もこもこの子羊
目の前に大きな綿の塊が落ちていた。
手の込んだいたずらだと思った僕は、その塊を拾おうとした。
その時、塊が動いた。
綿の四隅からにょきっと足が出て、それは起き上がった。小さな子羊だった。
耳と鼻をぴくぴくさせて僕に寄ってくる。
その仕草に心を奪われた僕は子羊を抱きしめた。
あたたかい毛に顔をうずめ、もこもこの心地よさに我を忘れた。
子羊は抵抗することも鳴くこともせず、僕に抱かれた。
他に所有者がいないのなら、この可愛くておとなしい子羊を自分の物にしたいと思った。毎日この子羊に触れていたい。そう、何もかも忘れて。
それにしても、この毛はなんて良い香りだろう。
この香りはなんだったっけ?
毎日嗅いでいる気がする。
不快に感じない、花のような香り。
そうだ、これは柔軟剤だ。いつも洗濯機に投入している柔軟剤の香りだ。
でもどうして子羊から柔軟剤の香りがするのだろう?
もしや・・・・・・。
気がつくと僕は毛布に抱きついていた。
時計を見ると、起床時刻の二時間前を指していた。
状況を察した僕は子羊など最初からいなかったことに淋しさと虚しさを感じつつ、ベッドから起き上がった。
今日も僕の孤独な一日が始まった。