61 プロポーズらしきもの
作品の題名自体を間違えていました！いつもごめんなさい。題名と、ペンネームを変更しました。
河漢の荒漠とした場所で挨拶を交わす二人。
「チコ様、お久しぶりです。」
「ああ、元気してたか？」
「まあ。」
「リューダの事、知らなくて申し訳なった。」
「大変だった時だと聴きましたので。代理の方からきちんと弔問は頂いていました。」
ジョアが妻を亡くした時、サダルが不在になり、オミクロン族のシュルタン家長兄カフラー他、多数が死亡。アセンブルスたちも重傷の頃。そしてチコ自身も身体の再調整などでとても対応できる状態ではなかった。
ジョアは一緒に来たカウスにも挨拶をした。
「場所を変えますか？」
「ここでいい。簡潔に話してくれ。忙しい。」
「チコ様に…」
「ジョアと結婚はしないからな。」
「………。」
超即答。
さすがのジョアも一瞬苦笑いで固まる。
「離婚前からしょうもないこと考えるなよ。不敬だ。」
「…されるつもりはあるという事ですか？」
「ない。」
「えっ！」
即カウスも余計な反応をする。
バジ！
と、チョップが飛んだ。
「ない。」
「パワハラです！」
「黙れ。」
いろいろ言い出しにくくなるジョアを他所、チコはカウスと言い合っている。
「そもそもお前は影でいろ。勝手に話に入るな！」
「入ってません。」
「フェクダがこっちに来い！カウスと変われ！」
「いやです。」
カウスが逆らって揉めている。
「……。」
言いにくいので、いっそうの事全部言ってしまうことにしたジョアは間に入ってはっきり伝えた。
「チコ様。離婚後、ザルニアス家に来てくれませんか？」
「…はあ？寝言だとしても言うな！離婚しないって言ってるだろ！？」
チコは小さい声で叫ぶ。
「どうせします。」
「しない！」
「…以前の印象と随分違いますね…。」
「幻滅しただろ。ユラスの中枢には合わない性格なので、私の権威を望んでも何も得られないからな。」
ジョアの前では、昔の冷たい雰囲気に戻る。でも、前のように無口ではない。
「ユラスでの権威は既にある程度持っています。それよりも、アジアに関心があるのでそれで十分です。」
「…よくそんなこと言うな……」
ユラスではなく、アジアの権威がほしいとな。
「権力がほしいわけではありません。今、ユラスも2度目の改革の時が来ています。国を一緒に変えたいのです。」
「…手順が違う。」
「手順？」
「まず、離婚してないだろ！」
離婚すると公言もしていない。
「すると聞いていたので。」
「それから、ジョアかジンズ、どっちでもいい。一家の男が一回、国を出ろ。」
「！」
「一人くらい出られるだろ。お前らみたいに頭の固い男は、国際結婚するなら一度海外に出ろ！」
「だいたい、離婚前からそういうことを言って、サダルに不敬だとは思わないのか？」
「………もう既に動いている人間がたくさんいます。フライングしないと先手を取れません。だからここまで来たのです。」
「っ？！」
ギョッとするチコ。と、それを横目で見るカウス。
ワズンの事ではないだろう。ワズンはユラスの権威には関心がないし家門も関係ない上、ハッキリ断っている。
「ユラスの男は、頭が湧きまくっているのか？もし離婚しても表組織から身を引くから、私と結婚してもSR社もベガスもモノにはならないからな。それなのに東アジアやSR社にいろいろ制限されて、監視されて気苦労するだけだ。」
「…構いません。他の家門に囲われるくらいなら、私たちがお守りします。」
「私は物じゃない。」
ジョアの対応はきつくはないが、言っていることはチコの話に対し的を得ていない。
「私の意志はどうなる？離婚も再婚もしないって言っているのに！だいたいジョアの事も好きではない！」
嫌いでもないが。…つまり関心がなかった。
「議長のことも好きで結婚した訳でないでしょう。今でも好きではないのでは？」
「…離婚前の夫婦に対して最低な言いようだな。」
離婚前とか言い方がおかしいと周りは思うが、ツッコみは入れない。
「お前に対してよりは情はある。お前が嫌いだと言っているだろ！」
「好きになればいいじゃないですか。」
「…。」
チコだけでなくみんな固まる。
「お前もバカだったのか…。まあ、バカだとは思っていたけれど…。」
「好きになっていただけるよう努力いたします。」
呆れに嫌味をミックスしたのになぜが迫られる。
「………本当に大丈夫か？私の機嫌なんか取ってどうする？」
