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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十一章 ロボメカニックエキスポ

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53/105

52 SSSクラス



「私からの挨拶は以上です。」

シリウスはもう一度礼をした。


観客の中で、ラムダが大きく手を振ると、シリウスも人混みの中にラムダを見付けてにっこり微笑んで振り返す。

モーゼスもシリウスの片手を取り、二人でステージから手を振った。


傍目には深い友愛を表し合う二人に見えた。



『ベージン』のCEOたちは苦虫を嚙みつぶすような思いになる。何のジャマだ。

だた、これならSR社に貸しを作れるし、うまく利用すれば『現在最強のマザーチップであるシリウスが嫉妬した対象』という称号も得られるだろう。観衆からのモーゼスの反応は悪くない。



「ではモーゼス、場を変えてしまい申し訳ございません。スケジュールをお勧めください。お邪魔いたしました。」

と、先にステージから下手(下手)に降りて歩いていくシリウス。

そしてモーゼスに席を戻した。




***




「シャプレー。どういうこと?」

ミザルとサダルのいる部屋に入って来たシャプレーは、まだ何も言わない。


「ベージンの動きは把握していたの?」

「いや。北メンカルがどういう動きを取るか見ていたが、新しい高性能ニューロスの話は聞いていなかった。もしそうだとしても、Aクラスのはずだ。」


「あの『モーゼス』はS以上なの?」

「動きと会話はスピカたちに近いな。2Sはあるか…。」

「ここまで堂々と出したなら、これから変化していくのかな…。」


Sはスペシャルを指す。シリウスはSSSクラス。スピカやカペラはSSクラスで、有名な者と政府に認められている内々のニューロスのみ、アンドロイドである証の「(はん)」がいらない。ただ、現時点でSクラスニューロスを作れていたのはSR社だけだ。現在、風貌がニューロスで公表機なので判はないが、後で格付けされるかもしれない。



SSクラスのスピカたちと、シリウスの違いは動きなどの外的違いよりも、アンドロイドが持っている自己性の違いだ。


モーゼスは北に近い南メンカルの会社と、ベージンの共同開発という事になっている。南メンカルから西アジアのベージンに入って、それから再開発した可能性がある。政府からの認可はいるが、だからと言って他社に許可はいらないので情報が全部入ってくるわけではない。


