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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十一章 ロボメカニックエキスポ

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54 博愛よりも



「………」


「………無理です。」


「…でも好きなんだけど。」

「…無理です。」

「好きなんだけど。」

「イオニアさんのこと嫌いなんですけど。」

「でもいいよ。」


「でもいいってなんですか!ダメですってば!」

「好きだから!」


さすがにおののいてしまう。

「ちょっと!周りが見てるじゃない!イオニアさんには恥ずかしいとかないの?!」

「全然ない。」


「……な…。」

通行人たちがクスクス笑って見ていて、中にはガッツポーズやグッドポーズしていく人もいる。赤くなって慌てて違うと示す響。

「まあ、全く恥ずかしくない訳でもない。今は恥ずかしくないけど。というか、響さんの前では恥ずかしいことがあまりない。」


「恥じらいくらい持ってください!」


な、なに。この信じられない人!あの4人組といい、これが大房民?!

キファといい、ウヌクといい、もう人間が違うのかと言いたい。


「何で今更敬語なの?」

「時々しか会わないので、距離ができました!」

響はサルガスに出禁を言われて自分でもこれではダメだと自覚してから、アーツに一線引いてしまったのである。弟たち以外は敬語になってしまった。


「……あの。初めの時よりイオニアさんがしっかりした人だという事も、いい人だという事も今は知っています。でも…」

「じゃあ、付き合おうよ。」

速っ!


「それに私はそういうお付き合いしません。たとえ古風と言われようと、ちゃんと父や母にも報告して…」

「じゃ、報告しに行こ。」

何っ!大房民、反応早過ぎ!!

正確にはイオニアは大房寄りの隣町の人間である。


「…でも、タイミングが少し合いませんでした…」

「何?タラゼド?」


~っっっ!!!


なんでずっといなかったクセに、そんなことまで言ってしまえるの??!!!


「違います!今は、イオニアさんの話をしてい…」

「好きって言ったの?されたの?」

「言ってないし、されてもいません!!!!!!」

「じゃあ何?」

なんなのこの人!

響の上の上を行く男なのである。というか、即答過ぎて響は考えが回らない。冷静になった方の勝ちである。


「タラゼドさんに………自分が好きなのか?って聞かれて……」

それ以上言わない響に、怪訝な目を向ける。

「響先生、タラゼドに何変なことしたの?」

「してません!!」

「だって、そんなこと言う?自意識過剰だろ。」

「そうですよね?びっくりしました!」

「だから先生がなんかしでかしたの?あいつが自分からそんな事言う訳ないだろ。普通の人でもそんなこと言わないのに。」

「……は!」

「抱き着いたとか。」

「!!やめて!!してない!」

先、バイクで相乗りしたのを思い出して、響、恥ずかしすぎる。


「何、(かも)し出してたの?」

出待ちというか、入り待ちみたいなのはしていた。無自覚で。

「いい加減にやめて!!」


バジ!と

思いっきりイオニアの頭を叩く。


真っ赤な顔で完全に怒っているし、通行人が一瞬ギョッとする。

「……。」


人待ちでずっと近くにいた見物人は、もう振られたのかと憐みで目で見て、しかも豪快に振られたので同情している。


「……あの…。」

「………。」

「…タラゼドさんは私のこと、そんなに気に留めていませんし…。」

「でも、好きなの?」

「だからやめて下さいってば!!」

否定も肯定もしない。

「そうなんか。分かった。好きなんだね。」

「~っっ!!!」


「俺は…アーツに来て、初めて少し後悔した。」

「…どうして?」


霊性が少し開花して、今まで見えなかったものが少しだけ見える…。

それがなかったら、押しに押していただろう。どこまでも。

あの頃の俺でいたい。


「はあ…。」


イオニアはその場にしゃがみこんで、頭を垂れる。


「あっ!!ごめんなさい。強く叩き過ぎました?!」

「……。」

叩かれた手と、その頭の痛みすら愛おしい。


「チコさんが憎い…」

「え?…。」

イオニアに最終段階の霊性コントロールを教えたのはチコだ。余計なことまで抱え込むことがあると注意は受け、そこに同意し多少コントロール能力がある者だけが習得を許された力。妄想CDチームのジェイの場合は初期段階で勝手に身につけてしまった、相手の感情が見えたりする一種の状況感知能力だ。


