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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十章 エキスポ前夜

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44 ベガスの騒めき



ジェイは事務局でいつもの活動確認をする。


「サルガス戻ってる?」

「まだだけど。」

先に戻っていた東海、上越組のシャウラが答えた。


「シャウラ。計画の各地域千人ずつの移動の件。もうこの数、超えてるんだよね。」


「ああ。『箱』は予定より多く進んでいるから、東海だけで3千人超えている。世帯数が千超えているからな。全体で1万は移動しているぞ。店の進出が遅れているのか?」

「いや。ヴェネレ人が入ってから、そっちはあまり問題なくなってる。河漢の商工会とも勝手に詰めてるし。すごいよね。もう倉庫状態から店を開けてるからさ、手続き大丈夫なのかって聞いたら、全部してるって言うし。」

ベイドも横から答えた。

「マジすごいよな。治安っていう意味ではヴェネレ人が入った方が安定するよ。警備会社もどんどん雇ってる。」

ヴェネレ人は、自分たちだけの警備でなく、近隣商店の警備も雇ってくれている。


住宅と最低限のインフラ整備、行政施設、店舗が揃ったら、さらに一気に移動して行く予定だ。


東海(とうかい)』『上越(かみごし)』『那賀陸(なかおか)』各地に、しばらくは簡易施設になるが高小中学校も準備してある。インフラ整備だけで就職先も埋まるので一気にベガスに人が流入してくる。

現在、教会や総師会の指導でどんどん霊性チェックも済ませている。アンタレス行政からも助けが入り、1日に数百人規模の検査だ。ここに受からないとベガス住民にはなれないし、霊性の犯罪歴を見て、場合によっては他地域や施設に送られることもある。

検査に引っ掛かった家族の子供や女性たちを見ると、栄養状態や体が悪かったりすることもある。

規模が大きいため、漏れはあるが、行政の調査団が各家庭を回っている。


「あのさ。なんか思うんだけど…。河漢、もっと速くできないかな…。」


「…これ以上は無理だろ。これでもかなり急いでいる。10年でしようとしたことを、1年以下で進めて来たからな……。」

「比較的まともな住民が抜けていく訳だから、河漢も無法地帯になったら危ないし。」

周りのメンバーがそれぞれ答えた。



「何ていうかさ。この前初めて河漢に行ってきたんだけど、変な感じがするんだよね…。中心部を優先的に、子供のいる世帯だけでも早く動かした方がいい気がする。」

地図を指で指すジェイを、みんながを見た。


「河漢中央から早く動いた方がいいよ。なんていうか揺れてる。」

ジェイには、試用期間に大房のコンビニで見た、クスリ入りのドリンクのモヤが街に所々覆い被さって見えたのだ。河漢は元々治安が悪いので初めはそのせいかと思ったが、何かがくすぶる。


「急遽住民を入れる簡易住宅地域も作った方がいいよ。」


「もしそうなら、南海広場のように、一旦河漢の通行口を拡大した方がいい方がいい。その仮設住宅に住みながら、生活教育ができるような。」

あまりに無作為に人が流入しても、今後はベガスがスラムになってしまう。河漢はアル中だけでなく、薬中も大量にいるのだ。

「それにはさらに土地と人が要るからな…。」



ベガスが移民都市を成功させたのは、東アジア指導で元々の中流層以上と交差させ、基準の高い住民教育があったからだ。実は、藤湾も今年の段階で、昨年度より全学校が2倍規模になっている。大学はとくに一気に拡大した。これは、7年前の計画から来ているもので段取り通りだ。


「…………。」

考えるシャウラ。

ジェイが何か感じ取っているなら、行政やチコたち、教会は既に知っていることもあるかもしれない。


「俺たちだけで話すことじゃないな。サルガスたちが戻ったら、一度サラサさんとも話そう。ジェイも時間いいか?」

「ああ。」




***




朝、珍しくタラゼドがニュースを見ながらゆっくり朝食を取っていた。


「あれ?おはよー!」

ファイが駆け寄る。


「平日なのにお休み?珍しいね。」

「ロボメカニックに土曜に行くことになったから、代休貰った。」

「え?タラゼドもそんなのに関心があるの?何?

