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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十章 エキスポ前夜

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45 姐さんは秘孔を突く

文中に「基地外」とありますが、「キチガイ」の事です。

ただのネットスラングです。



「タラゼド、起きろ!」

「あ?」


午前中アーツ試用期間の様子を見て、その後寮で昼寝をしていたら、タラゼドは第3弾に入った大房民ソーイに叩き起こされた。

「ファイが呼んでんぞ。」

「………。」

熟睡していた頭を無理やり起こす。


「ファイが出掛ける準備をして出て来いって。」

「…なんで休みの日に出掛けるんだ…。3時か…。」

昼の3時だ。

「いいじゃん。女の子に誘ってもらえるなんて。」

「女ってファイだぞ。なぜ貴重な休みをファイに……。しかも大房に行くとか。」

「ファイが向こうに女子がいっぱいいるって言ってた。」

「妹たちだよ。あほらしい………」

タラゼドの妹2人と、従妹2人もいるらしい。




仕方なく出てきて、ファイを乗せてバイクで大房の文化会館に向かう。

「何のため俺まで行くんだ。」

「ルオイたちが響さんに迷惑を掛けていないか見るんだよ。」


3時半過ぎに文化会館に着くと、既に朝2枠と午後2枠の講義は終わって雑談に入っていた。学生たちが横で片付けをしている。後ろの方に入って行くと、ルオイたちが手を振るので静かに振り返した。けっこう真剣に聞き入っていて驚く。


タラゼドは一瞬、響と目が合う。ビクッと驚く響に軽く礼をすると無視された。




この時間は進路相談になっていた。


みんなが聞きたがるので、リーブラが学歴ないまま大学講師助手をしている経緯も話したり、今の時点でこれ以上の学校に行けるか、行くにしても大学か、専門か、短期講習がいいのかなど実例も合わせて話をしている。

今回は2千円の特別講座料にしたので、趣味の範囲の人も多かったが、飲食に関わる項目を増やしたため、漢方の基礎を学びたい調理師や飲食店経営者なども来ていた。受講生15人中5人が男性である。大房の場合は、医療や化学に関することより、衣食住に関わる実質的な授業の方がいい。

藤湾の学生たちも講義の一部を受け持った。



そして思った通り。


完全に終了すると、響の周りには3人も男性がいて、次いつあるのかなどいろいろ聞いている。


「…響さんのモテ期はいつ終わるんだろ。」

「まだ終わらないでしょ。」

リーブラがため息をつく。


「ファイ姉!」

「ルオイ、どうだった?」

「すごく楽しかった!いいなー。私も大学行きたいなー!」

「高校の成績よかったんでしょ?行けば?」

「ウチの高校でいいって言ってもねー。」

「藤湾はかなりレベル分けしてあるから、大房の連中も何人か行ってるよ。アーツから。」

「そうなの?」


「はいはい!そこまで。4時半までにこの教室を撤収しないといけないから行くよ。」

響が仕切る。学生たちと荷物を運び、会館の事務所に終了の報告をすると、そこに行政の担当男性がくる。


「あ、響先生、終わりました?」

「はい。今日はありがとうございました。」

「こちらこそ。学生さんたちもありがとうございます!細かい報告は送ったフォーマットにお願いします。清算もレシート番号かコードで処理できますので。受講者のアンケートは、後で先生にも送りますね。少し今後のお話いいですか?」

「はい。一旦学生たちを送ってきます。」


ルオイが「大学行きたいなー」と言っていたことは言わない。若者を留めたい大房に、またベガスに行ってしまうのか!と不安がらせてしまう。


「先生、駐車場まではいいですよ。お話ししてきてください。」

と、学生が響に言う。

「じゃあ、木乃君。みんなの運転お願いするね。無事大学に着いたら連絡ちょうだい。レポートは明日で、材料を片付けて解散していいから。安全運転でね。お疲れ様!」

車に乗れるメンバーを見送り、全員が大学に無事着いたことを確認すれば学生側は終了である。


「リーブラ、ちゃんと見ててね。あの人男だから。」

ファイは抜かりない。公務員にしては軽そうな男が、行政側の担当者らしい。

「ファイ、そういう話ばっかり、いい加減にしなさい!」

響に叱られ外で待っていることにした。




***




「お(にい)。ご飯食べて帰ろうよ。」

「明日仕事だから今帰る。」

「何のために来たの?後ろで待ってただけじゃん。」

ファイに無理やり連れてこられただけである。


そこにリーブラと響が仕事が終わって出てきた。

「あ!先生こっち!」


「!」

ファイが呼んだところで、響は驚いて90度カーブで左に行こうとする。


「先生、どこ行くの?ファイが待ってるよ。」

リーブラは不思議そうに聞く。

「タラゼドさんもいるから………」


バイクの周りには妹たちとタラゼドもいる。

「…ほんとだ。何しに来たんだろ?先生に会いに来たんじゃない?」

「妹たちに会いに来たんでしょ。私はあっち行くね。」

90度曲がったら、別の出口である。

「でも、先生のスクーターそっちだよ。」


「ちょっと大房の街を歩いてくる。」

「大学に戻らないの?」

「アーツの集まりに行かないようにって、言われているの…。」

「いいよ。別に集まりじゃないし、挨拶するくらいなら。ファクトたちの事は気にしないのに…。」

「彼らはいいの!ファイも先に帰って。」

妄想CDチームはいいのである。なぜか。


響はそのまま駆け出して会館の敷地を抜けてどこかに行ってしまった。

「先生?!」




***




「はあ…。」


近くの地下テナント入口の前で気持ちを整える響。

イオニア、キファ、ウヌク…タラゼド辺りは特に避けるべき人物である。


……タラゼド?


