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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
96/105

95 少し難しくても



ちょうど駆けつけて来た男子の両親や祖父母さえもびっくりする。



「言え!なんだその顔は!!」

ファイの父は、完全に頭に血が上っている眼をしていた。


男子の家族側は部屋には入室していなかったが、声だけ聴こえた。

自分の息子が手を出した被害者の親が、自身の子供をそんなふうに言うことに驚いていた。男子の両親もよい感じの親ではなかったが、自分の子を庇ったり、面子を守るくらい気概はあったのだ。


警察はこういう親を見慣れているのか反応は薄いが、被害者が小さなファイなのでちょっと苦い顔をしていた。別室で聴き取りをしてくれた女性警官が慰めても、ファイは顔を上げない。


「さあ、帰るよ!こいつだけじゃなくてあんたも私の何が気に入らないの?」

ファイ母がファイに詰め寄る。こいつとは自分の夫の事だ。

「ああ?なんだ?お前が育てたんだろ?」

「はあ?あんたも親でしょ?妊娠中から協力もしなかったクセに!」

「俺は働いてんだ!!」

呆れ顔の警官たち。

「やめなさい!まずファイさんは部屋を移るように。大人で話し合いましょう。」

ファイが出ていくやケンカ声が響く。


「お前こそ結婚前はまともな顔して騙しやがって!!」

「あ?結婚前はまともだったよ!!」

「何がまともだ!まともな人間が子育てをサボるか?お前がしっかりしていないからだろ!俺は働いてるのに、お前が掃除しない汚い部屋の掃除だってしてたんだ!なのに何もしてないだと?なんであんなにひ弱な子供に育ったんだ!お前に似たんだろ!!」


そして…


バシン!

と室内に頬を張る音と男の倒れる音が響いた。

ガダン!と、何かが倒れる。


夫婦同士ではない。


フェルミオがファイ父を叩いたのだった。


「ここじゃなかったらグーで殴ってやる!」

「なんだ?!貴様!いつもウチの娘の事に口出ししやがって!暴行だ!捕まえてくれ!!」





その後、フェルミオは女子留置場で一晩することになり、ファイはそのままタラゼドの家に。


少ない親戚や祖父母とも疎遠で、任せられないと思ったタラゼド家は最終的にファイを預かることになった。そしてフェルミオは、今までファイ母に気を遣って取っていたファイへの距離をやめた。こんなことになる前にそうしてあげればよかったと後悔する。


フェルミオは近所の人たちの助けと、法はどうあれ状況を理解した警官たちによって迅速に留置場から出られた。






「……。」


無言で聞いていたチコは暫く喋らない。


ファイは無自覚で暴行や詐欺、恐喝を受けていたのだ。たまり場にいた間に中2から中3になったが、あの頃は全部を飲み込めてはいなかった。


「あれから何度かカウンセリングをしたり、私の通っていた教会の女性牧師とも交流して、だいぶ良くなって……。自分がされたことの意味も、分かっていても分かっていなかったんですよね。だから高2くらいまでは時々引きつけも起こしていて。

相手の男の家はどこかで話が漏れて近所に知れ渡ったのと、ファイに接近禁止になったから引っ越したようなんです。」

「あの事件で警察に行くことになった中高生が多かったから、話を止めきれなかったんだよね…。」

ローアも申し訳なさそうに言った。

「真偽関係なく中高生で話が広まっちゃって。」


「あと、これは憶測なんだけど、今思えば、ファイのお母さんって妊娠中不安定で鬱だったと思うんです。私も自分が忙しかったし、若くてそういうのがよく分からなくて。」

フェルミオも自分の子供だけで4人だ。ファイの母親とはそこまで交流もなかったので、仕方のない事だろう。


これが中間層以上の学区なら、小中高の間に結婚や妊娠に付いて学んでいるはずである。

性行為に関わらない部分なら男女合同で授業をするからだ。心身の大切さや自分の尊厳、妊婦がいる家庭、産後の母子への関わり方など学ぶ授業がある。ファクトの中央区蟹目の学校も一連の家庭教育があった。でも、霊性教育を切ってしまった大房には家族観も霊性も何もなく、ファイの父母たちはその直撃世代だった。




「…分かった。」

チコは少し目を閉じて祈り、それからゆっくり目を開いた。


「私が、コンビニ前で騒ぎを起こした男をアーツに受け入れたから、相当ショックだったんだと思う。」

申し訳ないと頭を下げる。

そこに次女のリオラも加わっていいかと入って来た。

身長170センチを超える女性が4人に、背は多少低いが体つきのいいローアで部屋がかなり小ぜまに感じる。


「でも、もうアーツは大房規模でも動いているし、あっちの男たちも私は受け入れた。なるべく接触はさせないようにしてきたけれど、全体で動けば出来ないこともある。それに、あの従弟自身は直接は何もしていない。」


アーツ側も一番初期に面接をした時点でファイに何かあったことは気が付いていたし、あえて聞かなかった。こちらから聞くことでもないし、その時はそういう状況でもないと思ったからだ。


響が大房のナンパ事件であの男たちを拒否しなかったというのも、おそらく男たちに差し迫った暴行などの危機を感じなかったからだろう。でも響はコンビニ事件の後のファイの反応で、男性に騙されたとか暴力などがあったと考えていたはずだ。それも知った上で響が彼らの受け入れを反対しなかったのは、あの男たちに何か共感するものがあったのだ。響がコンビニ男の心理層を見たのも聴いている。


ただ、もう少し慎重にするべきであった。講堂が大きいし、コンビニ男が気を付けていたのでしばらくは会うこともないだろうと思っていた。


その辺を謝りながら、チコは今アーツが始めていること、向かっている方向性を話した。


「あと、あのコンビニで会った男は、自分の従兄が家庭が嫌になったファイにいいように利用されていたと思っていたんだ。従兄がお金は貰ってる話は本人から聞いていたが、ファイとは合意の上での共犯みたいな言われ方をしていたらしい。それで従兄一家だけ悪人にして大房を出て行かなければならないことに頭にきていたらしくて。」

彼は元の住まいは大房でなく、ファイの顔は知らなくて、従兄と同じ中学だった友人にあのコンビニで教えてもらったらしい。


ウワサもあれこれ広がっていたので従弟たちには曖昧に伝わったのだろう。

ファイは最終的に人の目を避けるように学区も変え、中学は個別授業、高校は離れた場所に通い、人の目に晒されるのを避けるように生き、ある意味引っ越すよりも大変だった。


その間に随分性格も変わったが。

高2でルオイの友達が追っかけをしているライブやミュージカルにファイを連れて行ったのをきっかけに、あんなに積極的になってしまったのだ。



「………」

フェルミオはチコの話を聞いていろいろ考える。

あのコンビニ男には今後大房でもベガスでも会うだろう。


でも、ファイは会う度にあの男子を思い出すかもしれない。

「………。」


部屋にはしばらく沈黙が続いた。




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