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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十四章 私はユラスの夢の中

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84 ゲスい人たち



チコは子供の時から兵士だったのだろうか。



「13で兵役なんてできるんだ…。」

嫌な現実だ。


「実際は12の時に来てる…。チコは生きてきた環境が少し特殊だったから。カフラーが……あ、カウスの兄なんだけど、いつでも社会に入れるように中高の勉強もさせていたんだ。勉強した記憶がないらしいけど、なぜか基礎もあって、覚えが早くてすぐに大学レベルだったけどな。」

「あ!それは生まれたところで勉強してたからだよ!」

「…?」

何でファクトがそんなことを知っているのだ?と、不思議に思う。昔を思い出したチコにでも聞いたのか?だったら報告事項なのだが…。


「チコは………北メンカルかギュグニーから来たんですか?」

「っ?」


「ファクト…。それは…なんでだ…」

ワズンは元々知っているが、ファクトがなぜ………。


「…チコの弟だと言っていた襲撃犯のシェダルが北メンカル式の戦い方をしていたから…。でも、チコの雰囲気からするとユラスの血が多いギュグニーなのかな……」

チコはが外国人だが、ユラス人の血もそれなりに入っている。

メンカルは熱帯寄りで、チコのような象牙肌の金髪はいない。それに、メンカルはこの時代まで混血も少ない、アジアでは珍しい地域だ。メンカル以外の南方アジアは華僑の混血は多いがそれともまた違う。ただ、ギュグニーにはもともと複雑な混血が多い。

「………」

ワズンが驚いている。


「………そんなことどこで……」

「黙っとけって言われたけど、ある人に教えてもらった!」

「チコか?」

ワズンは考える。シェダルと組み合ったのはチコとシャプレーだ。シャプレーは国ごとの接近格闘術の組み式まで分からないだろう。…SR社は戦闘型ニューロスも作っているので把握しているかもしれないが。


「チコじゃないよ。俺が北メンカル式を習ったんです。なので俺も攻撃されて……なんとなく分かった!」

「は!?誰から習ったんだ?!」

「約束しました。秘密です。」

「…はあ。」


「大丈夫です。軍規に当たらない程度だと言っていました。」

「誰だっ、そいつ。」

それに、少し対峙しただけでよく北メンカル式と分かったなとワズンは思うが、即首を捻りに来たり死にそうなところを最初に捉えようとしたり、様子を見るのでもなく、捕虜にする気もなく抹殺されそうだったので、アジア圏ならば単純にギュグニーか北メンカル辺りで育ったのかと思っただけである。

オミクロン式もかなりやばいが、彼らは即死にできたとしても、まず捕虜にしたり国際条約を守るくらいの人道はある。


「………ファクト、周りにはあれこれ言うなよ。」

「分かっています。ワズンさんだから信頼して言ったんです。秘密を知り過ぎて殺されたくないですから…。」



そのまま、全く違う話に流す。

「…それにしても結婚しないんですか?ワズンさんならすぐ誰かできそうなのに。」

「何で急に話を戻すんだ?だいたい誰がこんないつ死ぬか分からない人間と一緒になりたがるんだ。」


「…もしかして、まだチコの事が好きなの?」

「お前、グイグイ来るな…。」

どうせなら聞いてしまおうと思うファクトである。

「どうなんですか。」

「…まあ、あの二人がきちんとやっていけるなら身を引く……」


「え?仕える人間の破局を待ってるの??!」

「…お前はマジで…

デカい手の平で頭を絞められた。

「うわ!やめて下さい!かわいい頭蓋骨が、おしゃれな脳が潰れる!!!」


「そもそも俺だけじゃない。他にも数人いたんだ。サダルと結婚させたくなかった奴が。」


「…え、みんなで離婚を待ってるって、ゲスい職場ですね…。」

超引いた顔のファクトはまだ言う。

「ユラス人はもっと忠誠心が高く、信心深く堅実な人たちかと…」

「……」

「いで!いっ!!っう!」


遂にワズンに両腕を後ろに捻られる。


ギブアップ!許してください!が言えなくてもがいているとやっと離してくれた。


「いだい゛…」

「まあ、言いたいことは分かるが、あの当時から、もうすぐ離婚するだろうとサダルに近い人間は思っていたんだ。それくらい二人はギグシャクしていて、チコに仕えてくれた夫人たちも次の相手を探していたくらいだったからな…。俺やカウスの兄もそれでチコをもらい受けてほしいと、結婚中も誰かしらに言われていた。」

「え…」

あの夫婦二人を信頼している藤湾のユラス人学生たちを思い出すと、心が痛む話だ。というか、そんなことあっていいのか。


「俺は元は外国人だし、カウスの兄は既婚者だったから。」

「既婚者?」

「結婚して1年目で奥さんを内戦で亡くしている。」

一度議長夫人になってしまった女性を、自分たちの都合で離婚させ不遇にさせるわけにはいかないので、何かしら条件のある、でもしっかりした身元と背景のある男性にあてがおうとしたのだろう。


