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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十四章 私はユラスの夢の中

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86 夢からの目覚め



「うっ…。う…。」


ファクトはソファーの上で呻きながら目を開けた。


「おい!?大丈夫か?!!」

「………。」

天井を見上げ固まってしまう。

「タラゼド?」

「分かるか?俺だ。」

「ワズンさん?」

「…はあ…。」

安心したようにワズンは斜め隣の1人掛けソファーに腰を下ろす。


「窓際で倒れていたから…。」

「ワズンさん、総師長の護衛に行かないと…。」

「大丈夫だ。出勤してすぐその仕事に入るわけじゃない。」

「…………」


「最初はびっくりしたけれど、脈も正常だしなんか寝てるっぽかったから…。時差で寝不足か?」

「え?どこでもいつでも寝たかったら寝れます。時差とかあんま関係ないです。」

「だからって今寝るな!せめてソファーで寝ろ。」

安心しつつも呆れる。


立ち上がろうとするがふらつく。

「おい?」


「………もしかしてサイコスか?」

「………。」

ワズンさんには分かるんだ………と思ってしまう。

「……何かしただろ?」

「したというか、引き込まれたというか…。」

「はあ?!」

それは普通の事ではない。ある意味、有事だ。

人を引き込むレベルのサイコスター?


ファクトは精神集中姿勢を組み、自分を落ち着けて平衡感覚を取り戻すと、窓の方にもう一度向かい東南を見る。ワズンが心配そうに見る。

もうあの光は見えなくなっていた。


再度集中する余力が今はない。長い夢を見ていた気がする。


そして思い出す。響は現実と心理層をきちんと分けるんだと。あれは霊世界なのか心理世界だったのか。ファクトは真似をして手をパチンと合わせ叩いてみた。

「………。」

よく分からないが、自分は実体の現実世界に目覚めたことにした。


「あの、チコって今北メンカルにいますか?」

「チコ?」

ワズンは答えない。言えない任務だろうか。

「危ないからそんなところにチコを送らないでください。無茶する人だって分かったから…。」


北メンカル?

そんな話聞いてないぞ、と思うワズン。


「念のため医者に行くか?」

「大丈夫です。」

「ウチで休んでいろと言いたいが、一人にさせるのは心配だな。」

ここでサイコスが発動したという理由があれば、軍で保護してもらえる。



しかし、突拍子もないことを言うのがファクトである。

「俺、今からアジアに帰ります。」

「…今から?」


「鉄道も飛行機もあるし。なんかワズンさんに心配かけそうなので帰ります!

………飛行機より列車が料金が高いって、飛行機の速さと技術と燃料代、威信はなんなんでしょうね!でも今回は鉄道で帰ろっかな。いろいろ楽しみたい。」

「………。」

展開が早くてファクトに追いつけないワズン。


「ちょっと待て…。」

「はい。」

「こんなことがあって、何も分からないうちに一人にして帰したくない。」

「大丈夫です!俺の中で解決しています!」

「あのなあ、大人としてはそうはいかないんだ。ご両親やチコに対する責任もある。」

「今回はチコに関係なく来たんで大丈夫です。」

「………だったら利己のこと聞くな。」


「ショートショック、預かって下さい。ワズンさんでも登録しているので置いておいていいですよね?」

「ああ。元々そのつもりだったから。」


「そんでまた来ます!」

また来るのか。

「今度来た時はワズンさんに迷惑はかけませんから!」

「いい。来たら絶対に連絡しろ。」

危なっかし過ぎる。チコがこの高校生をよく構う理由がなんとなく分かった。



このまま駅まで歩いて帰るというが、一応送迎を買って出て、近所のスーパーに寄りお土産を購入し、アンタレスまで6都市しか止まらない最速のスカイウェーブに乗って、ファクトはあっという間に帰って行った。


