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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十七章 フォーラム前夜

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4 フォーラムからの日程



月曜の南海。

マイラたち帰国組も含めたベガスの大人数で、ミーティングが行われた。



巨大スラム河漢住民の主な移動先が現在ベガスに3点ある。

元の地名をそのままとって、『東海(とうかい)』『上越(かみごし)』『那賀陸(なかおか)』だ。


最初にそれぞれ千人規模で移動。この3地域で最終的に7万人が移住できる予定だ。一部は南海やミラに近いため保健所、学校関連施設はそちらにも頼る。先行して、生活、学校教育のできている家庭、もしくは中学生以上のその子女がいる家庭から移動。河漢でも教育が進められている。


現在サルガス、タウ、タチアナが河漢。

シャウラ、ベイド、昴星(むらぼし)女子のミューティアが受け入れ先の東海、上越。

蛍の夫のアクバル、2期の班長の1人ライブラが那賀陸にアーツ側のリーダーとして入っている。


南海、藤湾、河漢からも数人ずつリーダーがいて、アンタレス行政にも数人代表者がいる。


シャウラの南海に近い東海チームが先頭モデルで自治体を構成していく予定だ。河漢だけでなく、既に南海や藤湾のあるミラからもその3地域に人が移住し、一般教育のできているベガス住民と共存していく形になる。


全体ミーティングの場は基本的に南海のVEGA事務局の近くに本部を置き、これから外部協力者や、ユラス首都再構築をしたメンバーもユラスから来るので、それもまとめていく。全体の代表がサルガスと、南海側でVEGAに所属する移民の青年、藤湾卒業生の1人。現在最終責任者はチコである。


シリウスの件は、一旦上の人間で話し合ってから、リーダーで共有することにし、今日は終わることにした。




サルガスは、まだ一人で書類を見ているマイラに声を掛ける。


「マイラさん、フォーラム後ここに残らないんですか?」

カウスやサラサが世界に人を送りたくない気持ちがよく分かる。河漢事業が大きすぎて、有能な人材がもっとほしい。

「サウスリューシアも人手不足なんです。経済が不安定で、元々の教育の基盤に格差があり過ぎて、アジアのように人材がまだ作れなくて。」

「…。ならそっちにも人が要りそうですね…。ユラスにもVEGAがあるけど、そこはどうなんですか?」

「まだ紛争の後処理状態だし、横やりが多くて。年配層が他民族に関わるのを嫌がって、いい人材が外に出られないんです。まあ、サダル議長が戻って来たので、また変わるかもしれませんが…。」


アジアは、教育さえすれば、だいたい誰でも何かしらの戦力になるが、ユラスですらまだそうはいかない。

経済、教育格差だけでなく、国や民族、主義のしがらみが多いのだ。やはりこういう所は、利他心、赦しや博愛思想の新教や正道教主軸国家は柔軟なのである。ユラスもサダルの改宗で、正道教徒になった若者層は多いが、根本はまだユラス教思想である。



そして、マイラは少し遠くを見て、微笑んで言う。

「やっぱり一度は国を出てみないとだめですよね。チコ様やワズン大尉が、あんなに喋る人だとは知りませんでした。私語もなくきびきび仕事をする人のイメージしかなくて。」

「……」

「緩み過ぎてもダメですが、アジアで育った子たちは自由だなあと思って。ユラスは民族意識が強すぎますから。先代たちの残した業績も尊敬しているけれど…それでも早く本当の意味で、ユラスが解放されればと思います。」

