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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める

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93 ワケありの人たち



現在のアーツ試用期間の構成は、南海にいる一般のアーツ第3弾と、訳アリメンバーの河漢アーツである。河漢側は男性しかいない。



河漢では、そのまま街を残している北東部の少し住居地域から離れた所に、ベガス関連の施設を設けている。


南海と大きく違う点は、ベガスに入居できない犯罪歴や複雑な性関係の履歴がある者、スラム河漢以外で生活をしたことがない者、そんな多少の訳アリたちという事だ。

一定以上の自制心がない者、悪質犯罪、性犯罪やDV歴有り、アルコール薬物中毒者は河漢にも入れず、更生施設になる。そこまではいかないが、多少何かある場合も河漢になる。



よって、河漢は柄が悪い。


なので、元軍人や軍人も指導管理に多く入り、一番最初に『傾国防止マニュアル』を習う。


河漢の荒れたならず者と、いい加減ではあるがそこまでひどくはない大房を一緒にするか迷ったが、教官が多い場合は一緒に指導することになった。


いくら大房が荒れて底辺扱いでも、いきなり人を囲って窃盗や暴力をする事件は稀だ。

河漢スラムでも中央はそこまでではなかったが、荒れた地区ではナイフで刺されることもそれなりにあった。窃盗は事件扱いさえされないこともある。その中でもだいぶ選別して、更生の可能性ありの者は、VEGAとアーツ管理の青年教育に入っている。でも、更生という言葉を使うと、反発やバカにする面々も多いため、河漢チームの前ではめんどくさいので言わない。


だが彼らも、この前の霊線専門の霊性学教授の授業のように、南海に来ることがあった。リーダーや河漢本地に関わる者以外、彼らの諸事情は知らない。席も講堂の後ろを取るように言われているし、始終軍人2人以上が見ている。




その日は、外部から家庭霊性論の教授が来ていた。


どういう家庭から、霊性やサイコスの高い子供が生まれるのか。


もちろんそこには、元々の系図や才能一家というのもある。地域性や突然というものある。でも、能力の低い家庭からも高い霊性の者が生まれる場合はいくらでもある。その話だ。


それは、『夫婦仲や家族仲の良さ』である。また先祖や親への孝行心が強い系図や、地域貢献など他者に尽くした系図からは3代、5代、7代を超えると、必ず能力の高い子や優秀な子、運気の良い子が生まれる。


でも、それは河漢チームにはバカらしい話だった。なぜなら彼らの半分以上は、楽しい家族なんて知らなかったし、尊敬できる親もいなかった。

くっだらねー。と言う態度で聞いている者もいれば、隠れて涙を拭っている者もいた。ナンパ男の1人も目をこすっていた。


河漢メンバーの中には、親を蹴ったり殴ったりして、家を出た者も数人いる。自分もされてきたからだ。


それで、先生がそんな河漢メンバーに動揺したかと言うとそうではなく、では犯罪者や暴力のあった家庭、自分もボロボロだった家庭から高い能力者が出るのはどういう場合かを、実例を図解をあげて解説していった。どうしても閉塞していく家もあるが、苦境からもそうでない子が出てくる場合もある。

