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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十五章 夢は朝焼けに覚める

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89 それは電気回路と同じ



ファクトは学校が終わってから、南海広場、競技場の投光器のベランダになっている部分まで登った。


40メートルほどの高さがあり、チコが登ってきた時とは違う柱だ。

空に届くほどでもないのに、地上とは風も空気も違う気がする。



ベガスを見渡すと自分が来た1年前と少し違う、人のざわめきを感じた。


圧倒されるほどの人、人。

そしてファクトは少しだけ分かった。これは霊だ。それとも予知?確かに人口は増えたがそれ以上の人の波を感じる。



自分の右手をじっと眺めると、白く淡い光が出てくる。


薄い黄金色や白い光は、人間にとってデフォルトのようだが、あの色のある光はなんだろう。

自分にもあるのだろうか。力の種類?やはり血統?




朝…

親のお金…と言ったチコにひどいことをしてしまった。


でも、ミザルが働いている間、ファクトはずっと一人だった。


何かの時に面倒を見てくれたのはラスやリゲルの親たちだ。高校に入って知ったことだが、その分ミザルも食事代など払ってはいたが、二人の両親は基本子供たちの誕生会や宿泊旅行など大きなイベントでしか受け取らなかったらしい。普段はお金だと受け取ってくれないので、いつもチキンやピザ、デリカフェ、牛丼屋などの出前、持ち帰りなど現物やアプリチケットにしたくらいだ。


ミザルの仕事に関しては連合国や世界が関わっていても、根幹の家庭はそんな知人たちの協力故だ。

ファクトのミザル側の祖父母は自国を行き来しながら、途上地域でずっと開発の仕事。ポラリス側は違う国にいて、親戚に預け離れるのをミザルが嫌がったのだ。


自分の近くに置きたい、でも泊まり込んでいたSR社内の住まいにはファクトを入れなかった、矛盾したミザル。


これまで暮らしてこれたのは親のおかげではあるけれど、人に頼った分、10数年分はみんなにも返していきたいものがファクトにもある。




ファクトは自分の手を見た。

チコは紫とピンク。チコの中に、まだそれ以外の色は見たことがない。


でも、霊性学では、同血統は似た霊性を受け継ぐとも聞いている。

固定された色という事は、やはり血か……。



この前、有名な霊性学の教授が来たので、アーツ第3弾が受けるついでに可能な人間は出席するように言われた講義があった。


不思議だ。


家族関係が複雑でバラバラで暮らしていても、心も情もないとしても、必ず血統は霊性に残るらしい。肉体は地の世界では滅びるのに、霊の世界には残るのだ。


もちろん、生き方次第で千差万別に違うものが出るし、養子になったらその両親の影響も大きく受け霊の質は変わっていくが、血は必ずどこかに残る。



そして、性格や人生経路などに関しては、どこかの直系先祖の影響を必ず受けるらしい。


ただし、先祖なんて数代追えば何百、何万人もいる。

基本は血の直系父母が先祖になるが、たくさんいる先祖の誰の特性を受け継ぐかは分からない。子孫を残さなかった叔父叔母がいる場合、彼らの受け皿がなく、生きて残った近親の者がその影響を受けることもあるらしい。基本的にはいい影響を引き継ぐが、どういう形で実世界に現れるかは、祖先の現実社会での生き方との総合的観点から、様々な法則があるらしい。法則はあるが、人間があまりに複雑な経路で人類を増やしてきてしまったがゆえに、一見しては分からないのだ。



霊性学の先生が、サルガスこと『ドラゴ・ツィー・サルガス』を例にして説明していた。


普通、業界経験者でもないただの下町のたまり場の食堂店長が、いきなり連合国公認組織の国際組織の事務局長になることなんてありえないらしい。霊性的にも、実社会的にも。


しかも、たった1年でユラス議長周辺と仲良くなってしまった。


なお、ある意味ナオスの長兄は王族である。歴史の中である時点で王族になることもできたが、親なる神を中心としてその席を置き、他の部族と同じ族長に留まることを選び、代わりに全部族()()として、部族議会の議長となったのだ。


そんな人と個々で会話ができる位置に来てしまった。

そして連合国2級組織のベガス事務局長。


飛び過ぎである。



大房民はよく考えてもいないが、VEGAに関わるような組織の役職業は、大卒院卒の人間がなりたくてもなれないものだそうだ。本来、様々な有名組織を率いた経験があり、誰か世界的に立派そうな人たちに推薦されるような人が来る職場なのだ。


「…知りたくなかった…。」

ビビるサルガス。チコやカウス、サラサやエリスさんまで「今リーダーだし、サルガスでいーだろ?他に誰がいるんだよ。タウがするか?シグマか?」みたいな決め方しないでほしい。



そんな風にいきなりスポッと大きな位置に来てしまう人間には、必ず何か()()()()()()()がある。


自分でなければ先祖だ。




先生はサルガスの名前をスクリーンに投影する。

まずは名字の『ドラゴ』。


「うーん。これ、マフィアでしょ?」

先生、悪びれもせずそう言い切るので、一同戦慄する。ヤバい組織に入ってしまったのか?!つうか、大房になぜ!