「サダルとチコは…身近で見ると仮面夫婦にもなっていなくて、本当に見ていられないくらいだったから………」

そんな夫婦、ほんと、見たこともないと思う。



他の不仲夫婦と違い、議長夫婦というだけで隣り合わないといけないし、外面上は良くしなければいけないのだ。でもファアクトはなんとなく感じるが、少なくともチコは相手が嫌だったわけじゃない。そもそもチコには、当時そういう感情の選択もなかったのだろう。好き嫌いなど考えることもなく、目の前にあることをただただこなし、ただそこにぶつかっていくだけで。感情にも選択肢があるなんて思ってもいなかった気がする。


「サダルの帰還後に二人会ってから離婚するか、会うこともなく離婚になるか、こっちではみんな賭けていたくらいだ。」

うわっ。やっぱりゲス過ぎる!と思い直すが、

「俺は参加していないからな!」

と付け加えられる。

しかも、離婚以外の選択がない賭けって…。



「でも…、何か。

チコもサダルも変わってしまったから…潮時かもな…。


チコも…、サダルもあんなに柔らかくなるとは思わなかった…。」



まさかサダルの方から婚姻関係を続けたいと言うとは。

婚姻関係にある以上、そこに入ることはできない。


ワズンは写真を見てため息をつく。



え?サダル、あれで柔らかくなったの?

凡人であるファクトには理解不能の世界だが、あれ以上を想像すると当時のユラス軍の恐ろしさが分かる気がする。本当に息もできない雰囲気だったのであろう。ぬるく生きてきた耐性のないアーツは、そんな柔らかくなった議長ですら窒息しそうだったのに。



準備が終わり、コーヒーを飲み終えたワズンが聞く。


「どうする?どっか行くのか?

同僚たちが会いたがっていたけど、少し会いに行くか?」

「皆さん仕事中なのに?行きません。帰ったらチコに締められそうだから、余計なことはしたくない…」

「夕食時だけどな。あいつらは多少自由に動ける。」

「やめときます…。」

「そうか…。ならどうするんだ?」


「テキトウにどっか見に行きます。あ!でも皆さんに1つ聞きたいことがある!」

「なんだ?」

「秘密です。」

「………。」

ファクトの秘密はろくでもないという事を、まだ分かっていないワズン。


「あ、待って。歯だけ磨いてくるから。」

「はーいっス。」



ワズンが歯を磨いている間、マンションの窓からユラスを眺める。



角部屋なのでまだ光があちこちから入る。


えっと、先、光が見えた東南は…あっちの方か?見えるかな。

そう思って見てみると、遥か向こうにまだ光が見えた。



紫とピンクの光。


あっそうか、チコの所在を聞くのを忘れた…。そう思ってワズンを待ちながらじっと光を見る。


チコはどこから来たんだろう。シェダルは普段どこにいるのだろう。

ファクトは、シェダルの口からチコの弟だと聞いただけで、検証調査結果を知っているわけではない。



どうして世界は、人と人はこんなにも複雑になってしまったのだろう。



……………


紫とピンクをじっと眺めていると…


すると…その光はあの時のように、

投光器で、廃屋の屋上にチコを見付けた時のように…


光への距離感が一瞬にしてなくなり、



そして何かがバジン!とはじけた気がした。




***





そして広がる、



知っているような、知らないような、曖昧な世界。




ただファクトには分かった。目を逸らしてはいけない。意識をはっきりさせるんだ。

ここは?


自分の名は?

心星ファクトだ。



すると、スーっと別の世界が広がっていく。




『お前、本当になんなんだ?


あの時殺さなくてよかった。

俺に霊感があれば死んだって会えるのに、俺は霊視はできないから…。


思ったよりもおもしろいな』



バジンと、弾けた風景の中で誰かが話している。聞き覚えのある感触と声。


そして白と金の少しだけ麒麟のような竜が現れ、それはすぐに形を描けなくなって小さなイモリのようになる。


「誰?何してるの?」

誰かは分かったけれど、ファクトはあえて分からないように言ってみた。

実物はなんとなく憎たらしいが、小さな両生類ならかわいい。本当は爬虫類の方が好きだが、あいつの本体と比べればこの姿の方がいい。


「何かの真似をしているの?何になりたいわけ?

竜の方がカッコいかったのに、なんでイモリになるの?」


一生懸命形を保とうとしているが、崩れてしまうあの男。

最初は意志で変身をしているのかと思ったけれど、がんばっても形を保てないのだと分かった。初期のAIが描く絵のように、どうにかイモリには見えるが、どんどん形態や柄を変え全く安定していない。何か見ている方が辛い。助けてあげたいけれど、どうしていいのか分からない。


あの男はそんな不安定な形のままファクトに話しかける。

『あの女だどこだ?』


「あの女?」

『竜になった女だ。』

「竜?」

『お前といた女だ。黒くて長い髪の…長いスカートの…』



響さんの事か?



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