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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十二章 とにかく人が来る

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63 美少年現る。



チコは思わず身を乗り出す。


「…父親がその牧師?」

「いや。老牧師でその末娘の結婚を取り仕切って、祝福した人らしい。結婚相手の名前は『ジア』。おそらく仮名だろう。ジアとしかない…。アジアの正堂教会で29年前の手書きの書類が見つかった。」

「仮名で祝福の申請が通るのか?」

「何か事情があったか、名前の一部を取ったか。霊印は刻まれている。」


サダルはその場で、婚姻証の写しを投影した。


少しだけ色あせたような、A3を畳んだ書類。そこには美しい筆記体でレグと。それからジアとだけ書いていあるあまりうまいとは言えない名前が並んでいた。


その投影を何度かなぞる。

「私の両親?」

「おそらくとしか言えないが可能性は高い。ただ、霊視霊伝をしてもレグルスに出会えないし返事もないと教会は言っていた。」



あの指輪の『B.R』ではない。だが、もしかして「R」は「レグルス」の「R」だろうか?

立ち上がって寝室に行き、サダルから貰った指輪を出してきて、もう一度座った。



小箱を広げ小さな布袋から取り出し、ホワイトゴールドの指輪を二人で眺める。


チコが右手の指に付けてみると、薬指の第一関節を通らない。思わず笑ってしまうが、もしかして母なのだろうというその人の名を心に呼び、そのまま拳を握り下から左手で包んでしばらく祈る。


少しだけ優しく、でも声を掛けるように。


『レグルス。あなたは私の母?

もし生きているのなら、どうか幸せでありますように…。』


すると、霊性がある者だけに見える、袋の褪せた色と同じような、白熱灯色の温かな光が一周走るように手からあふれる。

「っ?」


眩しくない、でも中を覗くことのできない強さ。

その光はスーと指輪を360度巡り、パン!と光を西に飛ばして消えてしまった。


「!?」

チコとサダルが目を丸くする。でも、それ以降はどんなに祈っても光も反応も現れなかった。



「…あの光…。」

「知っているの?」

「どこかで見たことがある…。」

思い出そうとするがサダルは思い出せない。



しばらく考えて、サダルはチコに向く。。


「……チコ、今日は一緒に寝よう。」

「………」

「…大丈夫だ。何もしない。この居間で机だけよけて。」


二人は短い礼拝をし、寝る準備だけすると、リビングのラグマットの上に敷いた布団に座る。


「もう吐かないんだな。」

チコはそう言うも、何をしたらいいのか分からず体操座りをして笑うので、サダルはため息をついた。

「……悪かったと思っている。根に持っているのか?」

「根に持つなんて…。」



新婚当初。

初めて二人で一つの部屋に入った時、サダルはチコを見ることも触れることもなく、やっと近付いたと思ったら触れた後に吐いてしまった。


それを無表情で眺めていたチコ。


よく見るとサダルが呼吸困難を起こしていたので、触れてもいいのか、どうしていいか分からずデバイスで助けを呼ぶ。部屋の状況を見に来た世話見の女性が大騒ぎをして、この後に牧師たちが話し合いをし、どうやって二人を夫婦にするか検討していた。


