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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十四章 私はユラスの夢の中

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79 どちらかと言えば草食系男子



「久しぶりだな。ファクト。元気にしていたか?」

「はい。総師長、いつもお疲れ様です。」


ファクトの目の前には、久々のカストルが座っている。案内した女性は、飲み物を出すと席を外した。


「よかったな。丁度出張から帰って来て、3日間は首都にいる。午後はフォーラムだ。」

「…忙しいんですね。なのに、自分の用事ですみません。」

白髪で少し長い髭のカストルは執務机から応接席に移り、ファクトもそちらに座った。


「トップ博士で牧師夫妻の息子が、簡単に貞操を捨ててしまっては困るからな。けっこう重大な話だ。」

ファクトの両親は神学校も卒業している。新時代の宗教やエリート層は、幼いころから霊性の内容、性や異性との距離の置き方を学んでいるし、霊性が整えられているので殆どがきちんと貞操を守っていく。

「………。」

男しかいないが、何とも言えない気分になるファクト。



「では、話が終わったら来ます。」

ワズンが出て行こうとする。

「あ、今更いいですよ、聞いてても。その代わり、チコたちには今回の事はまだ言わないでもらえますか?」

「ならワズンもいるように。男同士の話だからな。向こうには言わないでおく。ただ、こっちでワズンと合流したことだけは報告させてもらった。心配して余計に検索されるといやだろ。」


いや、そうじゃないんだけれど。と思うが、とりあえず話を進める。欲情や結婚話をしたいのではない。




「この女性。誰か知りたいんです。」


ファクトはホテルで便箋に描いた絵を見せた。

「……………」

カストルとワズンが覗き込む。


「…。」

3人沈黙する。



「え?これは宇宙人?」

「いや、熊人間だろ。耳?犬?」

「それは髪の毛です。カールしてたから。」


「女性です。夢で見た。」


「…………。」

カストルとワズンが、ファクトを見て沈黙する。絵が下手過ぎて、人間なのかも分からない。


そして、二人は少し困ってしまった。

「…この女性を夢に見るほど惚れているのか?」

「はい?」


「何言ってるんですか?違います!!この人は子持ちです!」

「既婚者に惚れている??…バツイチか?!」

「それは、最初に好きになるには飛ばし過ぎてないか?!!!」

「いいか、ファクト。冷静になれ!!!!」


「違いますっ!!!!そっちが冷静になって下さい!!!!」


こんなに動揺する面接は初めてだ。心臓がいくつあっても足りない。

前に占ってもらったときの話からしたのが間違いであった。



「…………。」

一先ず、心を落ち着ける三人。


お茶を飲んで精神をリセットする。




「……では話を再開させよう。」

「はあ、一旦女性の話から離れてほしいのですが………。

そこまで女性に飢えていません。根は草食系なので、女子がいなくてもゲーム仲間と対話して時々オフ会できれば満足です。そもそも、好きでもないし相手にも失礼なのでやめて下さい。」


「オフ会?」

ワズンはオフ会の意味が分からないようだ。

「ファーコックを守るために営業に行く食事会です。」

「?」

二人とも意味が分からない。西洋ファンタジーのオンラインゲーム、『ゴールデンファンタジックス』でフルアーミーのファーコックを仲間から外さないように懇願しに行く会の事である。ファクト的に。

