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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十二章 とにかく人が来る

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67 それは『力』ではない



恐ろしいことに、その後ジャミナイのジャンク屋には特警と、サイバーに関する東アジア軍部サイテックスが入って来た。

一応、周囲をビビらせないという事で、それぞれ3人しか入っていないが、サイバー関係なのに筋肉隆々の人たちが来て、他の店が異変に気が付き心配そうに見ている。


「マジか。なんだあいつら。」

ファクト、リゲル、ラムダ、ジャミナイの4人は座って待機させられていた。

「マジうちの仕事、絶対荒らさないでくださいね!見てもいいけど情報抜かないでくださいね!」

極悪人面のジャミナイが敬語で懇願する中、同意書を書かされて十数台のノート内を見られている。


この時代OSは全て住民番号と照らし合わせシリアル登録されているので、普通の人には複製も同ナンバー共存もできないし隠しPCも作れない。デバイスも含め全てのOSを出すように言われ、隠していてもバレるのでジャミナイは仕方なくさらに数台のPCを出してくる。


中枢システムから完全独立させたかったらクラシックPCしかないが、ネットにつないだ時点で分かるし、モノによっては遠隔でもすぐに存在が分かる。




「大丈夫だった?」

そしてなぜか心配そうな響もいる。


「…響さん。」


「おい、ファクト。きれいなねーちゃんだな。大房民じゃないだろ?」

格好は地味だが、よく見るときれいなお姉さんなのだ。

「ジャミナイ、響さんに関わらない方がいい。」

従弟リゲルが珍しく忠告した。

「お前が言うのか?」

珍しいと首をかしげるジャミナイ。



そこに、さらに恐ろしいことに、ユラス軍の護衛を付けたサダルが入って来た。


「ふぁ?」

長身、端正、軍服、無表情のあまりにも場違いな男に、ジャミナイがさらに驚愕する。


「議長?」

ラムダやファクトも驚くが、サダルは何も言わずにサイテックスから事情を聴く。しかも周りのサイテックスに礼をされて、サダルは勝手にジャミナイのノートを受け取ると、何かを調べている。



「ファクト。ちょっと来い。」

ファクトはサダル、響や軍以外の人間に会話が聴こえない位置に呼ばれる。

「はい?」

「シリウスの姿をしていたのはなんだったと思う?」

「?」

少し考えるファクト。

「………モーゼス?」

そのままサダルは作業を続ける。


「…シリウスが侵入したのは確かだな。」

「護衛ロボの方?」

「…………」

聴いてきたくせにサダルは答えず作業を進めるのでファクトはむくれた。


ファクトとモーゼスの間には、発表会場でお披露目を見た顧客という以外、直接的なつながりはない。間接的には、ベージンのライバル会社の重鎮の息子。だが、違法の危険を踏まえてまで、ファクトと縁を結ぶには理由が弱い。


「西…。西と言っていたんだな?」

「そうです。」


ギュグニーか、ユラスか。



サダルたちと響はこれで1つ分かったことがある。


シェダルとモーゼスに何か繋がりがあるという事だ。


これはシステム的理由ではない。おそらく感情的理由だ。

ベージン社にしてもギュグニーにしても、この時期に、いちいちこんなことをする必要もない。社会的攻撃をされる理由、弱みや無駄な情報提供を残すだけだ。


自分で動けないシェダルが、響に接近するほどのDPサイコス能力も未開で、変わりにモーゼスを稼働した可能性が高い。そして、なにかがモーゼズと連結した。




サイバー特警は、サイテックスやサダルから記録を貰う。ジャミナイたちやジャンク屋はもうしばらく監視に置かれるが、侵入者がファクト狙いで彼らも被害者という事が分かっているのですぐに解放された。


そしてこういう時に、警察はついでに店の犯罪や不正を洗い出していくのだが、見た目によらずジャミナイは法に沿って仕事をしていたので特警側はつまらなさそうに去って行った。


