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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
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97 布団の中の宇宙



その翌朝。


ファイは目を開けて、布団の中で何度かパチパチ瞬きをする。


カーテンをすり抜ける朝日が、美しいブロンドを煌めかせた。

なんだ?このキレイなまつ毛の美形は………。東洋人にも西洋人にも見える。女性?


目の前に名画のようなきれいな顔がある。

少し熱い手を思わずその顔に近付け、頬を触ると一瞬で目を開けた。


そして驚く。


その瞳が深い青緑に囲まれた紫であまりにもきれいだったからだ。

まるで宇宙のような、銀河のような瞳。



「ひっ!」

「あ、起きたか?」

「はっ?!」

「…………。」

「は?は?は?」

驚愕するファイ。布団から起き上がったファイを見て、目の前の美少年も半身を起こす。


ボディープロテクターはしたままだが、上着は脱いでいる。どこまで本物なのか分からないが筋肉もしなやかだ。隣の彼女は起きてすぐ目を閉じて少し祈る。そっと祈る姿も美しい。


ゴツイ人のはずなのに。



「へ?へ?へ?」

布団を引き寄せて動けなくなっているファイ。


「おはよ。」

「おはようございます………。」

「サダルや響以外と初めて同じ布団で寝た。」

「はいーーーーーーーー???!!!!!」


チコであった。

「ちょっちょっちょっと!どういうことですか?!!」

心臓に悪すぎる。

「昨日夜に来たのに、まだ寝てたから待ってた。24時間以上寝てたんだぞ。それに、監視強化以来初めて外泊した。一昨日も来たんだ。」

銃など装着しながら話すチコを、まだありえない顔で見ているファイ。


「ファイ起きた?」

フェルミオやローアたちが顔を出す。リビングの方を見ると、時々見る女性兵パイラルが手を振っていた。

「パイラルさんもここで寝たの。」

ファイは顔が真っ赤になり、起床早々にのぼせて起きていられなくなる。

「まだ横になってろ。職場はとりあえず休みにしている。」


「…うん。」

体を倒すと、チコが布団をキレイにしてくれた。

まだ頭の中が???のファイ。

なのにそれを崩して、またそのまま布団を被る。

「…???」

理解が追い付かない。


「待って!」

行こうとするとファイが止めるので、チコはまた普通にベッドに座った。

「…………。」

「………チコさん?」

「嫌いな人間と一晩すまんな。」

「っ…。」

しばらく呆然としたファイは、嗚咽しだした。


「う、う。ううっ。うっ。うううう。」

末っ子ルオイが近付いてファイを撫でる。


「詳しい話は体がよくなってからフェルミオさんに聞け。こっちも少し聞かせてもらった。悪かったと思っている。」

「どうせ知ってたんでしょ。」

「知っていることもあったけど、悪意があったわけじゃない。響も許してやってくれ。

大房のコンビニ前で会った男も実際の状況を知らなかったんだ。それに、あの男たちにも個別に抱えているものがあって、響はそれを助けてあげたいと思っただけだ。直接学生の頃のファイを知っているのはあの中にはいない。」


「……ぅうう…。うう。」


「響は行動は単純だけど、すごく敏感な所もあるから。たくさん持っているんだ。他人の心理まで。」


「でも響さんは守られてるでしょ?私はみんなみたいに、きれいじゃないから…。みんなキレイごとばかりだって、心の中でもいつも思ってる。世の中もバカみたいだし。あっちもこっちも私は汚いから。どこにも行けない。」


これが容姿のことではなく、心や体のことだと察する。

ベガスの次はどこに行くんだろう。大房ではこんなふうに過去を知っている人間に会ってしまう。

思い出せばあの男子は、ファイを好きだと言ったことは一度もなかった。性のはけ口になっただけだ。そして他の人間にも同じことをしていて…………気持ち悪い。あの時は、こんなものか………。と思ったけれど。思うしかなかったけれど。きっと心には穴が開いていたのだろう。


「………ファイ。」

「…結局世の中そんなもんだといつも思うよ。自分は。いつもクソったれ!って思うし。」

「……私たちのところに来たじゃないか。」

「私の所にもね!」

ルオイが横から入る。


チコは小さくため息をついた。

「私はいろんな人を見てきたけど…無理やり男性に囲われて、何人も相手にさせられているような状況の人だっていた。その人が自分を卑下したら、ファイもその人を卑下するのか?」

「うんん…」

とファイは首を振る。

「だろ?それでも、また進んでいくんだよ。行くしかないし。」

「………。なんでそんな話…。」

ファイは親以外には受け入れてもらっている。でも、一部の地域では被害者がコミュニティーから排除されることだってある。救えない人もいたが、それでも立ち上がる人もいた。


「私は自分も受け入れてたんだよ?無理やりされてわけじゃないし。」

「でも傷付いてるだろ。」

「別に。」

「………」


「何が一番苦しい?響や私のこと?その男子の事?関係を持ったこと?学校や街に知られたこと?

