この困惑は、警察に声を掛けられたからなのか、それとも犯人だからなのか、どちらだろうか? 先入観がある為、後者に見える。
「ちょっとここでは詳しい話は出来ないので、場所を変えたいのですが、お時間大丈夫ですか?」
「えっと……はい、わかりました。大丈夫です、どこにしましょうか?」
彼女は、いやに素直に従う。そう思うのも、先入観ゆえか。
「すぐ近くに喫茶店があったのでそこにしましょう」
そう言って、彼女を引き連れ店の隣に建つ喫茶店へ入った。




