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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十一章 ロボメカニックエキスポ

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53 秘孔も急所も関係ない



「まあいい。今日はもういい帰る。」

イオニアはそう言って響を見た。

響がとぼけた顔をしていて、何か頭にくるので睨みつけてデコピンする。

「いた!」

そして去って行こうとしたところに、チコが一声かけた。


「…イオニア、家でいつも何をしてるんだ?暇だろ。仕事があるんだけど来ないか?」

「………」

イオニアが振り向く。



今度はチコがイオニアにすり寄り、他の人に聴こえないように話す。


「もう一都市作るんだ。河漢に。」


「!」

「ベガス寄りの位置に、もう一都市だ。アーツ3期に使えるのが結構いるし、治安がよくないから、ユラス軍経験者も入る。

河漢民の一部が、最初に仮移住でベガスに入り住民教育をする。その間に河漢を少しずつを建て直し、少しずつまた河漢に入って行く。一般よりの中級層と同じ規模の戸建てやアパートメントを中心に、全く違う街にする。ベガスと同じで、高層ビルは一部にしか作らない。


あの、汚職にまみれて、未だ揉めている河漢行政からどうにかしないといけないから、かなりテコ入れするがな。あいつら全然霊性が開けてないから、自分たちの痴態が全部見られていることを本気にしていないし厄介だ。

今、河漢のギャングみたいなのから教育してる。若いのから。


この仕事、おもしろいと思うけど?」


「………。」

「…まあ、考えておいてくれ。サルガスも東海が人に任せられるようになったら、多分河漢か他の新都市に移る。」

東海は既にほぼ出来上がっている南海と隣り合っているため、比較的仕事はスムーズに進んでいる。


「チコさんて、元なんですか?陸軍?海兵隊?サイテックス?…」

サイテックスは、サイバー、サイコスに関する軍部。メカニックもここに属する。

「その辺全部だ。安心しろ。きちんと秩序は守らせる。サウスリューシアでは、小さいコミュニティーだが既に低所得層の再構築に成功している。そのメンバーも初期基盤ができるまでここにいる。」