「まあ。こんなのは星を見なくても分かるよね。名前そのままだし。」

知っていたのか、サルガスは苦い顔をしながらも何も言わない。


「でも、君の数代前、すごく地域に貢献しているね。曽おじいさんかな?多分もっと昔にもいるよ。

数人の叔父や直系先祖も、地域や社会貢献分野で殉職している…。曽おじいさんも…汚れの……そういう場所からきれいに足を洗えたってのはけっこうすごい事なんだよ。」

「……。」


「そういう所にね、育った地域の貢献者も寄って来るんだよ。君、どういう形にしても先祖は大事にするでしょ?」

寄って来るとは霊の話だ。


大房なんていい加減な街に住みながら、父方は古くからの仏教なので、確かに兄弟と交代で毎日仏飯は捧げて来た。ただ、大したことはしていないが?

「あと…地域の寺院や功労者の礎石を大事にするよね。そういうの大事だよ。昔の人の積んだ善や想いを受け継ぐ器があるんだ。それに、あまり好き嫌いがないだろ。人がいいね、怒りっぽくないし。」

独り言のように先生が続けていく。


「大変だったのは、やっぱマフィアって相当悪いこともしているから怨みも多く買うし、本人たちは直接悪いことをしていなくても所属組織の影響も受け継ぐから。その清算もしていかないといけないんだけれど、責任感がある分そんな影響もあったんだと思う。」


サルガスの親戚たちは、公務員や公的組織の職員もいて思ったよりも公的資料が残っていた。

曽祖父母も大房の役所や年配に聞けば、資料もあって結構いろいろ過去が分かったという。曽祖父がマフィアの世界から足を洗えた時、そこで得たお金は一旦お寺に預けて、その後全部、文化会館設立の寄付にしてしまったらしい。アンダーグラウンドでジャンクなものしかなかった大房に、初めて最新の劇場ができたのだ。


ジャズシンガー、ファーデン・リプスもそこで初めて正式な形のコンサートをした。


その後、公的な体育館やダンススタジオなどの設立にも寄付をして。



外交活動や海外支援などで、現地で殉職している先祖や親戚を先生がザッと挙げた。

「本当に外交官だった人もいるね…。」

その他に、マフィア内で死んでしまった人もいたが、中にはマフィアの世界に行きながらも、なるべく良心的な道を選択し組織内でも惜しまれて亡くなった人もいるという。



曽祖父母が大房に貢献したので、大房の良いことを残した霊性も受け継ぎやすい。


他者に心や財産を開くと、血で繋がらない、足りない、マイナスの部分が補われ、他者が『自身』にもなり霊性の世界が広がっていくという。

マフィアであったことを簡単に拭うことはできないが、数代かけて昇華してきたという訳だ。



ただ、祖父、父の代は新時代教育反対主義の影響を受け過ぎて、その芽が当代で開花できなかった。


そして、反対に次ぐ反対教育で閉鎖感が増してしまった親世代の閉塞感に乗り切れなかった世代が、君たちなんだけど、ついに表に出て来た…のかな?


とブツブツ先生が言っている。



が、サルガス的には外交官なんて親戚がいたんだと、そこに一番驚いていた。万年サラリーマン家庭だと思っていたのに。


「うーん。あとね。ここにヴェネレ人が入って来るでしょ?」

じーとジェイが顔を覗き込まれる。たじろくが、確かに今、ジェイがロディア父たちと仕事をしている。


人嫌いで職場でしか女子と話もしたことのなかったジェイが、今、フォーチュンズマートの元会長と仕事をしているのだ。大して重役ではないが、一応架け渡しの仕事をしているし、ちょっちゅう構って来るのだ。向こうから。考えてみたらすごいことだ。これこそあり得ない。なにせ今でも人嫌いの方のコミュ障である。


「他の地域だと、ヴェネレ人とユラス人はあんま仲良くなんだよね。ここも大房が入って緩和されたのかな?でも、君たち、『歴史の中で争い続けた2つを繋ぐんだ!』とか、立派な使命感で仕事をしていないでしょ。とくに大房。」


はい。していません!


と即答できる下町ズ。

ユラスもヴェネレもヤベーよ。アンタレス占領するつもりかよ。移民反対派煽ってどーすんだよ。マジ、移民占領じゃん。反論できんやん、と思っていたくらいだ。今も、おそらくそこまで崇高な思想はない。単に思ったより仕事が楽しかっただけだ。



先生いわく、ユラス人主導のベガスで、ヴェネレ人が言う事を聞いているなんて珍しいという。事業や個別規模ではそういう事もあるが、緊急時以外でこんなふうにユラス側が国家規模で動いていて、ヴェネレ人が従うなんてことは他の地域では見たことがない。

ヴェネレ人に野望があるにしても、とにかくそんな話聞いたことがないらしい。


「まあ、そこ調べればなんかあるんだろうけど、気負わないところがよかったのかな?外面的に理由はなくても、内性には必ず繋がっているものがあるからね。


電気の回路のように、通じるものがないと力は絶対に働かないから。」




ついでの話だが、ファクトは許可もなくよく授業の題材にされた。小学校の時からそうである。


なにせ両親はエリートの中の超エリート。その結実がここにいる。

既に有名人なので話に出しやすい。


なのに、先生たちに「両親の割には平凡だね。星周りも」ともよく言われてしまうのだ。解せない。




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