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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十七章 フォーラム前夜
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7 戒禁を破った男



いきなり立ち上がったのは、黙って見ていたティガ。


「テキトウじゃない!ちゃんと全部型がある!ほら!キファ、踊ってみろ!!」

大房でダンスをしている人なら、大体知っている基本ステップ入りの練習曲動画を掛ける。


「ほら!響さん。ちゃんと動画の人と揃ってるっしょ?アドリブでないし、テキトウではない!」

「そうだね。そんな感じはする。なんとなく。」


動体視力もなく脳処理もできず、響はよく分かっていないというのを悟るティガ。

「…。響さんってよく藤湾でチンピラ数人倒したね…。彼らも武術の手練れって聞いたけれど…。」

疑いしかないティガである。響が数人お釈迦にしたことは実はアーツ内で話題になっていた。そう、あの時アーツは簡単に倒したように見えても、一応マフィアの下っ端。数人は武術習得者だったらしいのだ。



とりあえず動画を1回流しで全員で見て、

「ファクト、クルバト。お前らもいけ!」

と、ティガが言うと音楽に合わせて3人動きが合う。

「おお!すごい!!私も習いたい!!」

初めて見たソラが盛り上がる。揃っていると3人でも圧巻なのである。

「へえ。クルバトさんもダンスできるんだ!」

全然野心的な顔をしていないせいかソラに驚かれるので、ピースしておく。

「ティガさんはダンスしないの?」


「俺も少ししてたけど、この前、足捻ったから。」

「え?そうなの?ちゃんと診てもらった?」

響は急に世話焼きオバちゃんモードになって、足首を出さてテーピングを確認する。

「私も巻けるからなんかあったら言ってね。」

大房のオバちゃん過ぎて、またしても無言で抱腹しているティガであった。



「響さん。これ、もう少し簡単にして覚えようよ。いい運動になるよ。」

棘のないファクトが言うと少し出来そうな感じがする。

「そう?頑張ろうかな?」


「ダウンアップもフォークダンスもできなかったのに?」

せっかく響のやる気が出たのに、バカを見てしまったような顔でキファが言う。

「……」

これ以上、響も反抗はしない。悔しいがちょっと無理そうと分かっている。

「ファクトは教える手順を知らないだろ。多分響先生には合ってないし。」

「え。キファひどい。」

ファクトも傷つくが正論ではある。ファクトは教えるのが下手なのだ。



そこで、響は新しいことに目覚める。

「…あ、そうか!もう試験も受かったし、ジムに通えばいいんだ!プロのインストラクターを付ければいいし。」


実は論文は行き詰って、一旦やめてしまったのだ。DPサイコス分野は希少すぎて、別に急がれていないどころか、本人が動いてくれたら万々歳な世界なので、論文の主導権は受け取る側でもなく響本人にある。でも公表すべき線引きが結局1人では出来ず、気分を変えるためにこの前あまりに運動不足を指摘されたので、朝練を始めたのである。



運動が出来なさ過ぎる響は、懲りずにジムから始めることにした。そうして、もう1回ムギに習ってハーネスの命中力をあげるか、少し新しい技を習おうと決意する。


ファクトも体育専門の教育課程も取っておこうと決めた。ラムダに腹式呼吸を教えて、できるつもりになっていたが、見て覚えてしまえるタイプなのでやっぱり人にうまく説明できないのである。




***




その頃、サダルから情報を得たSR社ではシャプレー、ポラリス、ミザル。そしてその他の主な研究者や運営陣で会議が行われていた。


「タイナオスでニューロス研究が行われ、北メンカルにも相応な施設があった…。」

ポラリスが、北メンカルで見て来た施設の具体的資料を見ながら、デバイスに新しい情報を入れていく。


「多分、私を引き込みたかったとは思うが、それにしても明け透けだったな。」


北メンカルはポラリスを取り込みたかったのだろうが、それが失敗した時の策を全く持っていないようだった。ポラリスの記憶力なら、記録を撮れずとも設備の概要を頭に全部入れておける。なのに彼らは、そこまで考えなかったのかどうなのか。


「投げやりな分怖いともいえるな。四面楚歌で自暴自棄になっているか、既に次の算段があるのか。」

シャプレーはあの男、シェダルを思い出す。シリウスが既に接触しているが、動きが把握できない。


「タイナオスと北メンカルでは、連合国家に対抗できる決定打に欠ける。サダルのいた施設も、高機能ニューロスアンドロイドを作れるほどではなかったなら、どこかに隠し玉がありそうだな。」


「…ギュグニー?」

ミザルが静かにささやく。


ギュグニーは勢力分散地域だ。これまで、ギュグニーで大きな先端事業ができるとは考えられていなかった。国内が混乱していて、高度開発をするには物資があまりにも滞っているからだ。

ただ、過去に逃亡した研究者数人が、他の先進諸国にもいないしタイナオスにもいない。拉致の可能性は低い。ともなると、閉鎖された空間、ギュグニーなのか。


停滞地域ではあっても、アジア人とユラス人が行き来する場所だ。



全員が少し静まって、彼を思い出す。

過去に、情報を持って逃亡した人物たち。


逃亡の中心人物はSR社や連合国従事者の戒禁(かいきん)を犯した。


それまで研究所やその上司、正道教に不満を抱いていた他組織も含む数人の研究者も、その男に傾倒した。彼は突然、自分で作った高性能ニューロスヒューマノイドを配偶者、パートナーにしたのだ。

人類が作り出した新しい人類こそ、人類の対等なパートナーであり、人間の選択肢の一つであると。


「物語の中だけにしておけばよかったのに…。」

ミザルが鋭い顔で言う。


彼らが動いていた可能性がある。それに彼らは、SR社、大きくは連合国に対して爆弾を持っていた。



お前たちこそは神の戒禁を犯し、人権を侵し、ニューロス研究を進めた人類の犯罪者であると。




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