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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十二章 とにかく人が来る

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65 サラマンダー 白



西区大房民フォーラム会館。


その会議室で活動報告や提案をしていくのは、サルガスにタウ。他数名に、南海メンバーや後ろで聞いているサラサ。


大房(おおぶさ)議員や商工会、自治会などに頼まれて、大房啓発をしているが、今まで関わってこなかった層の反応は薄い。


「で、それが大房に何の利益があるんです。うちの若者が流出していくだけじゃないですか。」

「大房の教育レベルそのものを底上げしていきます。」

「だから、そんなことしたら君たちみたいに出て行っちゃうでしょ?」

「新移民とアンタレスを分裂させたくありません。アンタレスの事にアンタレス民がもっと動く必要があります。」


タウがリストを示す。

「…今この活動に、南区、東中央区。隣県の篠橋(ささはし)市からもオファーが来ています。」

「東中央区…っ?!」


いきなり血相を変え、乗り出してくる大房民。


「東中央区の『常若(ときわか)』ですね。ここが今、ベガス構築や河漢のノウハウからリーダー教育や霊性学を学び直したいと、言って来ています。」

「最終的にベガスの一角に、常若の主に飲食店の青年たちが出店する地域を確保していきます。」


「何だと!?」


東中央区の名前に過剰反応する大房民なのである。

「強欲な奴らだな!」

「大房も飲食業者多いだろ?君たち、そっからうちの青年層を抜いて行ったじゃないか。」

「彼らは忙しくて商売までできないです。」


実は、方々にアプローチを掛けたり、口コミが広がることによって、ベガス構築は大房やベガス、河漢の枠を既に超えてきている。



東中央区とは、中央区の横というだけで位置的には大して東でもなく、何かの中枢の街でもないが中央区と名乗ってはいる、大房と同じくらい微妙な底辺扱いをされている区域である。しかも常若は、大してオシャレでもないのにちょっと凝ったカフェや小物の店が多いからと、ガイドブックやメディアに取り上げられる勘違い野郎の街と、大房の一部で名高い。


そこにメラメラ対抗意識を燃やしてくる、大房のおっさんたち。


こっちがファンキーでストリートカルチャーなら、常若はイケメンお兄さんが笑顔でコーヒーを入れてくれる街といわれ、女性に人気である。ただし、大房に言わせてもらえば、奴らはだたの雰囲気イケメンだ。何がイケメンだ。笑える。

「インテリぶりやがって」「裏はただの落ちぶれた公立地帯なのに」とは大房民談。ただ、中央区中枢に近い地域は大房より安定した中間層が多く、中間レベルの学校が多いため、総合的には学力は大房より高い。

おっさんたちの青春時代も何かと仲が悪い地域なのである。昔はよく張り合っていたのだ。


「で、常若はどうなの?!実際のとこ。」


「…優秀ですね。」

「なっ?!」

おっさんたちに、許せない一言を放つのはサラサ。

「ベガスの学生たちが指導しており、街づくりデザインに非常に関心があります。常若女子教育部が丸々来てくれましたので、女性中心に幼稚園教育に入ってもらって、ベガスの2つを任せています。心理学科やは、VEGAの専門スタッフが指導について、問題家庭や治療が必要な子の対応に当たっています。」

「…………」


「それから、弐恵(にけい)大付属高校、弐恵大…」


「弐恵?!」

「それこそ底辺だろ?!受験しなくても行けるような!!」


「彼らが、河漢移民の生活教育の一部を担当しています。」


「やめろー!」

「あの脳筋が?!」

「今の時代は脳筋どころかインドアの方が多いぞ。」

「あいつら学校で寝てる以外の事が出来るのか??!!」

「あの学校、初めて好きになったのに振られた子がいたんだよ!高2年の夏!」

「青春だな!」

何かの因縁があるのか、弐恵に対する対抗心がハンパない。実は弐恵付属は、10年ほど前から過疎化による近隣学校統合により、その時の時にすごい女理事長が来て改革しまくりだいぶまともな学校になっている。