逆に栄華の中にいても、沈んでいく家もある。



そして、だいたい霊性学では実例に出されるいつもの心星ファクト。


ここでも「君、周りの割に普通だね。」と言われてしまっていた。




***




「こっちは女子がいっぱいいんな。」

講義が終了して、ナンパ男たちが自販機でお茶を買いながらつぶやいている。


「かわいいのいないじゃん。」

「そうか?なんか雰囲気はいいけど。なんつうのか分かんないけど、嫌いじゃない。」

軍人たちが待機する20分間のうちに、河漢メンバーはベガスの敷地から出ることになっている。


「何で俺らアジア人なのに、移民に滞在時間をセーブされなきゃいけないんだよ。こっちの方がコンビニもカフェもいいじゃねーか。」

「マジそうだよな。移民の方がいい暮らししてんじゃん。」

「俺らもじじいのじじいの世代は移民だっつーの。」

向こうの方で、河漢の別の男たちが文句を言いながら去って行く。



「……あ。」

そこでナンパ男が気が付いてしまう。

「姐さん…。」


そう、響がこっちに駆けて来たのだ。

「ファクトー!もう講義終わっちゃった?」

「響さん。お疲れ。終わってこっちの教授陣と談話してるみたい。」

「あー!北先生のお話聞きたかった!」

「響さんも行けば?」

「私はただの講師だし、分野が違うから…。」

「……これから飯食いに行くけど一緒に行く?」

「そういえばファクト!この前嘘ついたじゃない!!」

響が忙しかったので、あれからシェダルの事も話していない。

「ごめん…。」


「あ゛ー?!ファクトか?!姐さんと飯まで一緒に食う仲なのか?!」

ナンパ男の一言に、コンビニ男が一瞬ビビる。

警護の軍人がチラチラ見ている。最終的に全員が引き上げるまでの責任者の1人であるイオニアも遠くから気が付いた。

「姐さーん!」


「??」

だれ?どこ?私?みたいな顔をする響。

「姐さん!!お久しぶりです!」

「?誰?私?ねえさん?」

「警察署やエキスポ以降、『愛』は進展しましたか?」

「あーーー!!!」

口をあんぐりする。


「何言ってんの?するわけないでしょ!!だいたいあっちにはきれいな人がいるんだよ!?」

「え?そうなんすか?姐さんもキレイなのに。」

「そう?でも、いつもお見合い失敗するんだよね…。」

「えー。なら俺でいいじゃないですか?」

「ていうか、周りに人がいるんだからその話出さないで!!」

先より近くに来たイオニアが、完全に反応している。


「兄さん、ここでやめなよ。いろんな総攻撃が来るよ。」

ファクトが止める。


「時間だ。引き上げるぞ。帰る奴も帰れ。」

警備の人間が大声で言う。河漢は寮、下宿、通いといる。



が、そこに会うはずのなかったメンバーが来てしまう。


コンビニ男は、他の女子と食事に行こうと出て行ったファイの退出を確認していたが、ファイが響がいると聞いて戻って来たのだ。

「響さん?」

ファイである。


「何であんたもいるの?」

コンビニ男を見て怪訝な顔で言う。

「ああ?」

「なんで響さんと仲良く輪にいるの?」

「俺は後ろにいただろ。」

「…響さんもなんで…?」

「大房で再会して………。」

「………」

黙ってしまうファイ。


「こっちの兄さんが俺の知り合いでさ。」

ファクトがナンパ男の1人を指す。

「あ、こいつじゃなくて、俺らが最初に姐さんをナンパしたんだけど…。」

ファイの事を知らないナンパ男の1人が割って入り、コンビニ男でなく自分たちが響と関わったと説明する。

「………。」

不安な顔をするファイ。


「ナンパするような人と意気投合したってこと?あいつもいるのに?」

「何だよ…。俺がお前になんかした訳じゃねーだろ…。」

消え入りそうな声でコンビニ男が言う。従兄が大房に住めないようになった原因の女だと聞いたから、コンビニの前で少し文句を言おうと思っただけだ。

「脅してきたのに?」

この空気、ちょっとヤバいんじゃないかと思うファクト。


「アーツも、分かってて雇ったの?」

「はあ?何がだよ?そこまで被害者ぶる話じゃねーだろ?それに、やっと俺が決めたことにお前が水差すな。」

「被害者ぶる?私だって最低の人間だけどあんたに言われることじゃない!」

「あの、ちょっと待って!」

止めようとした響に、ファイは詰め寄る。

「響さんもどういうつもり?!ひどいよ!」

「ファイ……」


「おい!姐さんと俺らの関係はお前とは関係ねーだろ?」

ナンパ男の1人が言う。

「だいたいこっちがスカウトされたんだ。」

「誰に?」

「チコさん。」

「っ?!響さん!ほんとなの?!」

「おいってば、姐さんに詰め寄るな!」

と、1人がファイの肩を触ったところで、ファイから吸い込まれるような悲鳴が上がった。

「ぃぃいいっ!触らないで!!」

そして震えていた。完全に様子がおかしい。

イオニアが駆けて来て、彼らにファイに触らないように声をかける。

「ファイ?!」


「ファイ!!」

響も駆け寄るが肩を支えようとして、イオニアが止めた。ファイは何かつぶやいている。

「……みんな嫌いっ。みんな嘘つきだから…」

「?!」

響がショックな顔をし、ファイの声は聴こえなかったがコンビニ男もその姿に動揺している。


そこに、仕事が終わったタラゼドが、ファクトに呼ばれて駆けて来ていた。

「ファイ、大丈夫か?」

「タラゼドさん、寮は人が多いし、私の家に連れて行きましょ。」

「や、ヤダ…。」

そして、ファイはタラゼドに何か小声で話している。

「……分かった。」


「ファイは今日、大房の家に連れて行きます。」

「…あ、え?…はい…。私もつきそいますか?」

「…い、いい。」

ファイが震える声で断る。


「お前らさっさと帰れ。どうしたんだ。ベガスの人間に絡むなと言ってあっただろ。」

警備が帰らないメンバーに指示を出す。

「なんすか?俺らあの子には何もしていなですよ。」


ナンパ男がコンビニ男の方を見るが、

「…俺も、前にちょっと脅そうとしたことはあるけれど、理由もあるし未遂で終わっているけど……」

と、そう言って目を逸らす。

「脅す?……。まあいい。とにかくいったん帰れ。心配なことがあるなら、河漢で話を聞く。」

何となく納得のいかない顔のコンビニ男。


「とにかくここは出るぞ。あとで事情を聴く。」

そう言うと河漢チームは全員撤退した。




タラゼドはしゃがみこんだファイと何か話している。しばらくしてタクシーが来ると、ファイを抱き上げて乗せた。ファイは顔も見せない。タラゼドは教官に何か話して、響に頭を下げるとそのまま一緒に大房に行ってしまった。


連れ添いを断わられたショックで、呆然としている響を、ファクトやイオニアは眺めているしかなかった。



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