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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十二章 とにかく人が来る

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60 この客をどうするか



そんな時期に、また余計な客が来る。


まだエキスポ開催期間。

ユラス軍が各任地に移動している時だった。



「帰らせろ。」

サダルがかったるく言い放った。


「もうアンタレス入りしています。」

部下の言葉にサダルは隣にあった椅子に蹴りを入れた。


「………。」

めんどくさい極みの顔をしたサダルに、こういう時は誰も反応しない。

「サラサが貴賓としてベガスに迎える予定です。」

「…日帰りか?」

「まさか。ベガスのホテルに10人の予約が入っているのでそれかと。」

「都内中央に移せ。ベガスのホテルなんて星もないだろ。」

「一応、説得はしてみます。」




一方、今日は河漢に来たチコ。


「は?ジョアが来た?」

「はい。間違いありません。」

「サダルがいないのに、なんで勝手にユラスを空けるんだ!そんなんだから、アーツにユラスって暇なんですか?とか言われるんだぞ。」


バゴっ!!

と、不条理に頭を叩かれ、カウスは一応言っておく。

「パワハラです。私は関係ありません。」


「パワハラの極みたちが来てんだぞ!お前の元部下だろ!!帰らせろ。」

「一応今は身内になるんですけどね。あなた方が、仲良くしないから直接プロポーズにでも来たんじゃないですか?総長にとっても元部下じゃないですか。」

「何がプロポーズだ!権力固めに来ただけだろ。」

バジ!とまた叩かれる。


「………ちゃんとするって約束した!」

「…何がですか?」

「サダルとちゃんとするって約束した………」

「……。」

カウスが目を丸くし、近くにいたマイラや他のメンバーも思わず固まってしまう。


「…何をですか?」

バゴ!!

顔を覗き込むとまた叩かれる。


「結婚生活に決まってるだろ。状況が変わるまではちゃんと夫婦をする予定だ。」

「え?いつからしてるんですか?ちゃんとって。」

「…一昨日だっけ?」

「…もう少しはっきり示してくれないと周りには全然分かりませんが?」


「~っ。うるさいな。とにかくジョアは帰らせろ!」

「ロボメカニックを見学していくらしいです。ニューロス導入の下見もするそうで。」


「お前ら!」

チコはまだいるメンバーに声を掛けた。

「ジョアやそれに関わる一同を見かけたら、何も答えるな!アンタレスから追い出せ!!」

「そんな無茶な。」

兵役中は部下でも、今は政府中枢に関わっているので、どちらかと言えばこっちが指示される側だ。


そう、過去チコに反対に反対を重ねたザルニアス家の長男ジョアが来ているらしい。

一応今は、サダルに付いている。


しばらく椅子にふんぞり返って渋い顔をしていたチコは、突然ひらめく。

「…まあ、このまましばらく河漢にいればいっか。」

「…………。」

周りは、「何言ってんすか?」と思いながらもそれには答えない。

「ここでキャンプ張ろう!」

「おもしろそうですね!」

「河漢のここに、あいつら金持ちどもは来まい!」


それまで冷めた受け答えをしていたのに、キャンプと聞いてテンションが上がるカウス。もう聞いていられないと、他のメンバーが間に入る。

「11時には絶対にマンションに戻るように指示されています。それに駐屯所があるのに、そんなものいりません。」

「…お前らもおもしろくないな…。マンションより、お前らみたいなのに囲まれていた方が、よっぽど安全だろ。」

「どちらにしても、河漢に女性は泊まれません。」

「だから、キャンプを張るって言ってんだろ?軍幕持ってこい!」

「………。」

「マイラ!お前も上司に逆らうのか!?いい意見だと思うだろ?」

ただ笑うしかないマイラ。

「マイラ、パワハラ発言録音しとけよ。」

カウスが助言する。


誰も答えないので、チコはまた怒っていた。




***




「ジョア。今、緊急の警備が入っている。こんな時に来るなと言っておいたはずだが?」


仕方なく予定を変更し、南海の駐屯の応接室で対応する。

サダルに対面しているのは。スーツ姿のジョア・ザルニアス。


数人の身内や部下を連れていて、彼らの中に兵役経験者はいるが、全員今は軍人でも軍役でもない。



ジョアはいかにもユラス人な薄褐色肌だが、髪はコパーブロンド。金に近い銅褐色だ。背はサダルと同じくらいで、体格はそれよりも少しいい。


ベガスには入れないつもりだったが、アンタレス中央区でなく初めにこちらに来てしまったのだ。挨拶し近況を話し合った後に、やはり結婚の話になる。


「ザルニアス家に非常に優秀な者が数人います。海外生活をしていたので30歳ほどで未婚の者もいるし、子供を一番に望むなら20代も数人いる。全員頭もいい。候補としてだが………」