「……。」


少し考えるイオニア。そして、バイバイをして去って行く…のかと思いきや、戻って来て響の手を掴んで響を引っ張っていく。

「え?」

「ちょっと話がある。」


「え?え?チコ!」

助けを求めるが、イオニアがすかさず叫ぶ。

「先の件、準備が出来次第受けるから、ちょっと響さんと話しをしていい?」


「あっ??」

最初は断られると思っていたので、素直に「受ける」と言われた言葉にチコが迷っているうちに、イオニアは響と会場を出てしまった。



そしてなぜか現れる、ナンパ組。

「兄貴!あの人なんっすか!!」

「『愛』はどうなったんですか!結局どっちがどうなんですか?!」

「三角関係っすか?!なんで、そう言う事になっているんですか?!!俺ら複雑なのは無理っす!三角すら把握できません!」

「俺は兄貴は派ですから安心してください!!」


いきなり現れたナンパ4人組に絡まれるタラゼド。あの大房でファイに絡んだコンビニ男は外で待っているらしい。


「愛?三角関係?」

そういうのに、機敏に反応する変態見物人ファイ。

「愛?愛がどこにあるの?!想いだけはイヤ!形が見たいの!」

「形にしたいのに、兄貴が曖昧なのが悪いんっす!」

「なんだ?!お前ら、来てたのか?家で謹慎してろ!」

チコが怒る。


しょうがないのでファクトが声を掛けた。

「兄さんたち何がしたいんですか?」

「ここに行くと聞いたから来てみたら、新作発表があるという事で中に入って、人が多過ぎて死ぬかと思った…。」

「ファクト!お前が俺らを姐さんに推薦しろ!秘孔を習いたい!」


「…存在そのものが薄すぎて気が付かなかった…。」

チコの意識にも入らなかった4人組。一応護衛のフェクダは4人がメイン会場入りしてから気が付いていたが、近寄って来なければどうでもいいと放っておいたのだ。


「ファクト、先、姐さんを連れて行った男は誰だ?」

「イオニア。」

「…流星(リウシン)イオニア?」

「そう。」

イオニアの方がタラゼドより有名だ。

「マジか?!やべー!どっちも敵にしたくないっ。」

「姐さん何者っすか?!!」

「その三角関係すごくないっすか?」

ここにキファが加わるが、キファは弟妹枠に確定されたので言わないことにする。キファもそれなりに有名人だ。


一番うるさい男がファクトに振る。

「ファクト、お前ならどっちにつく?兄貴か?それともイオニア?」

「俺はうまいこと間にいることにする。」

「戦えよ、バカ!腑抜けか!」


「馬鹿はお前らだろ。いつも黙れと言っている。」

タラゼドが一番うるさい1人の首を掴んだ。

「ウグ!やめて下さい!首は危ないです!」


それを眺めていたチコ。

「なあ、お前らそんなに秘孔習いたいのか?」

「はい!強くなりたいっす!」

「それで、どうすんの?またナンパでもするのか?」

「いや、幼い頃の漫画を思い出して、強くなりたいと思っただけです!」


「…ウチ来る?」

チコがニッコリ笑った。

「ウチ?」




***




一同は会場から出て、人気の少ない場所に移った。フェクダとグリフォも付いて行く。


「チコさん、それは駄目でしょ?この人たちナンパの上に先生に暴力振るったんでしょ?」

ファイは「ウチ来る?」に反対だ。


「ファイ。私たちの仕事を知らないのか?」

チコがファイに笑う。

「戦闘集団じゃないの?」

「ファイ…、お前…。」

VEGAは少年兵や退役、戦争被害者などの救済団体である。戦争だけでなく、地域抗争など人を殺してきたような人間も相手にしている。過去やその生活環境、霊性を全部レベル分けして、霊性が善良で更生可能な場合は民間内で更生教育をする。


気を取り直して、チコはスマホを出した。

「お前ら、ちょっとここに寄って来い。」

チコは4人に声を掛け、アーツのメンバーも近付いて見学だ。


スマホのアルミケースを外す。

そして、触らせてアルミ板であることを確認させ、突如、親指を一気に突き刺した。


ガっ!


と、アルミが凹むどころか穴が開く。


「うおっ!!」

「貫通!」

4人組がビビりまくる。


しかし困ったチコ。そのまま抜くと親指に傷がつく。しょうがないのでガリガリと穴を大きくしてアルミ板を裂いて外すが、どっちにしても肌に傷が付いた。

「あ、やってしまった。叱られる…。」

「…。」

唖然とする皆さんと、頭を抱えているフェクダ。部下を困らせないでほしい。


「な?あの先生でなくても秘孔は突けるだろ?」

みんな、ボー然とする。チコの腕は現在シンプルなメカニックタイプなので血も粘液も出ない。でも、見た感じは痛そうだ。


「それ、秘孔を突くと言うか、秘孔も引き裂いているというか…。」

1人が恐る恐る聞く。

「違う。物にはバランスを司る窮点(きゅうてん)がある。その一点を突くんだ。」

「マジか!すげー!」

「姉さんも何者っすか?!」


4人組と、ついでにファクトもすごい!と感動しているが、他の男たちは「絶対に違う。そういうものがあっても、チコの場合はただ突いただけだろ。力技だ」と、冷静になる。


「チコさん、そういう嘘を…」

「黙れ。」

口を出すクルバトを睨む。が、一同は思う。この人が知っているのは、秘孔ではなく急所だ。いや、急所だろうが秘孔だろうがこの際関係ない。突かれたら終わりだ。


「いくつかのテストに受かったら、強くなる方法を伝授してやる。その代わり、それで犯罪を犯したら、地獄にいた方がマシというところに送ってやるがな。」

落すジェスチャーが、冗談になっていない。


「どうだ?のむか?」


4人は顔を見合わせた。




***




敢えて人の多いコンコースの端に来たイオニアと響。吹き抜けの手摺に立ち、1メートル以上距離を置く。


「お母様どうですか?」


「最近は大分いいよ。元々アクティブな人だったらしいからね。」

「お薬はきちんと飲んでくださいね。滋養でもありますから。」

「言っとくわ。もうインターンは終わったの?」

「はい。薬剤師になりました。」

「おめでとう。なんかお祝いいる?」

「いらないです!」


「……」

「…。」


「…響さん…。好きなんだけど。やっぱ。」


「……」




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