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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十章 エキスポ前夜

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43 孤独は宇宙でも孤独




「ファクト?大丈夫か?」


みんなが心配そうに覗いている。


「ファクト…?」

「暑苦しい顔しかない…。」


と、言ったところでキファにバジ!と叩かれたので、起き上がった。

「お前、心配したのに何が暑苦しいだ…。」



「…何ですかこれ?サイコロジーサイコスとは違いますよね?」

響と深層心理に入った時とはちょと違う。あの、他人が入ってくる時のムワっとした感じがない。それとも、他の存在っぽいのはいなかったからか?


「宇宙を進んだ先だ。」

サダルが真面目な顔で答える。

「………………」

一度、下を向いて少し考えて、また顔を上げ、サダルに向く。

「これが宇宙旅行っすか?」

「まあ、そんなところだ。」


話には聞いたことがあるが、こんな簡単に行けるものなのか。

「霊体だけ飛ばした。」

「え?ホントに?」


「ファクトだけ戻って来なくて倒れたから………。」

「みんなも見たの?」

「さあ、俺は月の裏側までだけど、本当に霊体が行ったのかはよく分からない。初めてでフワフワする。ただ、なんか何かに避けられた感じがする。」

クルバトは月まで行ったらしい。ほんとか?


「避けられる?」

「イーストリューシア主導の月面基地があるからな。察知して隠されたんだろう。」

「え?いいんすか?」

それ、怖くない?