「…そんな彼らも頑張っています。」

「マジか!」


アーツがザーと現在の協力組織、教育機関を上げていく。


「大房は…トップバッターを切ったんですけど、組織そのものの参加は無くて、こうしてバラバラ来て、バラバラと目星しい人材を頂戴しています。

今、河漢の一部でも藤湾大やVEGAと動いている組織もあります。規模は小さいですが。」


「頂戴するな!!!」

「常若に負けるなど、許さん!!!!」


自分たちの街のおっさんたちながら、どうしようもないと思うサルガスやタウであった。



そうして、なぜか底辺校から議論は白熱し、大房でもベガス構築を進めていくことになる。

そして、なぜかおっさんたちも何かしたいと言い出すのであった。大房はフルタイム会社員など他の地域より少ないため、時間のある人も多いのだ。


何をしていくかは、人の集まり次第で決めていく。困った人たちである。




***




「んー。」


研究室、講義、勉強詰めの響は、自宅の勉強部屋の椅子で思いっきり伸びをした。


椅子のリクライニングを倒し、そのまま先週の土曜日を思い出して思わずまた顔が火照る。あの日、背中に寄り添って…。それから、初めてタラゼドが笑っていた。


これが好きというやつなのか。

認めたくないけれど、認めるしかない胸の高鳴り。


絶対にチコやムギに変な顔をされるだろう。


でも、会いたい…。



と思ったところで、あのコンパニオンを思い出す。


背が高くて、自分も守ってあげたいと思うくらい細くてキレイで、紅茶色の柔らかい髪に優しい顔…。

みんなから聞いたので、元カノという事は知っている。


それにしても、みんなにも言われていたが、いくらメイクをしていても数年一緒にいた女性が目の前にいて、声も掛けられて気が付かないってひどいよね?と、響は思う。営業向けの声だったのだろうか。

みんなひどい奴だと言って誰かは教えていないので、タラゼドは未だ元カノと面会したことを知らない。


タラゼドさんと、お付き合いしても忘れ去られそう…と思い、付き合うとか考えてしまったことに、また勝手に赤面している。


響の発想に、好きだからお付き合いするという現実ルートはない。

そんな事、考えたこともないからだ。



えーと、整理しよ。

シートを起こし、教科書や辞典を分野ごとにまとめていく。



その時だ。



パキーン!


と、ガラスのマグカップの紅色のお茶が弾けた。



「?!」


霊性?幻覚?テレパス?振動?

響は当たりを見渡し、部屋に誰もいないことを確認する。



でも、まだお茶は揺れている。


目を光らせ、じっと眺めながら、ゆっくりそのお茶に人差し指を触れる。


ちょんッと水面に触ったとたん、またパキーンと弾けた。



一気にガードを張る響。


その世界が瞬間に飛ぶ。



あの男だ。

確か名前は…サダル議長に聞いた――


シェダル。




地下なのか分からない埃っぽい、なんとなくカビの匂いもするあの通路。


機関銃などを持った男たちが見張りをし行き来する、セメントの壁で覆われた寂しい建物。

男たちのブーツの足音が聴こえたので、響はまたサラマンダーになって壁を這う。


どこからか赤ちゃんの泣き声がしている。


長いスカートに大きなストールで頭を覆いその顔ははっきり見えないが、おそらく美しい人がよく分からない表情で赤ちゃんを抱いていた。何とも言えない複雑な表情で。




ストールの端から見える、褪せた、艶のないブロンドヘア。




『許せない。あの女は許せない………』



赤ちゃんを抱いたままつぶやく女。そこから落ちた涙が赤ちゃんの顔に落ちる。


『どいつもこいつもあの女の事ばかり』





やめて、そんなこと言わないで。赤ちゃんが聞いている。

とってもかわいい子だから、大人のそんな言葉で…傷付けないであげて…。


響はそのドレスの女性に叫ぶ。だけど、それは小さな鳴き声にしかならない。


これはシェダルの意識層?それともこのブロンドの女性?誰?



すると、響ではない麒麟が現れた。


東洋五色の麒麟が歪んだように現れ…でも形を作れずに歪んでいく。


そして、白とプラチナ、金縁に光る…麒麟のような竜のような生き物になり、形をまた崩し、響と同じサラマンダーになろうとするがそれもできない。

立ち上がることもなくそのまま地面に溶けていく。



シェダル?シェダルなの?


先のは誰?あなたの母親?



そして人間の目だけ残ったサラマンダーは、じっと響を見たまま最後に目まで溶けていく。


「待って!」


響の前で形を成せなかったシェダルは、標的を変える。

シェダルが溶けた白や金から、褪せたミリタリー色になり、また目を出すと違う方向を向いた。


「待って、待って!」



バジン!



そこで響は目が覚めた。






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