そんな、考えてみればひどい思い出が遥か昔のようだ。

でも、二人はそういう風にしか近付くことができなかった。



サダルはそっと、チコの前髪を横に流す。


牧師たちが検討してどうなったかというと、ユラスでこれ以上失態はできないと、東アジアでギリギリまで人に助けてもらいながら結婚生活をスタートしたのだ。


「懐かしいな。」

「…………」

「………あの時は情けないと思ったけれど…、チコには悪かったが、おかげで強がったまま生きていかなくてもよくなったから…」



「………子供の事はいつか真剣に考えよう。チコにその気はないのは知っている。でも、どうにかしていかないといけない。」

「………」


チコもそっとサダルの髪に触れる。癖もなく、まっすぐに伸びる髪。


サダルは、チコの額と頬に小さく口付ける。

しばらく軽く触れるほどに抱き合い、

そして横になった。



プラチナブロンドと、長い黒髪が広がり、布団の上で混ざり合う。


サダルはまた、チコの額と鼻に、そして頭にキスをする。

体温のある場所。


チコもしばらく、いつも通り変化のないサダルの顔を見ていたが、胸に顔をうずめた。



そしてそのまま、

二人は朝まで眠った。




***




次の日の朝。



珍しく朝、チコが朝礼にいないし、朝練にも来ていなかった。


「連絡がありませんね。」

「いい。そのまま進めろ。グリフォとフェクダが見ているから大丈夫だ。」


「サダルの兄さん。昨日マンションから帰らなかったとウワサになっていますが?」

カウスがけしかけるが、何も変化のない顔で返す。

「離婚はしない方向での話し合いをして、朝まで眠っていただけだ。ジョア一行が来てるからな。夫婦仲は正常だったという事で。」

「…知っています。おもしろくない人ですね。」

相変わらず無表情なのでからかいがいがない。


「仮面夫婦でも、婚姻関係は婚姻関係ですからね。」

アセンブルスがもっと面白くないことを言う。




が、真に湧いていたのは……ビビっていたのは、実はベガスのユラス駐屯地ではない。


VEGA事務局前であった。


朝練が終わって、仕事や学校時間まで自由に過ごしていたメンバーは息を飲む。

超美形が歩いている。


ユラスの軍服。


明るい金髪の短いショートレイヤーで、前髪はヘーゼル色の瞳を隠すかどうかほどの長さ。



VEGA事務局付近は、新たな美少年の登場に大いに沸き立つ。

そのハンサムな人はその騒ぎを無視するどころか、バカを見るように一瞥(いちべつ)し歩いていく。


「なんだあれ?」

「やばい。議長に続いて、ベガスにもアーツにもいなかったニュータイプが来た。」

「超かっこいいいいっっっ!!!」

「チコさんに似てない?」

「親戚ちゃう?」

そしてシグマが怒る。

「あー!もう人が多すぎるから、新キャラはいらんとだいぶ前から言ってるだろ!くんな!」


ファクトもそのイケメンをじっと眺める。確かにカッコいい。カッコいいけれど…。


アホのローやキファたちも騒いでいる。

「ああいう、女顔の男は好かん。」

「やべえ!金髪王子が来たら、響さんモロイチコロじゃん。」

「あ!美形男子と言えば、考えてみればトゥルスがいるし、ダブりまくりだろ。去れ。」

と、言ったところで、そのイケメンに書類で叩かれるシグマ。

バシ!

「あがっ!」


「ふざけんな、何すん…」

まで言ったところで、さらにイケメンに吊るされた。

「何が去れだ?ああ?お前がこの世から去るか?」

「っ!」

降参のジェスチャーをし、シグマはビビってイケメンを宥めるが、声が小さいので周りには聞こえない。

「あー!ごめんなさい!似合います!ごめんなさい!」


そして、シグマを開放し、VEGA事務局に入ってサラサのいる会議テーブルにふてぶてしく座る。

VEGA事務局も呆然と歩いていたイケメンを眺める。


「…。」


「…なんだ?」

サラサもじっと眺めているので、面倒な顔で言い放つ。


「…チコさんですか?」

「…だったらなんなんだ?」

「………。」

少し間をおいて赤面のサラサ。

「~っ!!!」


「ショート似合いますね!!!」

意外なことに、サラサがいつもの鉄仮面を外している。


「おー!!」

事務職員たちも集まってきた。

「どうしたんですか?!」

「襲撃??」

「振られたんですか?!!」

残念ながらそんな乙女な心は持ち合わせていない。


「は?ユラスの貴族女性は髪が長いのが当たり前と聞いたから、切ってみたんだけど。」

「…………。」

事情を知るのは、昨日あの報告を聞いたり、会話から読み取った強者だけ。


これで、ユラスに構われないと思ったのだろう。確かにユラスは軍人も女性はほとんど髪を伸ばしている。女性イコール長めの髪なのだ。短くてもボブだ。


「ほら。チコだろ?」

入口のところでファクトに人が群がっている。

「…ホントだ…」

「え?本当にチコさん?」

「これは心臓に悪い。」

「5歳ぐらい若返ったよ。あれは。」


「すごい騒ぎになっていますね。チコさん感想は?」

「シャンプーが楽になった。」


と、サルガスと同じことを言うのであった。




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