「後で暗殺とかされない?」

映画みたいな話なので一応言ってみると、カストルたちの祝福があって、そこに帰属している霊性なら連合加盟国ではまず大丈夫だと言われた。

冗談ではなく本当なのか?サダルが冗談を言う男には見えないが。


「俺はよく分からんが、大気圏前で落下したと思う。」

30歳越え童貞のヴァーゴはやはり魔法使いにはなれなかったのか。


「飛行機と同じ高さにまで行って中に入った。高級そうなシートで添乗員の配ってた飯に鮭のムニエルがあった。」

それ、大気圏どころか雲と同じか少しだけ高いくらいやんと思う一同。でも、ヴァーゴも飛べるとは成長したのか。ゼロよりも微妙な霊性0.1とか言われていたのに。

0.1よ。頑張ったな。


「その飛行機の型、覚えてるか?後でメニュー確認する。」

これらは幻想を見せられたのか、現実か。いわゆる霊体離脱なのか、精神だけが飛んだのか知りたいクルバト。

「俺はなぜか地面を抜けて、地球の裏側に行った気がする。ピンクの建物にハデハデな看板があって、おっさんたちがギターみたいな楽器鳴らしてた。」

シャムも語る。

「後で、ビューで調べよう。」

本当の話か確認がいる。


「俺は分かんないけれど、まだらの星ってある?なんかそれが近くにあって、ひょうたんみたいなのもずっと先にあった。」

ソイドがまだ呆けている。



「探してみるといい。ただ、少し角度が違うだけだけで、だいぶ位置が違うからな。全てが動いているし。

天動地動説が最も正しい。そして自分を中心にすれば、自分の座標はいつも0だ。」


サダルが全員の気持ちや状態など確認する。それが終わると、もう一度床をダン!と打つ。


「これで私からの経路は閉じた。」




「……………」

みんな何も言えない。




ファクトがサダルの顔を見ると、相変わらずの無表情で、でも今までと全く違う何かを感じる。なんというかまとっている空気が重くない。


自分の手を見てから、そっと握ると少し荒れていて、でも体温を感じた。そのことに安心する。




そう。見た宇宙には誰も人がいなかった。でも、ここには誰かがいる。



「議長、………見た先には誰もいなかった。宇宙は孤独なの?」



「本質的には地球も宇宙も同じだ。


孤独に耐えられなくて、宇宙や多次元に行く人間はいるが、結局は地球で、ここで孤独を克服できなければどこに行っても孤独は孤独だ。

人間が、人間との関係を作れなければ、宇宙も未来もどこまで行っても独りだ。


ただ、宇宙を経験することで、地球での人生観が変わって生き方も変わる場合はあるがな。」



「…………。」


「これは幽体離脱に入るんですか?霊性?サイコス?」

キファが尋ねる。

「厳密には幽体離脱だが、人によっては精神が一瞬飛んだだけかもしれない。」



その時である。


何かワザワザとはしていたが、ドアが突然開く。チコが走ってこの道場に入って来た。

「大丈夫か?!」

「……。」

全員が注目する。


「ファクト…!レサト?」

一番前にいたレサト以外も見て、同時に視界にはいるサダルに「うわ゛!」と言う顔をした。


旦那を見てその反応、ひどい。


遅れてパイラルとカウスが入ってきて、状況を見て安心する。カウスは護衛たちに軽く礼をした。


「こっちで霊性が反応したからびっくりしたんだ!」

「自分の夫のものくらい見分けてください。感知は鈍感なのに対応は敏感ってなんですか。」

「………アセン、お前黙ってろ!」

しかも夫を見ないふり。

「ファクト!お前何してる!早く寝ろ!大きくなれないぞ!」

「……は?だから、多分もう背は止まってるってば。まだ10時だし。」

そう言ってファクトの近くまで行こうとして、眉間を押さえて立ち止まる。


「ヴァーゴ!サッサとファクトを寝かせろ!あと、トレーニングより夜は勉強させろ!」

しょうがない感じでそれだけ言って、響のようにUターンして去って行く。


パイラルは一緒に着いて行くが、カウスは護衛たちに手招きされて止められる。

「なんだ?あの過保護っぷり。」

「……相性がいいようで。」

「…………オカンだな。」

「すごいな。無口で孤高の人が、次会ったら一気にオカンになっているとは。ユラスがひっくり返る。」

「……………。」

言える事がないカウスである。


チコが去ると、サダルは相変わらず何ともない顔で立ち上がる。

「今日はトレーニングをやめて、水分を取ってよく休め。もし何かあったら連絡しろ。私は行く。」

「あ、はい。」


サダルたちが去って行く姿を見ながら、キファは不思議そうにペットボトルの底を覗いた。




***




「…という訳です!」


ロディアのヴィラでリーブラがそこまで言うと、みんなから拍手が起こる。

「…リーブラ!おめでとう!!」

ソアが手を握る。

「ソアもね!」

「そうだね。でも、もう少し私は様子を見ないと…。」

ファイは泣きそうだ。

「リーブラも行っちゃうの…?」

「行くって…引っ越すにしても南海か東海だよ。」


ロディア、ソア、ファイ、それから響。みんながリーブラを祝福する。

「ははは…。でも、もう少し男子たちには黙っててね。」

「分かった!」


そこで玄関のベルが鳴り聴き慣れた声がするのでファイが出迎えに行くと、チコであった。


「チコさん!何ですか事情聴取にでも来たんですか?」

「響、帰って来てない?」

「電話すればいいのに。いるけど。」

「…。ここでいいから入っていい?」


「…………どうぞ。」

怪訝な顔で迎え、玄関で話すファイ。

「ちょっとここで何してるんですか?」

部屋に入らず玄関でぼやく。

「なんでユラスの奴らは帰っていないんだ??」

「いるかいないかも知りませんよ。何ですか?ウチに帰るのが嫌とか?」

「………。」

答えないのが答えだ。

「ダメだよ!そんなん、チコさんと話しを詰めるために残ってるに決まってるじゃないですか!」

シェダルが現れたことも理由にあると思うが、それは言えない。現在裏で、かなりの人数が動員されて、調査をしている。


「チコさん!」

ソアが様子を見に来たら、チコが玄関で半死だ。

「どうしたんですか?!こんなところにいていいんですか??」

「…いや。ダメなんだけど…。」


「チコ?」

響も見に来てチコを一旦リビングに入れてあげた。

「ユラスがまだいる。」

みんな「何だその理由は。いて悪いのか」と思うがロディアは心配そうだ。

「チコさん、なんか飲みます?」

「あ、水で。」


「それにしても、ユラス議長がそんなに国を開けて大丈夫なの?」

「一応向こうにも代理で立っている人間がいるからな。サダル不在の間まとめてたから、実質そのまま任せられる。首相も普通にいるし。ニューロス関連や一部の事はサダルしかできないこともあるから。はあ…。」

「チコさん。せっかくリーブラが吉報を報告したのに、やめてくれませんか?」

嫌味ったらしくファイがいう。


「吉報?…ああ。リーブラ、おめでとう。デネブから聞いた。」

チコは優しく微笑む。

「へへ。ありがとうございます!」

チコが、リーブラの柔らかいくせ毛をそっと撫でると、うれしそうだ。


「チコさん、それで仮面夫婦になるんですか?離婚でもするつもりですか?」

そこで、リーブラ本人が話を戻した。

「え?!」

そんな話聞いていいの?と、ロディアがビビってしまう。


「旦那さん好きじゃないの?」

「好きとか嫌いとか言う以前に…。ほら、向こうは女性にも困らないし、私とは連絡事項だけで日常会話もないし。今更夫婦しろとか言われても、こっちがお嫁さんほしいぐらいだし。ね?」

「ね?と言われても、半分はチコさんの努力でどーにかなるじゃん。」

「はあ…。」

このメンバーの前では完全に開き直ってしまったチコ。


響は思うが、ユラスがアジアから撤退しない限り、この絶妙に築き上げたバランスを保つためにチコは絶対に離婚はさせてもらえないだろう。

それに、ユラスはチコを追い出してもフリーにはしたくない。チコを慕っている人間が男女共にそれなりにいると分かったからだ。しかも優秀な層に。


チコは頬をついて、みんなを眺める。今日は裸眼なので、きれいな青緑の中に明るい紫が光る。


「な、なにを見てるんですか?」

チコはロディアや響をじっと眺める。ついでにという感じでファイも見た。

「何々?」

「響からだけ、報告を貰っていないな。」

「報告?なんの?」

何も分かっていない響先生。

「…無自覚?」

ファイに尋ねるチコ。リーブラやファイは、ははーと思う。霊性を見ているのだろう。

そうです。響先生は無自覚です。


報告の意味が分かり赤くなるロディアを見て、やっぱりそうかと、確信するリーブラとファイ。響以外報告までしたという言う事は、ロディアは決まったとみていいのか。


「ファイはもともと何もないな。」

「ほっといて!」


そこで、パイラルから連絡が来る。

「はぁ、帰らないと…。」

「チコごめんね。泊まりに行ってあげたいけど、さすがに旦那さんのいる日は無理だわ。」

「…………。」

うらめしそうに響を見て、その胸に顔をうずめた。

「もう…。」


「ソア。ベイドに迎えに来てもらうんだぞ。早めに帰るんだ。」

「はい。チコさんも気を付けて。」


それだけ言って、チコは家を出た。



「チコさんがこんなに長く女子会に参加したの初めてだわ。」

10分もいなかったが、ファイの一言に拍手を送る一同であった。




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