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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
三章:島津 前 2
13/32

新開の日常

―*―*―*―*─*─


 新開はどこかの部屋に居た。部屋の間取りは、よくあるワンルームの造りに見える。室内干しの洗濯物が吊るされていて、生活感に溢れている。新開の部屋だろう。窓際にベッド、隣には机があり、まんべんなく書類が散らばっている。うへえ、汚ないな。机の隣に置かれた棚には、三十インチほどのテレビが乗っていた。

 テレビ画面の中には、見覚えのある俳優が映っている。これは、今放送中の恋愛ドラマじゃなかったか。ん? このシーンは見たことがある。たしか、先週の回だったはずだ。SNSで神回だと話題になっていたから覚えている。

 テレビの反対側にはソファがあり、そこで新開がほとんど寝そべりながら寛いでいた。新開はスーツのジャケットを脱いだだけの格好で、シャツの裾がめくれて腹が出ている。帰宅してすぐにソファに崩れ落ちたパターンか。気持ちは分かる。新開は右手にビールを握りしめ、左手を忙しなく動かしてつまみを口に運ぶ。そして、顔を歪ませ目に涙を溜めていた。

 なんだ、この状況は。

 俺が見れているということは、この状況下で新開は何かに心を動かされているはずだ。だが、これはただの日常の一コマとしか思えない。しかも、記憶にも残らず過ぎ去っていくタイプの日常だ。

 そうか、きっとここから何かが起こるのだろう。

 そう思ってひたすら待つが、一向に何も起こらない。目の前では新開がだらだらと酒を飲みながらドラマを見ているだけだ。ドラマがクライマックスにさしかかると、新開はティッシュで鼻をかみながら、食い入るようにテレビ画面凝視していた。

 そして、そのままドラマの終わりと共に、新開の過去は終わった。


―*―*―*―*─*─



 まさか、これが()()なのか?いろいろな人を見てきたが、こんな過去は初めてだ。つまり、()()()()()()()()()()ということが、こいつにとって最近あった最も心動かされた状況ということになる。

 俺が言えた義理じゃないが、他に感動するようなことないのか。


***


 俺は、いま見た内容をありのまま新開に伝えた。すると、新開も流石に恥ずかしかったのか、聞いている内にほんのり赤い顔を更に赤くしていた。

「うるさいわねえ、休み中に何しようと人の勝手でしょ。というか、今週の間違いじゃないの? 何で先週なのよ」

 話題の矛先を変えるように新開が言う。

「知らないよ。先週の方が感動的な回だったんじゃないか? ちゃんと見てないから知らないけど」

「うーん、そうかなあ? 先週も今週も似たような話だったはずだけど。先週は主役の天王寺くんが叫喚地獄から這い上がってきてて、今週はヒロインの藤井ちゃんが灼熱地獄から這い上がってきてたわ。まあでも、確かにそう言われると最初の方がインパクトあったかな。どっちも泣けたけど、二回目だと感動も薄れちゃうからね」

 何そのドラマ、本当に恋愛ものか? そして、毎週同じ様なことをしているのか。あんまり突っ込むとまた話が脱線しそうだから、適当に相槌を打つ。

「ああ、そうだな」

「でも、とりあえず島津君の力が確からしいってことはわかったわ。じゃあ、島津君が見た内容教えてもらおうかしら。あ、でもその前に今わかってることだけ話しとくわ。私もちょっと整理しときたいから」

 そう言うと、スマホを取り出す。メモを見ているのだろう。

「まず、被害者は巻永次二十七歳、名古屋市北区のマンションに一人暮らしで、定職には着いていなかったようね。でも、親が資産家で、金には困っていなかったみたい。周囲には投資家って言ってたようだけど、取引履歴はほとんど無かったから、実際には親の脛齧りね。それで、あんな暮らしが出来るんだから、羨ましい限りよ」

 そういえばそんなこと言ってたな。まったく、本当に羨ましい限りだ。

「近所付き合いはほとんど無くて、――まぁこれは最近ではめずらしくもないけど――親とも二~三ヶ月に一度連絡を取れば良い方だったみたい。今回、その親がたまたま、家の用事の関係で連絡したんだけど、何回電話しても繋がらないから、心配して管理会社に見て貰ったそうなの。それで、部屋に入ってみたら、あんなことになってたってわけ」

 なるほど、俺の知っているパーマ像と一致する。新開が捜査中の事件は、俺が見たものと同じだろう。改めて考えると、とんでもないものを見てしまった。


 俺はビールを一口飲んで口を湿らせ、あの日見た彼女の過去について語った。

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