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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十三章 ユラスの荒野に潜むもの

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69 お願い、生きて。

※残酷描写があります。



このロボメカニック期間、何もなかったかと言うとそうではない。


ニューロス超反対派などの未遂事件も含めると、6か所で騒ぎがあり30人近くが逮捕、拘束されている。サイバーテロに至っては、いたずらレベルの個人も含めるともっと多くが拘束された。


ただし、水面下で最も重要事件とされたのは、一見何事もなかったと思われるジャミナイのジャンク屋の件だった。




***




一方、サダル不在ユラス大陸の端の荒野。


ジープなどを走らせている男たちの中に、少し成長した小さな少女がいた。


民族衣装のフードを深く被ると、少年か少女か分からないスッキリと整った顔。女性ならそこまで低くはない背だが、子供の頃の印象のままなのか、細いからか、なぜか小さく見える。



「どうしよう、中学留年間近って送られてきてる…。」

ソイドからの容赦ないメールに半泣き顔の少女。


「リン、大丈夫だ。この仕事が終わったら俺が見てやる。ネット授業でも大丈夫だろ。」

「それだと、45分ずっと画面の前にいないといけない…。写真プリントして張りぼてじゃダメかな?」

「生体存在確認されるからな。大人しく受けておけ。」


『リン』、そう呼ばれた少女ムギは、ジープの男たちに笑って励まされたが、本人は本気で落ち込んでいた。


彼らは肩から機関銃を下げ、荷台にも重機関銃が設置されている車を勢いよく走らせていた。




小さな古いコンクリートの家が並ぶ集落。


目的地に着くと、数台のジープや軍用車両タンクリー、トラックなどは砂埃をなるべく上げないように止まり、迎えに出た町長たちに挨拶をした。


彼らは武器も持たず、物資も貧しかった。周りに町民と思われる人々が集まっている。


ムギと共に来た、少し鮮やかな民族衣装や軍服を着た男たちは、代表と町長たちが話しているうちに、支援物資をどんどん下ろし、町の男性と指定の場所に収めていく。


そして、話が終わったところで、4台のタンクリーから20人ほどの少年少女が降りて、一斉に町民の中に走っていく。

「母さん!」

「おじい様!」

など、様々な言葉で家族の元に飛び込む。待っていた大人たちは、子供たち以上に顔をゆがめ、殆どが泣いていた。


「本当にありがとうございます。」

町長夫人も泣きそうな顔で頭を下げる。


おもてなしはいらないと言ってあったが、町の会館の絨毯には、質素ながら多くの料理が並べられ、こちらの面々や町民の代表者たちが座って顔を合わせた。


そして、この町の信仰する聖堂の祈りが終わると、年長者と連れの代表たちから食事に手を付ける。

次に、ここではリンと名乗っているムギに進める。

「いえ、先に町の皆様がどうぞ。」

「いや、リン様からお召し上がりください。」

戸惑っていると、連れの代表者も進めたため、ムギは目の前のコロッケのようなものを手でつかんで食べた。

おいしいとニッコリ笑う。


町の人々が笑うと、外でも食事が始まった。



町中が小さなお祭りのように騒いでいる中、町長やムギたちの周りは深刻な話をしていた。

「まだ、こちらに学校を造ることはできませんかね…。」

「むしろ、今が一番危険です。ここはギュグニーの下だ。今、町を再建しても、何かあったら真っ先に被害を受ける。」


移民にならなかった彼らは、非常に微妙な位置にいる。ギュグニーから相手にはされてはいないが、向こうが動き出したら拠点にされるだろう。一応連合加盟国軍の保護下に入っているので、どうにかそうならずに済んできた。


最も近いユラスの市街地では、逆にギュグニーに近い危ない集落と敬遠されている。


この町、地域はユラス大陸に属するが、民族は西アジアに近いため、ユラス保守の関心は薄い。



そのため、ムギの提案で、子供たちはユラス首都郊外の寄宿舎学校に普段はいる。

働き手がいなくなる、町の不定期学校でいいと嫌がられたが、水準の高い教育を受けるのが最優先だとムギが粘った。その後、全ての子供が対象になり、10歳以上は必ず、小学校までは親同行でもよく、高校までは無条件見てもらえる。障害者家庭は希望なら年齢関係なく移動ができた。生活は、全世界のユラス共同体が支援している。


この状態が続く期間は町に生活食糧物資と、電気の供給がされることになった。ソーラーのためバッテリーなどの管理もしてくれ、その修理技術も教えている。


今回はそのついでに親元に帰省したのだ。全部で100人近く寄宿舎に入ったため、帰省は交代。1年で数回、たった3泊の滞在。そして、そのついでに故郷の社会文化教育ができる大人も帰りはユラスに同行し子供たちに教える。そして、彼らは今度、帰った時に町の人に必要な教育を施す。