でも、今ログインしても、ラムダとジャミナイ、お情けでジェイしか仲間になってくれないだろう。あとシリウス……。



「………。そうか。」

「そうです。」

「ファクトは草食系なのか…。」

「それもそれで問題だな…。」

「あ、もうその話はやめましょう。」

素早く打ち切る。


そして、絵を指してしっかりと話す。


「夢で見たこの女性が誰か知りたいのです。」


「これは女性なんだな。この周りの四角は?これは写真とか絵なのか?」

「布団が掛かっているじゃないですか。ベッドです。」

「…。」


「ファクト。説明してAIに描いてもらった方がよくないか?それか、ただ説明する方がいいかもしれない………。」

折角描いたのに、納得いかない。でも、あまりにも分かってもらえないので仕方ない。

「………分かりました。」


「響さんのサイコス施術中の時にもこの人を見たんです。」


「っ?」

カストルが思わずファクトを見た。

ワズンは部下のサイコスも把握しているので、響がサイコスターという事も知っている。


ファクトは説明しながらAIに描いてもらう。

「多分背が高くて……大柄の女性で、内陸のユラス人より肌の色は薄く………、髪は白かな、銀というのかな。カールが掛かっている。

顔は知的な感じで、でもよく見えなかった…。だけど、見たことのある顔………。」

ファクトの言葉に女性が描かれ、どんどん形を変えていく。



カストルはを見入る。


「いつも病院のような、ストレッチャーにもなる固いベッドに寝て、でもきれいな掛け布団を掛けています。綺麗というか清潔で高品質な白い布団………こんな感じかな…。」


ファクトが言い終わると、なんとなく記憶に近い立体映像ができた。



「………。」


そこまで言って、カストルが言葉をなくしているのに気が付いた。


画面の女性をじっと見つめる目が、どこか違う世界を見ている。

「総師長……?」



何かを憧憬するカストルの目は、過去にいた。


言っている銀のような、クリームのような、白の髪。薄褐色の肌で、誰よりも高貴であろうとし、高貴であった女性。



「…もしかして、ニューロス研究と関わりのある人ですか?」

「……!」

なぜそこまで…と目を見張るカストル。


「でもどの段階の深層にいた人か分かりません。チコなのか、シェダルなのか。響さんではないと思います。生きている人なのか、死んでいる人なのかも。

あと、心理の中なので、始め誰かの空想の人間とか、何かの感覚が擬人化されたものかと思ったんですが…………やっぱり実在する人なんですね。」


「なぜ両親に聞かなかった?」

「機密主義があるでしょ。言わないと思うし、言ったら全包囲網を張られると思って。」

「チコには?チコもニューロスに関しては渦中の人だろ。」

「チコも立場的に言わないことも多いのかなと。」


「私にも秘密事項は多いぞ。」


「前に『織女星(しょくじょせい)』の話をされていましたよね。後で女性のことだって分かって、見てくれた総師長なら話をしてくれるかな…と。」

「………なるほど。」


「亡くなった方ですか?」

「…………そうだな。」

「…………あの占いはモテモテになるという意味かと思いましたが、まさか女性の幽霊たちに憑り……つかれるという話だとは思いませんでした。」


「…()()と言う事は、他にもいたのか?」

「あまりよく覚えていないけれど…、いた気もします。サラサラ落ちていく砂みたいな…宇宙みたいな。砂?」

自分で言っていて分からなくなる。


「…そういえばワズンさんも見ましたよ。チコの深層かな?」

「…?!」

「オレンジを持った人もいました。」

ワズンが一瞬驚くが、ふうっと息を吐くのが分かった。


カストルは考えた末にゆっくり答えた。

「ただ、こちらにも考える時間がいる。サイコス中だけでなく夢でも見たのか?夢とサイコスが混合していたとか?」

「昨日のは夢っぽかったですけど。」

「響には話したのか?見た内容はともかく、霊世界を見ているのか、夢か深層か、深層状態は確認した方がいい。」

「あ!起きてすぐユラスに来たから、響さんに相談するって考えがなかった!」

呆れる二人。寝起きで来たのか。


「あと、先のこの女性はここで収めてくれないか?私にも考える時間がいる。」

カストルがあご髭を触って、何か考えている。

「………まだ、確証ではないし、もう少し考えたい。いつまでユラスにいるんだ?」

「……テキトウに。」

「学校は?」

「思ったよりすぐ行き来できるから、必要なら帰るし………また来るし。」

「そうか。ワズン、仕事終わりにすまんが、少し見てあげてくれ。」

「はい。」


「ここだけの話にするのは分かりました。その代わり、僕がこれを聴きに来たことも、ひとまずSR社に関わる人間に言わないでくれますか。」

「……ああ。有事や緊急以外では約束する。ワズンもよろしく。」

「はい。」


「ありがとうございます。」


少しだけ雑談をしながらお茶を飲み、ファクトとワズンは教会を出た。






部屋に残されたカストルは窓の外を眺める。


なぜ今、『北斗』が………。

いや、彼女はずっと言いたかったのかもしれない。


でも、彼女は、今だって、私たちのそんなに遠くいるわけではない。

彼女は()()の中にいる。



なぜなら…………




***




「シリウス?」

SR社の社員が、今日のイベントに出るシリウスと人間との事前打ち合わせをしながら、シリウスを呼んだ。


「…あっ。はい。」

少しだけハッとしてしまうアンドロイド。


「ふふっ。そういう所、本当に人間みたいですね。シリウス、聞いてました?」

社員が楽しそうに笑う。

恥ずかしそうにはにかむシリウスは、周りにちょこっと頭を下げる。


イベントの為に呼ばれたMCは、今回初めてシリウスと組むらしく、ワクワクを隠せない。

「他のアンドロイドと全然違いますね!なんか仕事の後輩と話しているようで…かわいいです!」

「ははは、私はどちらかと言うと内性はお祖母ちゃんですよ。」

「おばあちゃんでも、かわいいおばあちゃんですよね!」


「………ありがとうございます!その言葉、素直に誉め言葉と受け取っていいかしら?」

「ええ!」

「本当にシリウスと組めるなんて栄光です!ちょっとメイクを直してきますね。」

楽しそうなMCにニッコリ笑うと、シリウスは大きなガラス窓の下の街の喧騒を見る。


「…………。」

少しだけ自分のデバイスをいじるシリウス。このデバイスはシリウスとそのままの関連性はない独立したものだ。もちろん全てSR社に把握されてはいるが。


せっかくアカウントを作ったのにファクトは登録してくれないどころか、全て拒否だ。

ラムダのゲームアカウントの個人メッセージから『ファクトは旅行でどっか行っちゃたよ~』と入っている。


………ファクトはアジアを出てしまったのね。



シリウスはわざと多くの事に関連できないように設定されている。プライバシーや軍事関連にアクセスしたりや国際問題にならないようにだ。様々なイレギュラーな例はあるが、その時は感情や個人的思考は制御されることもある。世間体の名目上の話ではあるが。


それにしてもつまらないとシリウスは思う。


河漢には南海やアーツ以外の人間たちがたくさん入って来た。



どんなに広大な情報と繋がっていても、シリウスは不自由で、そして寂しかった。




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