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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める
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94 あれは過去のことだけど

※未成年の犯罪や性に関する間接的内容、ひどい暴言があります。




響はその日なかなか眠れなかった。



『ひどい。』


『ナンパするような人と意気投合したってこと?あいつもいるのに?』


『みんな嫌い。みんな嘘つきだから。』


『私だって最低の人間だけど…』



大房コンビニの前で絡まれた時に、ファイが一晩おかしかったことは響も知っている。

軽率なことをしてしまったと、胸が苦しい。


どうして私は何をしてもうまくいかないのだろう。

ここに来る前は、シンシーたち以外の友達もできなかった。幾つかの部活でも怖いと遠巻きに見られて結局やめた。

インターンの病院でもいい気になっていると言われる。

来ないでと言われたのに、アーツに顔を出してしまった。


兄や姉の言葉や姿が反復する。

「どうしてお前はそんなこともできないんだ。」



どうして私は彼らのようになれなかったの?




***




その夜、報告を受け響と会い、事情を聴いたチコはすぐに大房のタラゼドの実家に飛んだ。


ファイは熱を出してタラゼドの母フェルミオの部屋で寝ていた。三女ルオイがつきそっている。タラゼドは既にベガスに帰っていた。


よく人が出入りする家。人が行き来するリビングで話すことではないので、タラゼド妹たちの個室でフェルミオから事情を聴くことにした。


「…。」

何とも言えない顔をしているフェルミオ。長女ローアも一緒にいて、女性兵のパイラルも許しを貰って入室している。

「ベガスはこれまで以上にたくさんの人間ともこれから関わってきます。ベガスにいる以上、問題を避け続けることはできません。」

チコが言うと、フェルミオは仕方なく口を開いた。




「ファイね…」

少し考えながら言葉を選ぶ。

「不仲の両親の間にいられなくて、小さい時からうちがよく面倒を見て来たんです…。ここってちょうど学区が別れていて、ファイは隣町なんですけど。」

その辺りはチコも知っているが、しっかりと話を聞く。


「今みたいにいろんな人と会話のできる子じゃなくて、人前や知らない人の前では声も出せなくて…。小さくて、髪も服も格好もひどくて、よく学校でもいじめられていたんですよね……。親に半分面倒を放棄されていたんです…。」

ため息がちなフェルミオ。




それからが少しひどい話だった。


フェルミオの家が半分自分の家になっていたファイ。

でも中学2年になる頃には遠慮するようになっていた。


親にも、「当てつけみたいなことはやめて。恥ずかしいからよその家に入り浸らないで。放置子と思われるじゃない。お金は渡しているでしょ」と言われていたからだ。お古だからと、ローアたちの服も貰っていた。


でも家で居場所もなく、いつも嫌味を言い合い怒鳴り合う両親に耐えられなかったファイは、好意があるように声を掛けられた同級生の男子に傾向した。それがコンビニ男の従兄だった。


好きだったからとかではない。見た目が怖かったし、話してみると親と違って言葉が優しかったのでいう事を聞いたのだ。

実はほとんど脅迫だったのだが、その頃のファイには口調が優しいとそれが区別できなかった。誰かに口答えなんてできなかったのだから。しかも、その男子は祖父母がやめた工場の事務所にファイを住まわせてあげたのだ。そこには他にもその男子の男女の友達たちがいた。


しばらく来なくなったファイに、フェルミオは時々声を掛けてはあげたが、その話は知らなかった。


男子の女友達たちにいじられて、自分で着飾るという事を覚えたファイは、見た目も少しあか抜けてきた。家に戻ることもあるが、学生のたまり場になっていた事務所は実質ファイの家になる。

元々孫たちに個室として開放していたし、事務所の奥にしか生活の跡はなく、大人たちは女の子も出入りしていることに気が付かなかった。



そして、その男子は気の弱いファイにいいように手を出したのだ。


ファイの初めては、あれ?こんなもんなの?というそれだけだった。


マンガのようにときめくことはなく、何この人?という違和感。少しの興味と、何かされる時のゾワッと感と、後ろめたさ。終わってからの方が変な虚無感があった。でも周囲の雰囲気から、付き合ってするなんて当然なこととしか思えなかったファイは何も言わなかった。


そもそも私はなんでこんなことをしたんだっけ?

あれ?

底知れないような、嫌な気持ちがずっと抜けないけれど、それは心に閉じ込める。



それからその男子は、ファイが親から預かって来たお金も預かるようになる。食費も含めて月4万円ほど。そのお金を全額男子に預けて、そこから必要なお金を申告して分けてもらい生理用品さえも買っていた。




そんな子供のたちのいい加減な生活は、ある日を境に突然終わる。


たまり場に来ていた高校生の男友達がファイに手を出してきたのだ。その男が他の女子に手を付けていることを知っていたファイは、ものすごく気持ち悪く感じだ。自分の彼だという人の何倍も。


今までになく恐ろしかったが、これは違う、少なくとも関係性がおかしいと本能で必死に反抗したファイ。言う事ばかり聞いてきたファイに楯突かれて頭に来たその男はファイに掴みかかった。髪を引っ張られ殴られ、どう逃げたのかも覚えていない。ただ、気が付いたらタラゼドの妹ローアに半泣きで電話をしていた。



そこで子供たちの砂の城は大人たちに晒され崩れ落ちたのだった。



警察が入りフェルミオも電話を受けたローアとそこに向かう。


ファイが家に帰っているとばかり思っていたフェルミオは言葉をなくした。囲った男子は何か言い訳ばかりしていた。しかも外では別の女子と付き合っていたのだ。


ファイに手を出した友人は暴行未遂と暴行。でも囲った男子は付き合いの延長と言いう扱いになってしまう。ファイにはそれを説明できる力も勇気も何もなく、大人たちに知られたことがただただ怖く、そして恥ずかしかった。その他、6ケ月分ほどファイから取ってたお金に関しても問題になる。



極めつけはファイの両親だった。


まだ若く怒り気味の父親と、嫌そうな顔の母親。

父親は警察署で面会するなり、ファイに怒鳴った。

「勝手に出て行って迷惑を掛けるな!金だって十分過ぎるほど渡していただろ!何が不満だったんだ!!」


ちょうど駆けつけて来た男子の両親や祖父母さえもびっくりする怒鳴り方だった。




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