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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十四章 私はユラスの夢の中

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82 タラゼドと二人



あれ?あっちアンタレスじゃないよな?


ファクトはそう思って、光のある方を開いた手の平で指す。

「…………」


パネルを見てもそこは東南で、ユラスから見ればメンカルなどの方角だ。

もしかしてチコはメンカルのいるのか?それとも同じ光の持ち主?


チコの伝心やサダルの幽体離脱みたいなのを真似してみるが、何も起こらない。ファクトは聞き取ることしかできないが、チコは自分の言葉を相手に伝心出来るので、イメージしながら試してみる。


『チコ?チコ!!もしかしてメンカルに人事?危ないよ!』


「………。」

待ってみても返事はない。



『北メンカルは危ないから戻ってきなよ。またクレープ奢るからさ!』


他にも、念を飛ばせそうな仏像気分になってみたり、伝書鳩を飛ばすイメージをしたりいろいろしてみるが返事はない。


そして気が付く。チコと通じたら勝手にユラスに来たことを叱られてしまう。

まず落ち着かねば。また失態を犯してしまう。チコの所在確認をしようと思うが、ワズンは寝ているだろうし、ユラスやベガス駐屯など軍の人間にそんなことを聴く訳にもいかない。ムギは電話が通じない。


早速、響にアプリで通話をする。アプリなら解析されないと国境越えが分からないからだ。よっぽを目を付けられていない限り。


そして、なんとか響が出た。

『ファクト?』

「響さん、今、大丈夫?」

『うん。いいけど今日も夕食会するの?』

「…何?タラゼドに会いたいの?タラゼドとは駄目だってリーブラが言ってたよ。」

タラゼドとファクトの会食である。

『違います…。』

「タラゼド、会食はするよ。残業がなければ7時に、いつも行く店の和食の方。」

『分かった。』

時差があるのでアンタレスの方が日の入りが早い。


「あのさ。ちょっと早急になんだけど、この前のサイコロジーサイコスって離れている相手にも飛べる?」

『…え?え?何言ってるの?1人でそんなことしたらだめだよ!』

「じゃあさ、チコみたいに相手に伝心を送ることってできる?」

『………私はその分野はあまり分かんないや。チコに聞いたら?』

「…分かった。」

『ちょっと!絶対に1人でしたらダメだよ。後で会った時に少し参考になることは教えてあげるから。』

「うん、ありがと。」


おそらく何かしらできるのだろうけれど、危ないことをするかもとワザと響は知らせなかったのだろう。



しょうがなくファクトは、山の方に光る小さな光を眺める…。


やはりそこには、白い薄靄の光と共に、鮮やかな紫とピンクが見えていた。



そして、その輝きが消えないように、

チコが無事にアジアに帰れることをしばらく祈ってトーチビルを後にした。




***




「………。」


店の前で会って挨拶だけして黙っている二人。

響とタラゼドである。


「ファクトが先に食べて待っててだってさ。」

「…はい。」



「………。」

店内で静かに待つ。今まで気にしたこともなかったが、なぜか今日は沈黙に耐えられない響。


「…どうする?それぞれ食べる?みんなでつまむものにする?」

「あ、タラゼドさんの好きな方で。」

「…じゃあ、居酒屋風でいこう。ファクトが好きだから、アジの南蛮揚げと唐揚げ…あいつフライばっか食ってるから、南蛮漬けにしておこう…。響さんも好きなの頼んで。」

南蛮漬けもフライだが。

「じゃあ…サラダ何が好きですか?」

「なんでも。」


食べながら待つが、なかなかファクトが来ない。

どうにか近況で間を持たせる。響は緊張しているのに、タラゼドはいつものペースだ。


「あいつ何してんだ?」

「待って。私が電話します!」

と言って電話をするが、なぜかアプリの方に自動で切り替えられる。

「ファクト?何しているの?…え?ええ??」


「どうした?」

「ワズンさんの家にいるって。」

「…ワズン…?一時期ベガスに来てたユラス軍人だっけ?また来たの?」

「…ユラス首都の家みたい…。」

「……。」

お互い顔を見合わす。


「…はああああ??」


『ごめん。だから行けなくなった。』

「来る気もなかっただろ?!」

どう考えても行けない。

『そうかな?響さんとゆっくりこの前の続きでも話しなよ。』

「この前?」

『警察署での話。』

「っ!」

『お土産は食い物でいいよね。じゃ!』

「おい!待てっ!」


「…………………」

お互い顔を見合わす二人。


そして呆れと紅潮の表情で目を逸らす。


「…二人だと何だし…、クルバトさんかラムダ君でも呼ぶ?」

響が連絡しようとするが、タラゼドが止めた。