「タイナオスでは、Sクラスの機種を作れるようには思えなかったからな。」

捕虜になっていたサダルの言葉に、その場にいる者たちが確信する。ギュグニーから北メンカル、そして南メンカルに入った可能性が最も高い。




「目的さえ果たせば何でもいいんだろ。

人間がニューロスに『命の引導』を渡せばいいだけだからな。」


惰性の世界で、儲かるのは戦争と贅沢、そして性だ。


「シリウスがあの場に行ったのは?」

「突然飛び出していった。」

「止めたのだが、ウチの会社の人間だけがいるわけでないからな。派手なことはできないから止められなかった。」


「…はあ…。思ったよりじゃじゃ馬ね。ベージンから何か言ってくるかしら。」

ため息のミザルにサダルは会場を見ながら言った。

「ただ、シリウスが人間に近い意志を持っている証明にはなるだろうな。言い方次第で世間にはなんとでも話ができる。」


「同士を称えに行ったのか。それとも思わず嫉妬が出たのか。いい話題にはなるだろう。」



霊性を極小の世界に飛ばせるサダルに、シャプレーが尋ねる。

「シリウスチップは入っているか?」

「分からない。ただ、似たものは入っている。『シリウス以前』だ。『北斗』の頃の物かもな。」




『北斗』の名にシャプレーが少しだけ反応した。



愛情があるのかないのか分からなかったあの人。

自分を検体し、息子まで捧げてしまった寝たきりだったあの人。


病体で誰よりもシリウス開発に精を捧げ、魂の搾りカスすらそこに注ぎ込んだ。


最期に手を握った時、既に言葉もなく、霊性も反応がなかった。



彼女の死後、人類未踏のアンドロイド、『シリウス』が生まれる。




「…技術漏洩で、こっちも弱みを握ったしね。」

勝算を掴んでも、ミザルは苦々しい顔でソファーにさらに深く座り込んだ。

「そんなこと、よく堂々とできたもんだわ。」

「こっちが手を出さない自信があったんだろ。」

「正攻法で証拠集めをするには手間はかかるな。」


SR社(うち)も弱みを握られてはいるが、あとは天秤にかけるしかないな。

重しの価値がどこにあるかは、神のみぞ知るだ。」


サダルは会場にいるチコたちを眺めた。


大房民含む彼らはステージを見ている観客の後ろの方で、楽しそうに何か話していた。




***




「シリウスは何がしたかったんだ?」

ファクトは思わず言ってしまう。

「司会やモーゼスの反応からすると、ベージン社の演出ではなかったと思うけれど。」


「さあ、自分に似たのが現れて、唯一の位置が奪われそうだから嫉妬でもしたんじゃね。親に聴けばいいだろ。」

イオニアがテキトウに答えると、ゼオナスがなぜ親が出てくる?という顔をする。

「親?」

「こいつの親、心星ポラリスとミザルだ。」

イオニアが、深く被ったファクトのフードを下に引っ張り、さらに下げる。

「うわ!」

「ああ!…だからあの視察で話し掛けられていたのか!」


フードを下げられたファクトよりゼオナスは驚いてしまうも、ファクトは説明する。

「ウチの親だって、何でも話してくれるわけじゃないよ。そうなん?って小さなことでも、一般公開まで教えてくれないし。」

「まあ、そりゃそうだな。」

企業秘密で、しかも場合によっては国家、国際機密もある。そもそもファクトには関心がなかった。


「だから俺も教えない……。」

「…………」

何をだ。お前に隠し玉があるのかと、疑問にしか思わない一同。


「ファクトはどう思う?あのニューロス。」

まだ会場にいるチコが聞く。

「感想?…何というか…気持ち悪くはないよ。アンドロイドって感じがする。」

「気持ち悪い?」

「シリウスは気持ち悪いだろ?正体不明で。」

「………。」

目を合わす、チコと響。

「あのアンドロイドは、いかにもアンドロイドって感じ。ベージンの親玉。」

「…………」


「そういえば、響さん大丈夫なのか?さっき…」

思わず近寄ってしまうイオニアに、響は後退りする。

「大丈夫です。」

と同時に、チコが響を抱き寄せ「近付くな」という顔をしているので、鬱陶しそうに見るイオニア。

「いつまで親父役やってんすか?」

「お前こそ、相手にされてないのになんなんだ?」

「よく言いますね。俺とチコさんの決定的な違いを教えてあげましょうか?」

「はあ?なんだ?偉そうに。」


イオニアは挑戦的にチコを指さす。


「………女だ。」

「おんな?」

「………という事…。ただそれだけ…。あなたが男だったら、俺と同じ扱いを受ける…。」

「…………。」

一瞬意味の分からないチコと、それは真理だ!と思うここにいるみんな。


「確かに…セクハラだ。」

クルバトが感心している。

「女だという、唯一許された領域…。」

ファイも納得する。性別女という以外、実際は男より漢なのでどうしようもないが。


「……」

響から手を離すチコは、渋い顔をしている。

「お前、本当にムカつく奴だな。柔らかいから抱き心地がいいんだよ!」

「うわ!公衆の面前でさらにセクハラ発言!」

「女性でも触られるの嫌な人は多いっすよ。気を付けて!」

「チコさん、イオニアの発言を体現しないでください!」


「まあ、なんにしてもチコは女だからね!でも、脂肪が多いのは聞き捨てならないから、みんなみたいに筋肉付くまで頑張らないと!目標はセルライト半減!」

明るく言う響にやっぱり性格がファクトだな、と思うタラゼドであった。男が思うのはそこではない。



イオニアと言い合っていて、なんのトラブルだと思うサダルは聞いてみる。

「アセン。あそこは内輪で何を言い合っているんだ?聴こえるか?」

サダルは、至近距離はあまりうまく拾えない。


どう答えるべきか考えるアセンブルス。

「しょうもないことしか言い合っていないので、気にしないでください。全く業務に関係ありません。」

とだけ言っておいたが追及されたので、仕方なく話す。


そして無言のサダル。本当にくだらない事ばかり言っているのだな、としか思いようがなかった。



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