「…。」


マイラの話を聞きながら、サルガスは少し焦ってしまう。いいのだろうか。この状況。


心星家に超甘いチコを見たらどうなるのだろうか。ファクトやポラリスに対する時は緩みまくっている。旦那にあれで、心星家には自分から駆けて行く。


チコが、部下でもあり、腹心に近い仲間たちに幻滅されないよう祈るばかりである。




***




その日の昼。


午前の会議。河漢民のいる前では真面目にしていたチコが、ファクトの登場でおかしいことになっていた。



会議の延長ついでに、事務局横の会議室で休憩や打ち合わせがてら昼を食べていたメンバー。帰国組もいる。


「ほらチコさん。ファクトもメカニックシンクタンク行くってさ。」

「ロー!俺らが行きたいのはシンクタンクじゃないよ。エキスポの方!企業展示会、かつ、お祭りだろ。行くしかないじゃん。」

ファクトはケバブを食べながら、ローの言葉を遮ってデバイスの情報を見る。

本当は、その前にある『食の祭典』と『ゲームショー』の方が行きたいが、きっとロボメカニックにはラスも来るだろう。

「…でも、シンクタンクにも行こうかな…。」

ラスならシンクタンクにも参加するかもしれない。ベガスやチコに対する誤解を解きたいのだ。


「チコさん。ファクトも行くんだよ。もしかしてポラリス博士も来るし、サラサさんがなんか行ってほしいみたいだから頑張ってみたら?」

「ポラリスとは個別で会えるし、絶対に行きたくない。」

「行ってあげなよ。旦那さんも来るんだろ?」

「お前らまたトラック追加されたいのか?」

「えー?何っすか?パワハラっす!」



「モータープレミアムみたいな感じで、ロボメカニックは説明員のレベルが高い…。」

チコとローが言い合っている横で、クルバトがなんとなくつぶやくと、男子を中心にみんな静まる。


説明員とは、いわゆるコンパニオンの事で、昔と違って見た目はそこまで重視されないし、一時期国ごとに禁止された時代もあったが、再び世界で花開いている。説明だけなら社員でいいのではという話になり、そうしてみたところ今度はブースにも会話にも華がない。社員は社員で忙しい。

企業同士の営業だけでもないし、まじめなだけの就職説明会でもないのだ。高い出店費を払って地味なブース。世間にも宣伝をしなければ意味がないと各イベント側は企業に責められる。


美しいヒューマノイドを採用する企業が増えつつも、結局それではほぼコンパニオンだという話になり、なら人間でもいいのでは…というこれまでのコンパニオンの歴史である。

ちなみに、一般人は望遠レンズなど大掛かりなカメラの持ち込みはどこの会場も禁止なのが最近の主流だ。


「『モータープレミアム』『ハード&ゲームショー』『ロボメカニック』が、コンパニオンに最もお金を掛けるイベントです。


どのショーも超大手で高性能ニューロスを投入してくるので、人間お姉さんの方もかなり気合が入っています。百年前に、お座敷のコンパニオンは禁止になったけれど、シンボルという事でイベントガールは健在です。ボーイもいますけど。」

おっ!その話!という感じで珍しくラムダがテキパキ解説を入れ、変などよめきが起こる。


「ラムダ。写真持っていないのか?」

「あるにはあるけど、チコさんに怒られそうな写真だからやめときます。」

ここでも帰国組は反応に困る。何の話だ。



「チコさん!ファクトね、藤湾に来てから少しモテるんですよ。十四光輝かせていますから。コンパニオンのお姉さんにも狙われたらどうするんですか。監視ついでに見に行ったらいいですよ。」

「だからロー、死にたいのか?本当にくだらないことしか思い浮かばないんだな。」


「ファクト。シリウスもくんだろ?お前の事呼んでたし。会いに行ったら?」

シグマがこの前の取り残されたような顔のシリウスを思い出した。


そして、昨年も同じイベントは行われ、最大の軸であり、最大のコンパニオンであり、最高のヴィーナスとなったのはシリウスであった。

「…シリウス?」

「覚えてないのか?この前河漢で呼ばれてただろ。名前。分かんなかったのか?」

「はああ???!!」

シグマに言われて反応したのは、ファクトでなくチコとラムダ。

普段陽キャに囲まれ大人しいラムダであるが、実はシリウスのファンで、ノートパソコンもシリウスモデルである。


「え?!河漢って、この前の広場??」

ラムダとしては、ファクトに引っ張られた記憶しかない。

「…ああ。シリウスね。いたいた。」

ファクトは気が付かなかったわけではない。ただ、ムギ母から「早く来てー!」とヘルプが来たため急いでいただけだ。

「えー!!ファクト。なんで教えてくれなかったんだ?!僕がシリウス好きって知ってるだろ?」

「…俺は好きじゃない。」

えー、ひどい!と、ファクトが揺すられているのを見ながら、信じられない顔のチコである。


「ファクト、シリウスと接触があったのか?」

「挨拶しただけ。」

「エキスポに行くのか?」

「行くけど…。」

「シンクタンクも?」

「行くかも。」

「サダルにシリウスに…。はあ…困った。」


なぜそこに突然サダルが入るのかと、みんな疑問に思う。夫ではないか。


「あ!ファクト。その日はシリウスも来るだろうから、ミザルが嫌がるだろ?ファクトも、行く必要はない。」

「…。シリウスは公的なスケジュール尽くしだろ?目立つだろうし、シリウスのいないところに行けばいいだけだよ。それに、サダル議長。忙しい人なら企業展のエキスポには来ないだろうし、シンクタンクだって前日入りか日帰りだよ。今見たら、2日目に参加するだけみたいだし。」