「………。」

ホームまで見送ったワズンは、スカイウィーブのレールラインを見つめる。ユラス出国、アンタレス、ベガスでそれぞれ連絡をするようによく言い利かせた。


「…あ!」

そして、軍人としてはあるまじき失態に気が付く。サイコスを使っていた可能性があったのに、それが何か聞くのを忘れていた。完全にファクトのペースに乗せられていたのだ。



『アーツもチコの義弟も、扱いに困る。』と言っていたサダルの言葉を思い出し、心で自分に呆れた。




***




一方、響はふわっと目を覚ます。


「うう…。は?!」


「うわ!」

これから駐屯所の方に響を運ぼうと思っていたカウスは驚く。


「わああ!!」

びっくりする響。自分の体に毛布が掛けられている。

「カウスさん………」

「はあ…よかった。起きた…。」

安心するカウスと、その横でホッとしているタラゼドとサイコス使いの女性兵ガジェ。


「響さん…。こんなところでサイコスなんて…。」

呆れと安心で気が抜けるカウス。


「ファクトが………」

「またファクトが何かやらかしたんですか?勝手にユラスに行ったと聞きましたが。」

「響さん、先にサイコスを閉じてください。」

「あ、はい。」

ガジェが言うと、響は少し集中してバチン!と空間を閉じた。


「…タラゼドさん!すぐ戻るから、言わなくていいって言ったのに!」

「え?そんなこと言われても…。」

気が気でないタラゼド。また寝込んだらどうするんだ。リーブラの憔悴っぷりもすごかったのに。

「事を大きくしないで下さい!」

「……っ」

タジタジするタラゼドに、ガジェが割って入る。


「響さん。タラゼドさんに何の非もありません。知らせて当たり前です。サイコロジーサイコス関係ですよ!」

「………。」

う゛っと、弱った顔をする響。

「だいたいこんな夜に、突然男性に体を預けるなんて無防備過ぎます!人を呼んで当然です!」

何とも言えない顔をするタラゼド。

「でも、ファクトが…」

「言い訳にしないで下さい。それとこれとは話が別です!」

「…はい…。タラゼドさん、皆様いろいろごめんなさい。」


落ち込む響をカウスが慰める。

「まあ響さん。何があったんですか?大枠だけでいいので。」

「『あの男』の事もあるんです。」

「…あの?」

襲撃犯か。

「あ、俺席外します。」

タラゼドが聞いてはいけない話かと下がった。



響がゆっくり話し出す。

「…シェダルが…、ファクトといました。心理層の中で。」

「…?!」

ガジェはDPまで行かないがサイコロジーサイコスの力はある。


「それで私は…、女性に呼ばれてそこに行ったんです。

多分、その状況を取り持ってほしいという事だと思うのだけど…。女性…?」

女性?そう言えば誰?と、響は不思議に思う。

知らない声ではない。でも、知っている人ではない。


「女性?」

「カウスさん…、シェダルって、ニューロスサイボーグですか?」


少し答えにくそうにカウスが頷いた。

「…頷くことはできませんが、そう言う事です。」

本当は機密事項だが、響には隠せないだろう。それに知らないままいるのは危険だ。


「彼。啓発されていないだけで、多分DPサイコスターです。」

「!?…可能性は言われていましたが、まさかDP……」

「でも不安定で、危ないです。多分ですが、人として育てられていなくて自分の居場所がなくて…依存しやすい心理層に頼ってしまっています。」


つまり、この実体の現実世界に居場所がないため、ある程度自由にあちこち行き来でき、いろんな事に遭遇できる心の世界に依存してしまっている。



「彼はいつからパイロットになったんですか?」

ここでのパイロットとは、高性能ニューロス化の被験者になることだ。

「…そこまでは。私たちも接触した訳ではないし、まだ調査途中です。」


「彼、多分、自我も弱い時から被験者にされています。…3、4歳の頃…。」

「!?」

連合加盟国だけでなく、世界国際条約でも完全な違法だ。


そこで響の瞳から涙が伝う。


「響さん…。。」

「彼、その頃に言葉を話せていないんです。…。。なんだろうこの違和感。」


響の目から涙が止まらない。


シェダルは社会性がなくボキャブラリーもなさそうなのに、今時の共通語を流暢に話していた。

でもなぜ、小さなあの子はなぜ言語を持っていなかったの?


