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探偵は難しい  作者: ひっこみ事案
三章:島津 前 2
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問い掛け

「なぁ新開、実は俺、()()()()()かもしれないんだ」

「えっ、なに急に。こんな時に冗談やめてよ」

 新開は、今度は俺が冗談を言っていると思ったのか、鬱陶しそうに手をひらひらと振る。やはりそういう反応になるか。当然だろう。だがそれは想定内だ。

 俺はもう一度、新開に向かって言った。

「冗談を言っているんじゃないんだ」

 新開は探るように俺に目線を送る。そして、俺の表情から冗談では無いと感じ取ったのか、ごくりと唾を飲み込んだ。

「本当…なの?」

 俺は、ゆっくりと頷いた。

「五月の連休明け、この場所で通りを歩く人物の過去を見た。その人物の行動は、ニュースで聞いた内容とまるで同じだった。新開が追っている事件の犯人に間違いないと思う」

 俺の言葉を聞くと、新開は真偽を考えるように黙って目を瞑る。そして、長く深い息を吐くと、目を開けた。

「わかった、信用する」

 俺が安堵のため息を吐くと、新開は腕時計をちらりと見てから更に言葉を発した。

「ただ、一旦署に戻らないといけないから、また後で話を聞かせて。そうね、今夜とかどう? どうせ、島津君夜も暇でしょ。じゃあ、決まりね。時間と場所はこっちで決めるわ。一時間以内には連絡するから、遅れないようにね。あっ、まだ連絡先知らないんだった。教えてちょうだい」

 滝のように言葉をうちつけ、スマホを取り出した。相変わらずこっちの都合は無視して、勝手に決めてくるやつだ。本当に変わっていないな。

「良いよ、明日も休みだし。それより、そっちこそ良いのか? 男と二人で」

 一応、気にしてやる。

「あははっ、なに言ってんの、気にしないわよ。それに、こんな仕事してると彼氏なんか出来ないしね。あっ、もしかして緊張してるの? 美人と二人でディナーが出来てラッキーね」

「気にした俺がバカだった、早く行けよ。また後でな」

「はいはい、じゃあまた後でね」

 連絡先を交換すると、新開は喫茶店を後にした。

 30分後、新開から連絡が来た。場所はここからすぐの手羽先屋だった。なにがディナーだ、ちょっと期待して損した。約束の時間までまだある。ここで本を読みながら待つとしよう。


 一時間後、小説を読み終えてさて行くかと席を立ち気付いた。

 あいつ、自分の勘定を払わずに行きやがった。


***


 手羽先屋で新開と合流し、ビールで乾杯してから一時間。事件の話をするはずだったのに、酒が入って昔話に花が咲き、その後、何故か趣味の話になり俺はミステリー小説について語っていた。

「ミステリーは好きだけど、それは物語として、エンターテイメントとして面白いから好きなんだよ。起承転結がはっきりしたストーリー、手に汗握る犯人とのやりとり。そして予想も付かない結末。たまに理不尽な展開もあるけど、それでも種明かしされると、スッキリ爽快な読後感。何故かまた読みたくなってしまう中毒性があって、ついついもう一冊と手が伸びてしまう。そんな所が好きなんだよ」

「へえ、でもミステリーって難解なトリックがウリなんでしょ? ミステリー好きって、そのトリックを解くのが好きなんだと思ってたけど、島津君は違うの?」

 新開は手羽先を頬張りながら問い掛けてくる。

 俺はもつ焼きをビールで流し込み答えた。

「トリックは好きだけど、解こうとは思わないな。そもそもさ、あんなの解ける訳ないんだよ。小説の中の探偵って、あいつらみんな絶対エスパーだろ」

「エスパーて……解けないのは島津君の知性の問題じゃないの?」

 ぐうっ、痛いところを突いてくる。

「否定は出来ないが……いや、そういう話じゃなくて。例えば、何に使われるか分からない機械があるとするだろ? その機械の部品を全部バラバラな状態で見せられて、さぁ何をする機械だ、って言われてもさ、そもそもこっちはそれが何をする機械か分かってないんだから、それこそエスパーじゃなきゃ当てられないんだよ、あんなの。それに、大体は部品が足りなかったり、ひどいときは他の機械の部品が混じってて、どれがその機械の部品かも当てないといけないんだぞ。無理ゲーだよ無理ゲー。ミステリーのトリックってのは、基本そんな感じだと思ってるから、そもそも当てようなんて思って読まないの、俺は」

 そうだ、悪いのは俺じゃない。

「なんか負け惜しみ感がすごいけど……まぁいいわ。それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

 新開は鳥皮を美味そうに食べながら言う。それ、俺が食べよう思って注文したのに。

「その前に、喫茶店で島津君のこと信じるとは言ったけど、確認のために一度私の過去を見てくれない? それで合ってたら、改めて島津君のことを信じさせてもらうわ」

「いいけど、いいのか? 過去見ちゃっても。俺がいうのもあれだけど、プライバシー的にまずくないか」

「いいのいいの、何事もまず自分で体験する主義だから」

 ほんのり赤くなった頬を緩ませて、新開は軽い口調で言う。

「わかった。一応言っとくけど、何を見ても怒らないでくれよ」

「わかってるって」

「じゃあ見させて貰うけど、そのまえにひとつ説明させてくれ。過去が見えるといっても、条件があるんだ。その人が最近、感動したとか落ち込んだとか、そういう強く心が動かされたり、印象に残った時の状況しか見えないんだ」

 俺が言うと、新開は顎に手を当てて納得した様子で口を開いた。

「なるほどね。確かに自由に過去が見れたら、もっと上手い事やってるはずだもんね。休みの日に一人で喫茶店に居たりしないか」

「うるさい。じゃあ見るからちょっと黙ってろ」

 

 そうして、新開の過去を見ることになった。

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