両親の事?」

また布団を被ってしまい、そして小さくつぶやく。


「………全部。今は全部。…全部。

世界中全部クソったれだと思う。」


「………」

「そうだな。」

チコは布団の上からファイを撫で、鼻のありそうなところを掴んで振り回した。

「あああっ!いつもいつも痛いってば!!」

「外で護衛が待ってるから行くわ。とりあえず気が済むまで休んでいろ。

じゃあ、フェルミオさん、皆さんよろしく。」


そう言って、またチコは窓から飛び降りる。

「チコ様!ちゃんと玄関から出てください!」

ため息をつくパイラルは挨拶をして出て行く。


また誰かがヒューと口笛を吹き、みんな手を振って送った。


ファイはまた、そのまま寝てしまった。




***




ファクトは、またまたすごいことに気が付いた。


人気のないパブリックスペースのディスクで、ノートを広げ書き込んでいる。


夢やDPサイコスで見た正体不明のベッドに横たわる女性。息子がいる。娘かもしれないが。

それから、全部覚えていないけれどひどい匂いのした…宇宙の人。本人はそうじゃないとは言うけれど宇宙の人だろう。

そして…………茶色の長い髪の女性。…こんな人いたよな?気のせい?



下手くそな絵と交えてファクトはノートをじっと見た。


…………

背もたれにもたれ掛かり、さらにノートを見つめる。


…………。あ。


何?俺天才?

というか、なんで今まで気が付かなかったのだ。


シェダル以外の男性の高性能ニューロス体。


あのフォーラムで、シェダルより強かった男。

そして、ぱっと見はシリウスよりはるかにヒューマノイドみたいな男。



『シャプレー・カノープス』?!



そう、SR社社長シャプレーに似ていたのだ。あの女性は。




***




一旦ユラス端の国の都市に戻って来たムギ一行。

そこでティティナータで別れたアリオトや、その他の同志たちと合流した。


やせ細ったムギを抱きしめるのは北アジア顔の女性。

「リン…………。」

ムギはにっこり笑った。


「まさか正規パスポートでそのままユラスに入れるとはな。」

雇われ護衛のテニアはびっくりしていた。


今のテニアの国はジェラスタ。連合国加盟国の自由民主主義国だ。そこで数年間軍人として働き国籍を得た。ユラスは傭兵が多いため、加盟国からの兵なら入国できるのだろう。その代わりジェラスタや他での経歴を公開しなくてはいけなかった。計2年加盟国でない国にもいたが、潜伏だったと説明しジェラスタにまで確認されそしてユラスをくぐった。


初めて見るアジアライン共同体の仲間たちはテニアを遠巻きに見るが、一緒に北メンカルに向かった者たちが紹介すると、心から礼をした。



テニアは地面を踏んで不思議な気持ちになる。


自分の国だったのに入れなかったとはな。

いつから入れるようになったのだろう。



実際はもう少し北西の別の国だが、テニアはここ、ユラス大陸で生まれた。



「どうしたんですか?」

「父がユラス人だったんです。懐かしいなと。一度、町も見えない山裾に入っただけなんですけどね。」

正規で入ったわけではない。

「……そうなんですか。」


「一度ダーオの見晴らしのいいところに行きたいな。ユラスがどんなふうに変わったのか見たい。私が行った時は、ユラス自体があまり安全な地でなかったから。」

最大の都市、ダーオの首都には展望できるビルがあると聞いている。

「今度一緒に行きましょう。」


「…………リンは…しばらくアジアには戻れないな。そんなに痩せていたら二度と外に出してもらえないぞ。」

「兄さんこそ、早く腕を直してください。ニッカに見せられない。」

「まずしっかり栄養を取りましょう。」

女性たちも心配している。

「勉強もしないとな。」

アリオトが笑うと、そうだ、留年手前だったとムギがため息をついた。


ムギ一行とテニアはその晩は話を詰め、また会う約束をしそれから別れる。



テニアは首都に向かった。



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