よく考えたら、タラゼドからは何も言われていない。腰に手は回されたり半身を支えられたりしたが仕方ない状況ではあったし、会話としてはケンカしただけだ。


「…あれ?…。」


何?…なんなの?


自分の意識過剰?

なぜか顔が火照ってくる。




「お姉さん。大丈夫?」

そこで視界を覆ったのは知らない男と、後ろに数人。


「もしかして、誰か待ってるの?」

「いえ、ごめんなさい。ジャマでしたか?」

「1人で?誰のファン?」

へ?っと思って見てみると地下はライブハウスだった。響はそんな場所に行ったことがないので、一瞬分からない。昔シンシーたちとクラブには行ったことがあるが、安全が保証されている店で、裕福層が入る落ち着いた店だった。

「違います。どうぞ。」

と、さらに隅に移ると、チケット奢るから一緒に行こうよと誘われる。

「いいです。戻らないと…。」


「あ゛?」

そこで、後ろにいた一人の男が響の顔を見て反応する。

「お前…この前の………」

「…?」

「ファイの知り合いだろ!警察呼ぶとかホラ吹いた()()()女!!」

「??」

「ふざけんな。思い出せ!」


「ああ!コンビニ前の!」


「何?お前、このおねーさんとお友達なの?」

「そこそこ、かわいいじゃん。」

響に気が付いたのは、以前響が大房に行った時、コンビニ前で突っ掛かって来た男がいたのだが、その1人だ。響が知り合いの警察関係に電話してビビらせたのである。


「大房は文化会館の前にこんな物騒なお店があるの?なぜあなたが?」

「は?バカかよ。ライブも文化だろ。だいたい、会館の反対がこの前のコンビニだよ。今日は友達(ダチ)が出るし、ここは俺の生活圏だ。」


「はあ…。」

ため息を吐いて、男の顔を少し睨む。

「もういい。私は行くから。今度会っても声を掛けないで。」


「お~。睨まれてる。お前何したんだ!」

「ウチの連れに何されたの?ヤバいっしょ?こいつ!」

「なにもされていません!」

「マジ?」

周りにに笑われている男。

「るっせーな!この女が地雷なんだよ!俺はされた方だよ!」

「おーー!お姉さん何してくれるの!?俺にもしてよ!」

バカみたいに盛り上がっている。


他の客も入り口に来たので、響はサッとすり抜けて去って行く。

「は、待て!逃げんのか?」

「帰るんです。」

「『です』だって!かわいい~!」



何か言っているが無視して進むと、しつこく追いかけてくる。会館に戻ったつもりが、別の広場に出ていた。

「あれ?どこだろ。ここ。」

少し離れた遊歩道に出てしまった。


「待てっつってんだろ!」

響がデバイスを出すと、後ろから来た男にサッと取り上げられ、手首を掴まれる。

「ちょっと!」

「これで基地外行動取れないだろ。」

「基地外~!!ってマジ何したのお姉さん!」


正直、この男たちならどうにか素手で勝てそうなのだが、騒ぎを起こしたくない。小型ショートショックもハーネスも持っているし、両手を塞がれてもショックを与えられる。でも全部で5人、近くに来ないと一気に倒せないし、証人を残したくない。


響は捕まれた手首を捻り取って、サッとしゃがむ。

「お!?」

と声を出した男の腕を、しゃがむときに掴んでねじ伏せる。

「おおおお!!!」

と歓声が上がる。

「すげー!!」

「姐さんだな!!」

「かっこよすぎる!!!」


響はデバイスを取り返そうとするが、動いたコンビニ男に足を掴まれ遮られた。他にも緊急警報を出せるものを持ってはいても、無作為に人を呼ぶわけにもいかない。


その隙に、別の男が響のデバイスを取り上げた。

「何々?これで警察でも呼ぶつもりだったの?それは困るわ。」


コンビニ男に今度は腕を取られたので、響はショートショックと迷ってサイコスを使った。ショートショックは場合によっては体に痕が残るので、暴行にしても正当防衛にしても警察案件になることがある。


バジ!


と空間が弾けて男がそのまま倒れる。微少に一瞬だけ、男の意識を飛ばしたのだ。強くし過ぎると危ないので相手がショックを感じる程度だが、気を失ってそのまま響に乗りかかってくる。

「え?やだ!重い!どいて!」

「おい?お前、それはヤバいって!」

女性を襲うように倒れ込むので。流石に他の男たちが焦ってコンビニ男を引きはがそうとするが、意識がない。

「は?マジ?」


どうにか横に転がす。

「…姐さん、何したんだ…?」

なぜか姐さん呼びになってしまっている。


響は上半身を起こして頭を(さす)り、キリっと答えた。

「秘孔を突きました。」


「は?」

「鍼灸師の卵ですので、秘孔を突きました!」

「はあああ?!!」

「マジか!」

「すげー!!!」


そこで倒れた男の頭をテキトウに突くと、分からないほどに空間が弾けて男が目覚める。

「は?いってえ!なんだ。」

「マジだ!」

「何千年の業なんだ?!!ヤバすぎる!!」


響は、立ち上がって土埃を払い、返して!と1人の男からデバイスを取り上げて、カバンに入れて去ろうとした。と、前後の意識が連結してないコンビニ男が、突然、響めがけてまた手を掴もうと襲い掛かって来た。


「このクソ!」

「…!」


響は咄嗟にの事に驚いて、もう一度サイコスを発動しようとした。



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