「はぁ…。」


しゃがみこんだイオニアを心配しながら、しばらくそこで立ちつくしていた。




***




SR社のイベントで、シリウスはファクトを探す。


けれども彼らはもうメイン会場から出てしまった。

その憂いの理由に気が付いたのは、シャプレーだけだ。



スタッフたちは緊張する。

「モーゼスは来ると思います?」

シリウスがベージン社のイベントに乱入したことへの、報復を心配していたし、これがSR社の戦略ではないという事を証明するのはたいへんであった。


「大丈夫。多分向こうはシリウスの会話に対応できないからおそらく来ない。来てもシリウスが上手く対応するから。」

ミザルはVIPルームから若い社員を落ち着かせ、進行チームには念のために、何かあった時の打ち合わせをし、司会たちにも話はしておいた。MCは進行のプロたちなのでトラブルがあっても大丈夫だろうが、今イベントの方向性がズレては困る。あのやり取りを見る限り、現段階では会話能力はシリウスの方が格段に上だった。


ロボメカニックは、始まったばかり。

明日からまだ8日あるので、その間にいろいろ仕掛けられることはあるかもしれない。



SR社はバージョンアップするだけで、毎期新作を出すわけではなく、今回も新作は出さない。


美しいモーゼスの登場に、各メディアはシリウスよりもモーゼスを大きく押した。


『アンドロイドの嫉妬』とシリウスに関しても面白おかしく報道されたが、やはり、モーゼスの非現実的な美しさからシリウスからのアップグレード感は否めなかった。


そして、容姿以上にモーゼスの『夢』が賛否を呼び、話題になった。



博愛と慈悲たるもの以上に、家族という以上に、パートナーとして人類と並びたいということに。



博愛という、ぼかすことのできる言葉ではなく、明確な隣人としての親愛…情愛に。




***




「そっちは問題ないか?」


現在、警察、特警、アジア軍、そしてイーストリューシア、ノースリューシア、ユラス駐屯は国境やアンタレスのベガス、河漢などに厳重監視体制を敷いていた。


「問題ありません。」

1人がベガスの研究所付近で真面目に答えているのに、少し離れた横ではユラスから来た別の部下2人がため息をついていた。


「は~。ここまで揃ったなら、このままギュグニーやメンカルに突撃したいよな。勝てまくる。」

「黙ってろ。声拾われるぞ。」

「お前ら休憩なら向こうで休め。」

仕方なく移動する2人。


ギュグニーはまともな統治者なしのほぼ無法国家なのだが、めんどくさいことにいくつかの勢力が建前だけ協力して連邦国という事にしている。殺し合いながら連邦国なのだ。バックの強大国たちも前時代の変わり目に分離してしまったし、そこまで大きな国でもないので、ユラスの全勢力を投入したらおそらく勝てないことはないが、現代はそういう訳にもいかない。



「せっかくチコの近くに来たのに、逃げ回ってんらしいな。」

「今日は仕事に行ったって聞いたぞ。」

「ユラスのユラス人からは、今でも逃げ回っている。」

「俺らもそれに入るわけ?」

「だろ?」

「ひでえな。」


「まあ、少なくとも今回のギュグニーの仕掛けは、あの新しいアンドロイドだろ。それ以上の事はないと思いたいな。」


武力だけが誇示する力だと思っていた北メンカルやギュグニーの今回の戦法は、おそらく世論と倫理の掻きまわしだ。



人間とアンドロイドの境をなくすこと。


それは最初に蛇がしたことだ。




「大元は完全にギュグニー全体の思惑ではないな。」


完全な無神論世界からは、その発想を作ることはできても、その思想を生み出し拡大できるような()()()()()



無神論には理屈はあれど知恵はない。それは無神論の未来を見れば分かる。

人の最終形態がなく、個人が終われば終わってしまう未来だ。


他者に関心がなくなれば、物質は形成されない。


化学結合がないのだから。



悪意で繋げればそれは弾かれる。

物質は自然に符合するものを好むからだ。



それはイブが、園の中央の木の身を食べる前DNAだ。



それがなくなれば、どんなに繋げても世界は分離する。


何も形成しない。


原子も電子も。

街も。

宇宙の星々も。



物語さえ、誕生しない。





蛇の世界が天への反抗心から生まれているので、他者を巻き込んで憂いを満たしていく。



蛇はまだ完璧でなかった愛を求め、まだ完璧でなかった幼子で、愛欲を埋めようとした。


人はアダムが満たしてくれなかった、目前の愛を蛇で満たし、


三者は自身の過ちを誰も己の故だと認めなったように、



根が尽きるまで何かに憤り反対する。



無神論や唯物観が、「神論」への反発から発生し、()()()()()から拡大したように、必ず裏でそれを引っ張っている力があるはずだ。


無神論の最初の根源は、神論側にいた蛇である。



その目星は大体ついている。




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