きれいなアンドロイドを見初めるの?それともコンパニオン?私もキレイなお姉さん見たい!!」


勝手に赤くなっているので、タラゼドが呆れた顔をしている。

「…アホか。仕事だよ。」

「えー!いちいちお姉さんを見に行くの?どういう会社なの?!買ったら写真送って!」

「……お前、ロボって美形、人間型しかないと思っているのか?気は確かか?」


「ほんと。バカなの?」

コーヒー牛乳を持って席に着いたリーブラにまで言われ、むすっとする。

「企業向けのメカニックイベントは季節が違うからな。今回はこっちで、いろいろ見ていく。」


ちなみに南海広場を襲撃したコマちゃんは、乗り物でありロボットだ。価格の高い物はニューロス機能が付いている。


そこでリーブラに着信が入る。

「あ、響先生?」

「ブーーー!!」

と、なぜかファイが吹き出し、タラゼドに振る。

「タラゼド!響先生だって。どうする?」

「どうするも何も先生は仕事だろ。」


「ちょっとファイ!黙ってて!」

「えー!電話する人が席外して~。」

「うん、先生。分かった。じゃあ学生たち、もう来てるんだね。行きます。」

そう言って電話を切る。


「今日、大房なの。行ってくるね!」

そう言ってリーブラは行ってしまう。


「大房?」

「あのね、響さん大房で講義するんだって。」

「はあ?なんでだ?」

「ルオイたちがお願いしていたから。」

ルオイはタラゼドの妹である。

「…あいつら……。」


「でもね、生活や美容漢方に進みたい子たちの練習の場になるし、大房がベガスと関わりたいみたいで補助まで出るってさ。」


そう、大房は若者を取られるくらいなら、こっちで若者を育成してほしいのである。藤湾大学の先生であるし、入り口は何でもいいのだ。まずは大房の施設で準備費用も大房持ちで来てもらい、ベガスが何をするのか見たいのであった。


「…。」

何とも言えないタラゼドである。

「見に行ってあげたら?ルオイだよ。発案者。もし行くなら、私も仕事早上がりするから!」




***




ユラス軍駐屯。



なぜかユラスに帰らないサダルを見て、チコは心の中で舌打ちをする。


が、今は仕事中なので、それはおくびにも出さない。いつまでも逃げていても仕方ないので、気持ちを切り替える。しかし、ユラスがいるとユラスの人間として動けばいいのか、ベガスやVEGAの人間として動けばいいのか分かりにくい。


一応、普段はベガス民として動いているが、今日はユラスの会議に呼ばれている。


サダルたちが残っているという事は、北メンカルかギュグニーが動くのか。

だとしても、間に西アジアを挟んでいる。西アジアは国境周辺に強化を入れているが、アジアでない北や南を抜けられたら危ない。軍事では圧倒的にアジアが強いという事が救いだが、追い詰められた国は無謀な手段に出ることもある。


「現在東アジア軍を中心に、警戒を強化している件ですが………」

アセンブルス中心に話を進めていく。


様々な国際イベント期間、ベガス駐在はニューロスに関わることに関して、アンタレス全域を担当するよう東アジアから言われている。ただベガス、河漢以外は要請が来てから動くのだ。

サダルたちユラス軍もアジアに残り、アンタレス内で起こった全てを報告することを条件に、臨時の時に動く。


「ガジェ、サイコス再訓練の報告を後でしろ。」

「はい。」

ガジェは、この前のユラス軍演習でサイコスを放ったアジア風の女性兵だ。実は何人かが響と共にサイコスコントロールの訓練をしている。事例が少ない強力なサイコスターは、分野は違っても信頼できる者同士で情報や自己コントロールを共有し合い、技術開拓をしている。


サダルもその一人だ。正確には遠見の霊性使いだが、一般より力が強く、他人の認識も一緒に切り替えられるため、その力はサイコスターに分類されている。


「チコ総長は、しばらくは今の役職のままユラス主導で動いてください。」

「分かった。」

「マイラの組も、今の案件が終わるまではベガスにいろ。帰国組は大陸関係なくまとめてサルガスに聴いて河漢を手伝え。」

「了解です。」




一旦休憩に入るので、業務確認終了という事でチコが河漢に戻ろうとすると、ユラス側の元同僚たちに捕まってしまった。


「ようチコ。離婚話で盛り上がってるぞ。こっちは。」

「………。」

淡々とした顔で無視するチコ。こっちは一部の人間しか知らないのに、なぜ広まったんだと思うが、サダルがこれ以上ごまかしても仕方ないと隠さなかったので身内の軍関係者に広がったのだ。元々近い仲間はみんな二人の仲を知っていた。

「それでどうするんだ?」

「何が?」

「今後。」


「どっかの大陸に行って紛争の終戦援助をする。連合国への恩返しにもなるだろ。」

「恩返しって、ニューロスの件に関しては当然の補償だろ。もっと賠償を貰っていいくらいだ。」

横にいたもう一人が聞く。

「誰とだ?」

「任地の軍か政府とに決まってんだろ。」

「そうじゃなくて、誰と行くんだ?そこまで。」

「一人に決まってる。」

「………。」


茶色いレンズを入れたチコの目が、心を分からなくするが、その奥にきれいな光が見える。



元同僚たちは「あーあ。どうすんだ。」という顔を隠さなかった。




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