ずっと?

一時的に?

薬で?

手術?

言葉を奪われた?

教育をされなかった?



響を呼んだ女性が助けてほしかったのはシェダル?


それともファクト?



「どうします?響さん。今日は休みたいですか?それとも駐屯所に行きます?」

カウスが心配そうに言う。

「また何か来たら危ない気が……。」

「大丈夫です。サイコス自体は制御できます。明日の朝、少し早めにそちらに行きます。」

「周辺の警備は強化しておきます。」


まだ涙が止まらない。これは自分だけの涙ではないと感じる。


「タラゼド君。響さん自宅まで送ってあげてください。」

「え?」

カウスたちが送った方がいいのではないか?どう考えてもその方が心強いだろ、と思ってしまうタラゼド。

「タラゼドさんは嫌です!話しに乗ってくれないしっ。」

怒っていると、カウスが不思議がる。


「もう痴話ゲンカですか?」

「は?誰と?」

「タラゼド君しかいないでしょ。」

「違います!どうしたらそういう話になるんですか?」

「警察署で、愛について議論していたとみんなが話していました。」

何もツッコめないタラゼド。


「誰がそんなこと言ったんですか!チコ?クラズさんは無口だから…フェクダさん?!」

「怒らないでください。」

そう。そもそも痴話ゲンカも何も、怒っているのは響だけである。


「だいたいタラゼドさんは、私じゃありません!他に女性がいます!」

「え?タラゼド君っていつも男子と飯食って、何もないような顔で過ごしていながら結構やるね…。」

「…勘違いです。」

タラゼドはそれ以外言葉が出ない。


そこにガジェが、響の手をとる。

「体心計です。明日の駐屯所まで外さないでください。」

体に異常があると、知らせる装置である。完全防水で最近は一人暮らしやお年寄りがよく付けている。


ガジェが腕輪タイプを付けてあげると、またカウスが突っつく。

「あ、二人仲良くするときは心拍上がり過ぎることをしないでください。貞操は守ってくださいね。蛍惑の家族にもチコさんにも殺されます。」

「しません!」

既に心拍数が高そうだ。


「あー!明日はもう、駐屯所に行きません!!」

「えー!響さん。機嫌直してくださいっ!」

「カウス様はもう話さないでください!こんな夜に声が響きますっ。」

ガジェに叱られて、車で待っていた他の隊員に引っ張って行かれる。


「ではおやすみなさい。響さんは、何かあったらいつでもいいので連絡ください!」

ガジェが手を振った。



「………。」

「…………」

意味が分からないと、見送る二人。


「響さん、本当に大丈夫?」

「…。」

サッと目を拭う。

「はい。もう帰ります…。タラゼドさんも帰って下さい。」

「いいよ。方向は同じなんだから送るよ。駐輪場行こ。」


「…あ、ファクトから着信だ…。」

まだ外だと伝えて、お互い安否を気遣う話だけにした。


タラゼドを見上げると、何でもない顔をしているので力なく眺める。

あんなにカウスに言われても、普段通りのタラゼドが憎々しい。

「響さん。フラフラしない?」

「しません…。」

気持ちがフワフワはしている。


もう早く帰って寝たい響であった。




ちなみにファクトは、朝早々に寮の食堂に食事に来て、『ユラス土産、持ってけドロボウ』と書いて、食堂のラウンジに大量に菓子やブレンドのティーバッグ、ドリップコーヒー、インスタント麺を置いて、チコとその仲間たちに捕まる前にさっさと学校に行ったのであった。




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