「…………。」

呆れるサダル。

「……………何度も言ったはずだ。再婚はしないし、離婚もしない。」

「…チコ様とこのまま結婚関係を続けるには難しいと思いますが?」


これは軍から漏れた話でなく、サダルとチコの最初の対面から既にユラス中枢で二人の結婚継続は困難と言われていたからだ。


「いずれにしても、もし離婚をしてもチコはユラスには帰らない。アジア籍も持っているんだ。離婚してまで何のためにユラスにいる。」

「チコ様の元で陣を尽くした者を、彼女は忘れることはないでしょう。」

「………その大志もユラスで果たすことはない。」


死んでいった彼らの中に国境はなかった。彼らはある意味それを撤廃するために命を懸けたのだ。

地方軍は精神的にも環境や出生的にも、故郷に愛情はあってもユラスだけに固執はしていなかった。でも、今ジョアに言ってもおそらく通じないだろう。


「我々が彼女に強いたことはことは申し訳なかったと思っている。いずれ正式に謝罪したい。」

「…………」

「…それに、長老院が意見を変えた理由を知っていますか?」

追い出すつもりだったチコを、いきなり迎え入れると言い出したことだ。サダルは、なんの顔色も変えず一先ず黙って聞いている。


「都市部も想像以上に若手の旧勢力離れが多くて。マイラもでしょう。チコ様に付いて行く者が多過ぎて。」

「……………」

「あなたが旧勢力と再婚し、チコ様を我々が受け入れれば、新しいユラスが生まれる。」

「……。」

「そして、ザルニアス家は、サダル議長に忠誠をつくします。」


こいつが座っている椅子をひっくり返したい気持ちになったが、サダルはとりあえずまだ聞き役になる。



チコがアジア籍を有していることも連合国民であることも、全く理解されていない。ユラスの自由主義、平等主義はまだ幼いのだ。

それにユラスにしても、学歴のある海外在住の30代女性など、よほど一家への忠誠心がない限り、誰がユラス中枢に嫁ぎたいと思うのか。一家が推すほどの女性で30前後未婚なら、どこかで仕事をし安定して活躍しているはずだ。


「まあ、期間中にチコに会えたらそう言ってみればいい。私からは離婚はしないと言っておく。


…あともう1つ。チコに付いて来た者は、チコそのものではなく、チコの持っている理念と目的について来たんだ。」


サダルは立ち上あがった。


「チコ様はどこに?」

「2か所でローテーションしているからアセンにでも聞いてみるといい。」

サダルはユラスから来た部下2人を連れて出て行った。



ジョアは、撒かれたと思って苦虫を噛みしめる。

「チコ様の居場所を特定してくれ。」

部下に頼むと、ジョアも立ち上がった。




***




「………。」


廃墟なのか、人が住んでいるのか分からない河漢の一角に降り立ち、ジョアたちは呆然とする。


東アジアの中枢にこんな場所があったとは。

隣りは中央区。その隣は新都市ベガス。



それなのにこの廃墟。


不思議な光景だ。



車中でフェクダに連絡を入れると迎えが来ていた。

「これ以上は一般車両や人の入出は禁止されています。総長はもう少し後で来ますのでお待ちください。」

そこにはサルガス、タウ、シグマが控えていた。

「3台もあるな。」


チコたちのいる前線には特警など国家公安と軍関係者以外は入れないので、河漢内部まで車が行く時には誰かが監視と道案内をしなければいけない。その為、中で活動しているアーツメンバーにも状況把握として連絡を入れていた。



コパーブロンドの男が車から降りてくるので、サルガスが駆け寄る。


「ユラスからの視察ですか?首都の(かた)で?」

「チコ様が独り身になると聞いたので、今後の挨拶に来たのだが。」

「っ!」


駆けつけて来たフェクダが話を遮る。

「ジョア様、そういう話は伏せてお願いいたしますっ。」

「………。」

大丈夫なのかと思いきや、チコが来る間、サルガスたちは河漢での仕事の内容を聞かれるので簡潔に話した。



30分ほどしてやっとチコが現れた。


「ちょッとチコさん遅いんすけど!」

シグマが怒る。

「ああ。悪い悪い。1、2時間待たせようかと思ったんだけど、それはさすがにサルガスたちがかわいそうだと思って。」

「はあ?!」

「ごめん、悪かった。」

「俺たちも仕事があるんだけど!」

「悪かったと言っているだろ?」

「何すかそれ!あとで奢って下さ…いで!」

シグマがうるさいので、デコピンする。

「分かった。後でな。」


無言、直立不動、無表情のイメージしかないジョアたちは少し驚くが、ジョアの前に来るとチコは厳格な姿勢を表した。




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