それを聴いて、ぱあ!と明るくなるチコ。

「ファクト賢いな!」

賢くはない。日程を見れば分かるだけの話である。

「当たり前だろ。普段別の仕事のある人が、4週間もそのためにアンタレスにいるわけがない。」

フォーラム、シンクタンクは2日間。エキスポはシンクタンク後、3日開けて10日間行われる。


スケジュールなんて、自分で確認するかカウス同僚や旦那に聴いてくれと思うアーツ陣。何のために秘書や側近がいるのか。その話に触れるのも嫌なのか。


「それに俺、行かないといけないや!そういえば学校の課題で。」

「はあ?!!!」

「シンクタンクかエキスポ行って、注目するメカニック技術とかのレポート書かないといけない。」

「誰だ!専攻メカでもない生徒にそんなどうでもいい課題を出す教師は!!」


怒るチコにシグマが呆れる。

「未来のある高校生にどうでもよくないでしょ。だいたいメカニック事情は専攻しなくても、社会科でも必要な話だし。」

「ファクトだけでもその課題免除させる!業界にコネもあるから1人だけレベルが高かったらダメだろ!」

「いや、先生方も喜ぶと思いますが。むしろ両親ゆえにリポート内容も期待されているんじゃ…。」

「そういうのをモンペって言うんだよ。チコさん…。」


マイラたちがこのやり取りに入って行けない。チコが本気で焦っている。


「チコさん、自分が行かないのはともかく、なんでファクトまで行かせないんだよ。こいつはもう少し勉強した方がいい。」

タウとしては、武術にのめり込んでいるファクトが心配である。しかも、レベルが高いどころか、藤湾の顔見知りの生徒たちの間では、既に「勉強しないファクト君」で有名なのだ。


どこでもまあまあの成績だったファクト。頭のいいベガスのユラス人たちの中ではファクトの成績は超平均である。運動美術以外、だいたい可も不可もない中間だ。ファクトの評価は『親に比べて超普通』。

ただ、根詰めて勉強もしないのに、なんでも合格ラインという意味では賢いともいえる。


「そもそも、なんでチコさんはそんなにもシリウスとファクトの距離を置きたいわけ?」

「…。気に入らない…。」

「うわっ!」

最悪な理由である。


「ファクトはニューロスに関わらなくていい!ミザルも嫌がるし…。」

チコやベガスに関わるのを嫌がっているだけでなく、ミザルがニューロス研究からもファクトを遠ざけたかったという話は全員が知っているわけではないので、何人かそれを聴いて驚いている。


「分かったよ、チコ。参加するのはなるべくレポートが書ける分にするからそんなに心配しないでよ。」

ファクトが笑って言うと、チコは不安気にその顔を見る。

「それにさ、ラスに会いたいんだ。リゲルと行くから。」

「…ラス?」

「シリウスのお披露目で一緒だった眼鏡の子。」

「…ああ。」

「ちょっとケンカして連絡に出てくれなくてさ…。」



チコはファクトの隣にいた男の子を思い出す。いつも、昔から、ずっとファクトと一緒だった子だ。


タニアの滝の空気が漂い、懐かしくて胸が締められる。



「分かった…。」

安心して笑うチコと、もう一度笑い返すファクト。

「大丈夫だよ。」

そう言ってチコの肩をポンポンと叩く。


「ファクト!そろそろ学校に戻ろうよ。ソラから連絡が来た。」

ラムダが時間に気が付いてファクトを呼ぶので、チコに手を振って会議室を出た。

チコは嬉しそうに手を振る。


しかし、帰国組が引きまくっている。端から見たらなぜか仲のいい、ただの高校生である。

「何なんですか?あの子。なんでチコ様の肩をあんな風に叩いているんですか??距離近過ぎません?」


後でアーツに聞かないとなとマイラは思う。


離れたところで見ているカウスとしては、サダルとの関係をどうにか繕ってからファクトと仲良くしてほしいと思うのであった。




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