「電気操作をするつもりだったのか…?」

サダルがぼそっと漏らすと、側近が深刻に受け止める。

「ベガスのメンバーにも対策が必要ですね。」




そこで、ファクトだけ指示を受けた。

「ファクト、着いてこい。」

「え?イヤっス!」

サダルに言われて思わず反応する。


「命令だ。」


ヒェ!という顔でおののくファクトと、憐みの目で見送る友人たちであった。




***




倉鍵の研究所裏の屋敷に入ったファクトとサダル、そして響は、そのまま裏からシリウスのいる空間に入った。



大きな窓のある、美しい白い部屋に入るとそこにはシリウスがいた。


「まあ、こんにちは!」

「どうも。」


ファクトはいつもの感じで挨拶をするが、サダルはいきなり本題に入った。

「対で話すのは初めてだな。」

「ええ。初めまして、サダル氏。」

シリウスは丁寧に礼をする。サダルはシリウス開発の一人だが、完成体になってからの対面はしていない。


「ファクトに付きまとっているのはなぜだ?」

「…………」

すぐに返事はしない。が、ゆっくり口を開く。

「…危なっかしいんですもの。」


「………。」

サダルと響が、そう言われたファクトを見る。確かにフワフワ落ち着きのない子供だ。でも年越しして卒業すれば成人である。


「完璧過ぎないから執着しやすいのですわ。」

「…………」

「チコだと隙がないでしょ?システムの事も分かっているし、そして正しく報連相される。

ファクトはヌケヌケですから安心です。SRにも寄り過ぎない、いい位置にいますし。」


アンドロイドにそんなことを言われ、少し怒るファクト。

「…そんなの、丸々響さんじゃん。」

「え?ひどい。そんな事絶対ない!」



絶対ヌケヌケ似た者同士の2人を放って、話を進める。


「ファクトは、私の中で『人の象徴』にしやすかっただけです。」

「………」

サダルはそれ以上は追及しない。


「モーゼスのモデルはシェダルか?」

「おそらく。」

「モーゼスに勝てるか?」


「今は…。でも、彼女の目的はメカニック的技術やシステムで勝つことではありません。『人の認識を変える事』です。

人間が自分を人と同じ立場で受け入れれば、十分なのだから。」

そうなのだろうなとサダルは思う。技術やシステム自体ではSR社には到底勝てない。



ある意味彼らは賢い。力で勝たなくともいいのだ。

人の心を取り込んでしまえば、最強を圧倒する技術も、武力もいらない。


現代の人間は、無条件美しいものに惹かれる。そして、それなりの技があり、自分に関心を寄せてくれるものに。


蛇がそうだったから、モーゼスはその手法を使っただけだ。



実はサダルやチコも、最終的には人を取り込む形で勝利してきた。能力ある人材を殺し、物資を破壊することほど無駄なことはないし、その愚かさを身をもって知っている。

それに、もう人類はあれこれ後退荒廃している場合でもないのである。




「まだ世界は、近代回顧時代を抜け出しきれていません。

宗教性をカルトに押し込め、国会と教室から神を排除した時代を引き継いでいます。とくに近代回顧時代の先進地域ほど。」

アンタレスもその枠に入る。

過去の先進国家は、殆ど神性を失っていた段階からここまで回復した。でも、それはまだ一部に集約され、全体としては未熟な段階だ。


宗教性や神性が、全ての人に内在するものという事を忘れてしまっている。


世界大国は、過去の教会暗黒時代の無知と腐敗、そして新しき自由の名において、神性を捨ててしまった。

それによって、さらに神性は忌み嫌われ、主要の知性、知識層に敬遠されるものとなった。そのため、またさらに間違った方に霊性を使われても人間は区別がつかない。つまり、その時代の人間の神性、霊性は多くの場合すっぽり抜けている。


だから、蛇の手法が分からないのだ。それで何度も同じ手に引っ掛かる。歴史上、何度も何度も。



「神の言葉を魔術や魔法と同じように物理や、時に神秘な不思議な力として受け止め、それが人に向けた『理知や精神性、道徳性』の話であることに気が付いておらず、転嫁し切れていません。


人間の心は理想と動作を連結させる複雑なシステム開発は必要としないので、心さえ許してしまえば、あっという間に全てを覆してしまいます。」


今の彼らには、精神性においても霊性においても、人間とそれ以外の区別がつかない。

その事実が問題として、全ての人、少なくとも為政者に理解されるまで、戦争や貧富の差は終わらないだろう。


「人間ほど複雑なものもないのにな。めんどくさい…。」

「今、世間に何を言っても、寝耳に水です。ベージン社に焦っている、SR社や保守の戯言にしか思わないでしょう。ただ、策は要ります。」



「?」

ファクトにはなんとなくしか分からない。


でも、賢いことを言っているようで、そんな模範的だからモーゼスに足元をみられるんじゃな?とファクトは思う。人類みな、優等生は苦手なのである。人は堕落したから似た者同士、堕落している感じの人に惹かれるのである。


あの女神のような顔で、とんでもない爆弾発言をするから、世界はモーゼスに惹かれるのだ。そのギャップに。でも、さらに何も分からない人たちは、それを爆弾発言とも思わず、なんとなくすごい、かっこいいと思うのだろう。今まで保守が作って来た、堅苦しい世界を弾き飛ばす思想だ。


易々と自分を売る気はなくとも、ちょっと変な人がいると人生おもしろいとは思う。


ただ、ファクトにしたら、シリウスは模範的のようでモーゼス以上にヤバいヒューマノイドに思えるが。





そこで、シリウスはSR社の社員に呼ばれた。


「私はもうすぐ出勤です。」

シリウスはそう微笑むと、奥の部屋に去って行った。



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