完全に呆れる……を通り越して心配になってくる。チコが憐みの目で、ジョアをのぞき込んだ。
「…大丈夫か？ウチに優秀なカウンセラーがいるから少し話すか？」
「…！」
「呼ぼうか？時間はあるのか？」
その時カウスがまた命令に背いて口出しをした。
「好きなら好きっていえばいいじゃないですか。」
「はあ？」
チコが怒りながらもめんどくさそうにカウスに向いた。
「お前左遷させるぞ。好きとか嫌いの問題じゃないだろ？なあ。」
と、ジョアに振り向いたところで、ジョアが顔を逸らす。
「……。」
何も言わないジョアの顔を覗き込と…、真っ赤である。
「おい？」
「………。」
「完全に総長の事が好きでしょ。」
「ちが！」
「はああ？！」
チコとジョアが声を合わせた。
「…。」
「カウス。話が飛躍し過ぎていてつまらんぞ！小学生か？？」
もう、会話が小中学生である。
と言ったろころで、ジョアがチコに向き直った。
「再婚は私としてください！」
「？！」
さすがにこの大声に、離れていたサルガスや他のメンバーも注目した。
「…あなたの事を、お慕いしています…。」
「………。
………どの種類で？」
「好きです…。」
「………」
「……………。」
これは、話好きのシグマを戻らせて正解だったと思うサルガス。固まっているチコと、周りに漂う変な空気。ジョアについて来た連れたちも「いや、愛の告白でなくて、戦略の一環でなくて？」と、目をぱちくりしている。
固まったまま、少し離れるチコ。
「まだ離婚してないし。それはイカンやつでは………。」
「だから、まだなんですよね？」
「あの、だから、まだっていうか、しないから。」
そこで、黙ってと立っていたカウスが一言。
「分かります。大丈夫です！だいたいみんな、一度はチコ様に憧れますから。」
「あ？何言ってんだ？？」
「だって、正体不明の外貌で、いつも毅然としていて、170ちょいしかないのに、2メートルの男も軽く飛ばし、文武優秀な女性ですよ。」
ユラス軍では身長170センチ前半はそれなりにいるので、際立って高くはない。
それに、今日は何度も叩かれて悔しいからカウスは言わないが、チコは美人だ。そのために従軍中は見た目を隠していたし、サダルと婚姻してからもそうだった。
「私も憧れていました。」
「お前もか？！」
「チコ様みたいな人と組んで、めっちゃ強い部隊を作って、そのまま的を一発撃破したいと思っていましたね。大変な事情があるのに、身勝手な勢力にまでいちいち各国政権にお伺いを立ててめんどくさい。」
それは言ってはいけないセリフである。
「ジンズや妹のメレナもチコ様と慕っていたでしょ？」
それはちょっと違うと思う一同。ただ、そういう憧れを抱く者も多かった。
なぜなら………ニューロス化前ですら、強すぎたからだ。
ユラス人は強い女性が好きなのだ。
「あ、まあ。そう言う事です。」
言葉切れが悪くなり、目を合わせないジョア。
ちょっと違う方向に片付けられたが、カウスはジョアの元上司だ。兵役の後半、チコに対する想いが変わったのは知っている。というか、誰でも見ていれば分かる。
家格もシュルタン家とザルニアス家は同格ぐらいなので、もうハッキリ言ってしまうカウス。
「ジョア議員。総長は既婚者なのでそういうのは困ります。」
「……。」
カウスを睨むジョア。ここまで煽って何を言うのか。
チコもカウスに、今更お前はなんだ！と思う。初めからそれだけ言え！
「お前が焚きつけたんだろ？」
そして、ちょっと混乱しているチコ。
カウスはともかく、自分ちょっとモテていたんじゃないか？そう言う事だろ？ワズンにジョアだろ？
実は、当時チコを慕う男はそんなものではなかったことをフェクダもカウスも知っているが、言わないことにしている。言っても理解しないだろう。サダルとの結婚が決まった時に、がっかりしていた男は多かったのだ。
今となっては、性格がすっかりオバさんになってしまったが、当時は何を考えているか誰も分からないような、影があるのに、その影すら照らす光も持った、不思議な孤高の人だった。
当時は。
「…とりあえず言いたいことは言った。考えておいて下さい。
後は、少し河漢を見たい。案内をしてもらえるか？」
チコはすぐに気持ちを切り替える。
「…サルガス。いいか？どこか適当に案内してくれ。」
「分かりました。」
「フェクダ、頼む。移動先でも2、3人案内兼護衛役を。ジョアの護衛もフェクダに従ってくれ。」
「はい。」
調子が狂って、変な気分になりながら現場に戻るチコであった。