なお、親子共に伝えているが、寄宿舎期間にこの町に何かあったら、子供たちは帰れない約束も取り付けている。疎開先でもあるのだ。



「この子たちは、ユラスかアジアのレベルの高い高校に送れます。おそらく大学も行けるでしょう。そのまま大学教育を続けることを希望している子たちです。」

リストを映す。

「今度までに電話でじっくり親子で話し合って下さい。」


子供たちが戻って来なくなる、という懸念はもちろんあったが、少なくとも今の時点でここが子供たちの安全地域にはならないため、両者共にその話はしない。ただ、今は未来を見るしかない。





すっかりあたりが暗くなってきた夜。


ムギは街はずれの荒涼とした岩の上で空を見る。


星が眩しい。



きっと北メンカルかギュグニーが動くだろう。その時、ここにいる人たちを、近隣のユラスが受け入れてくれるよう、早く約束を取り付けないといけない。町と言ってもほぼ村規模だ。ただ、文化が違い過ぎて衝突もあるだろう。この地域は比較的外交的なオミクロン領の近くだが、近隣市街は非常に堅固なユラス教の西ナオス族だ。

そんな、もしものその後に起こる問題も想定していかなければならない。






自分の故郷、アクィラェを思い出す。



渓谷でうつ伏せに倒れていた男性。

民間人?



翌日戻って来たムギは、周りに北メンカル軍がいないことを確認し近付く。倒れた男を揺すっても起きない。いくつかの血だまりと、この体の硬直具合に背筋がゾッとする。


顔を確認しないといけない。彼は誰?



…………


本当は知っている。彼が誰だか。なぜって、昨日会っているからだ。服を見れば分かる。



お願い。もうやめてほしい。もうこれ以上…………

手を胸に当て深呼吸する。高鳴る心臓の音。



まだ小さかったムギは、地面で凸凹する岩を利用してどうにか体をずらして、顔を見れる位置に動かす。


「!」

幼いムギはそれでもその顔をしっかり見た。



チコ・ミルク・ディーパの腹心の弟、シュルタン家の三男だった。民間人である。


ムギはしばらく仏に手を合わせたが、やさしかったその人を思い出し、小さな動機が止まらない。




その50メートル先で、瀕死の状態で倒れてそのままになった、彼よりは後に亡くなっているメンカル側の男性兵も後に発見された。男性兵の傷跡は、民間人につけられるものではない。おそらくもともと傷を負っていたこの兵士が彼を殺したのだろう。調査で、銃弾が一致した。

兵士もこれほどの傷ならおそらく彼はどうにか対抗することもできただろうに。離れた所から狙われたのか、接近されたのか。ショートショックが近くに落ちていた。


でも彼は、その傷付いた兵士にトドメを刺すことができなかったに違いない。



残党は負傷した一人しかいなかった。こちらも女性を中心とした民間人しかいなかったが、あの時一緒に移動していたら…彼は死ななかったかもしれない。



彼と、その家族と、チコへの責任がまだ9歳の少女に重くのしかかった。



長男カフラーが亡くなった話は一部の世界では有名だった。

その噂を小さな少女はどんな思いで聞いていたのか。



チコは二人の嫡男を死なせたことで、最も大きな支えであったオミクロン一族を無くしたことを、当時のムギには言わなかった。その当時、一族でチコを支えたのは、カーフとレサトの家門とその周辺だけであった。






ムギの見ている星が揺らいできた。



「リン。大丈夫か?」

この一行に同行した友人ニッカの兄アリオトが優しく声を掛ける。


ムギの声が震えている。

「アリオト兄さんは…絶対に、絶対に死なないでください。」


「大丈夫だ。そんなに簡単に死なないよ。」

「…………。その人もそう言ったんです。負傷して、でも後で追い付くからみんなと先にって…………」

「…………」

「私、何か危機があることは分かってたんです。敵意を感じたから。急がなきゃって。」

「………。」

「私が支えるって言ったのに、なのに。すぐに追うからって私を急かして…。でも…来ないから…。嘘つき………」


ムギはひどい言い訳だと自分で思う。親族が聞いたらなんと思うだろうか。

「…嘘つき………」

「……」


「リンこそ、そんなに生き急いではいけないよ。」

誰よりも消えてしまいそうな、顔を見せない少女を、後ろから静かに眺める。


でも、今はこの小さく細い体を支えることはできない。以前に見た時より、背は伸びたがやつれた気がした。



次は南北両メンカルへの交渉に入る。気を抜くことができない。



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