「いい。ラムダは今週はバイト入ってるって朝言ってたし、クルバトだとあれこれ詮索される…。」

「テイクアウトして帰ります?」

「せっかくなら、少し一緒に食べよう。」

「………。」

赤くなる響。


「コパーさんとあれからお会いしたんですか?」

「?してないよ。」

「話したそうだったけどいいんですか?」

「…いい。今は今で、いろいろがんばってそうだし。」

「…………。」

あの雰囲気、彼女は会いたかった感じだけど。タラゼドはもし向こうがその気ならどうするんだろうと考える。

「………あの。私。」

「…?」

「タラゼドさんとどうにかなりたいとか思ってないので、警戒しないで下さいね。」

「……。」

揺れる瞳で静かに言う。


キョトンと響を見て…そして、小さく頷くタラゼド。


響はグビッと梅の炭酸割りを飲んだ。


「…………酔いました!」

「??ジュースだろ?」

「酔いました!!」

気分に酔っている。


「私また、お見合いするんです!」

「え?!」

「…お見合い…。」

「リーオさんは?」

「シンシーがお姑過ぎて、シンシーの旦那さんがダメ出しを始めたらしいんです。結婚前からあれではだめだと。それに、リーオさんはイヤです!」

「……なんで?」

「モテそうな人はイヤです!その上生活が合いません!!」

「……。」

「兄が怒ってて…。わたし…。半分は兄の紹介の人で、今まで全部ダメにしたから…。」

ここまでモテるのに、なぜそんなにお見合いがダメになるんだとタラゼドは不思議に思う。蛍惑からの紹介なら家格は合うだろう。


「私、あの家では何もできない子なんです。出来損ない扱いで…。」

「…?」

「親や兄の希望の大学にも行かなかったし、兄や………姉もいるんですけど二人みたいに名のある大学にも行ってないし…会社経営とかも出来ないし。全然……不出来で…。」

蛍惑ペトロ女子は超お嬢様学校だ。十分であろう。就職先も大企業や公務員だ。卒業しただけで箔が付く。

「え?だって響さん、薬剤師に受かって大学講師っていうだけでも十分じゃ…。」

「…それで、どこかの開発や研究職に就くわけでもないし…。」


響は大学講師、その兼業で薬剤師合格、分野によっては医療や看護の経験や技術もあり、そして何よりDPサイコスターだ。最後の職に関しては、アジアでも数えるほどしかいない。ものすごい経歴ではないか。


これで出来損ないとか言われたら、下町ズはみんな出来損なう以前の問題である。形成以前だ。

タラゼドの家族なら薬剤師合格の時点で、嫌だと言っても盛大なパーティーを開いてくれるだろう。


「サイコスの事はお兄さんは知って言ってるの?」

「家族は知っています。何かの仕事をしているということくらいは…。でも、国連や国家組織に行かなくて漢方医になりたいって言ったから…。」

「いいだろ。それで。」

「でしょ?!でも兄は怒っていました。その時は「はい」って言う事を聞いてから、あとでベガスの公的機関にスカウトされた形にしてこっちに来たんです…。」


「あっという間に歳を取るからせめて嫁ぎ先くらい決めておけと…。」

「………。」

「蛍惑はまだそういう考えが多いんです。ユラスほどではないけれど、女性は早めに嫁いで夫を支える…。

家庭は持ちたいからそれも分かるんです。でも多分、兄は言わないけれど、奥さんが子供ができにくくて苦労したから、そういうのも含めて早くした方がいいとかもあると思うんですが…。

だけど、私。お兄様が紹介するようなエリートの男性を支える自信はありません…。」

タラゼドも、まあ、響はできる夫や会社を支える重役夫人向きの性格ではないなとは思う。


円満なんだろうな、と思っていた響の家庭関係にこんな事情があったことにタラゼドは驚く。

妄想CDチームでもあるまいに、自分をこんな風に卑下するなんて。…あ、響は妄想チーム寄りではあるが。


「響さん、嫌ならお見合い断ればいいよ。ご家族は蛍惑なんだろ?今回はやめたら?」

それに、シンシーがブチ切れて乗り込んできそうだ。


「そうだよね?お見合いはもういいよね?!」

「多分…。」

「あっ!でもだめだ…。」

「?」

「大房のせいで、モテ期の運勢を膨大に使ってしまったから、この機会を逃したら結婚できるか分からない…。もう運勢が底をついてそう………。」

「…………」

テーブル上の拳を握って真剣に悩んでいるので、「そこは大丈夫じゃない?」とは言いにくい。しかも大房だけではないのに大房のせいにされている。


「それにお兄様怖い…。お姉様も…。逆らったらまた冷たくされる…。」


うお!お兄様とか言っている。ファクトが喜びそうなネタなのに、ファクトがいなくて惜しい。



「でもいい!私がんばります!」

は?何を?と思うと、いきなり電話を掛ける。


通話の向こう側で何か声がした。

「…お兄様?」

お兄様!

本当にお兄様とか言うんだ…。大房と違い過ぎる…と観察してしまう。


というか、どこに電話を掛けているのだ!



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