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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十章 エキスポ前夜

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42 宇宙に初めに行くのは肉体ではない



「なあ、ユラスの議長って暇なの?」

こそっとクルバトに聞くシャム。

「さあ…。それ、言うなよ。」

クルバトの横にいたヴァーゴも一言。

「せめて、『お忙しくはないのですか』と聞け。」


適当に端にあった椅子に座るサダル。

「どうした?見学に来ただけだ。続けろ。」


こんな怖い人たち。しかも本物の軍人だろう人たちの前で何をしろと言うのだ。今ここにいるのはキファ以外アーツはBチーム以下だ。助け舟もくれないアセンブルス。


そして隠れようとしたレサトを見付ける。

「バージの息子か?」

「……。」

しょうがなく前に出てくる。

「…はい。」

「大きくなったな……。」

レサトは正式な礼をした。いつもだらしないのに、ちゃんとすればかっこよく見える。


「まあいい。気にするな。」


気にします!と言いたい。見学者の方があまりにも目立つ。


「響か?何をしている。」

ファクトの後ろに逃げて、顔を膝に隠している響に気が付く。響は外部アジア人なのに呼び捨てできる仲なのか。


「…こんばんは、議長。」

しぶしぶ出てくる響のど派手な色合いに、ちょっと引いているサダル。ユラス人でも引くのか、あの格好。

「何をしているも何も、そんな怖い人引き連れて歩いて廊下を占領していたら、驚くに決まっています!せめてもう少し優しい顔して下さい!東アジアの一般領域に職業軍人はいないんです!」

オイオイいいのか、その口調。ビビる男子ズと、怖いと言われ、思わず響を見てしまう側近や護衛たち。西アジアにはまだ徴兵があるので、休暇に入った軍人が歩いていることはあるが、さすがにここまで屈強な外見にはなかなか出会わない。


「…そうか。悪かった。」

「だいたい、議長はねぇ…」

そこまで言って響は、大房のオバちゃん張りの勢いでサダルの近くまで行って小声で何かを話す。

「*****!」


「ブつ!」

そこで、これまで傍観を決め込んできたようなアセンブルスが吹き出した。サダルも目を見開いている。

あのアセンブルスを動揺させるとは何を言ったのだ。


護衛たちは立っていてぼそぼそとしか聴こえなかったが、アセンブルスには全部聴こえていた。あ、この人サイコス使いか!と響はしまったとは思うが、普段チコ付きの側近ならいいかと開き直る。


「もういい!帰る!せっかく縄跳びしようと思ったのに!

とにかく議長!私、霊言(れいごん)は分かりませんので、そこんとこよろしくお願いします!!」

そう言って響はカバンを持って、薄いパーカを羽織って出て行ってしまった。


「響さんて、絶対にオバちゃんの血が流れてるよね…。誰がユラスの議長に内緒話しようと思う?下手したら拘束だぞ。」

「何言ったんだろ……。」



ここまで来て、場の雰囲気に耐えられなくなったファクトは、もう素直に言ってしまうことにし手を挙げた。

「すみません!響さんの言うように、僕たちも、職業軍人の方々に囲まれて格闘術のトレーニングなんてできないのですが。」

ただの見物とかやめてほしい。しかも世界最高のオミクロン系も混ざっているだろう。


「………」

サダルと職業軍人ぽい人たちが「そうなのか?」と言う顔をしている。自分たちの怖さを自覚してないいのか。

「じゃあ、少し面白いことを学ぶか?」

「?」


「宇宙旅行をしよう。」


「は?」

この人が言うセリフ?と思わずツッコみたい。





「アセン、ここにいる人間は全員、最初の祝福を受けているか?」

「はい。カストル牧師かエリス牧師から受けています。」

「それが帰還のルートと守護になる。全員霊性テストは通っているな?」

「はい。」

「霊性は3セットを超えているか?」

「はい。」

サダルは道場フロアの中心に来てそこに座り、全員来るように指示を出す。


ここに今いるのは、アーツのキファ、クルバト、ヴァーゴ。藤湾学生のレサト、シャム。それからアーツでもあり藤湾学生でもあるファクトとリゲル、ソイドもいる。


「車酔いしやすいのはいるか?」

みんな首を振る。

「平常時、鬱の人間もいないな?遠慮なく手を上げろ。」

ソイドが一言だけ言う。

「ちょっといろいろあって、以前は鬱というか、ブレザーの制服の集団が怖いです。」


「こっちにこい。」

サダルはソイドの額に手を置き、少しなにか光を出した。

「…大丈夫だな。どうする、今することは心が安定していることが前提だ。空間を変える。やってみたいか?」


ソイドはいじめで引きこもりになり中学はお情け卒業、高校は点々と行くもほぼ未就学で、今、再度通い直している。

過去の学校生活はもう戻らないが、それでもどうにかその先の時間は捨てず、バイトを始める。バイト仲間がアストロアーツに時々行っていたおかげで誘われ、ここで全く新しい生活を始め自分自身もこれまでと違う世界観で人間関係を作って来た。

今なら大丈夫かもしれない。

「……………」

しばらく考えてソイドは決意する。

「やってみます。」


サダルは頷く。




「いいか、自分の力に頼るな。過信するな。それが前提だ。天意に委ねることを忘れるな。


まず合図をしたら、全員瞑想をしろ。もしかしてついてこられないかもしれないが、何も起こらなったらそれだけだったと思え。個人差があるから気にすることはない。

ザックス、なにか目印になるものをくれ。」


サダルがそう言うと、1人の護衛が近くにあったキファが飲んでいたペットボトルを投げた。キャッチして中心に置く。

「これが目印だ。」


そのペットボトルを縦にして置き、数回タンタンタンッと床に打ち鳴らす。

「この感覚と音を覚えろ。帰ってくる時の目印になる。」


ファクト、リゲル、キファは、響のサイコスを思い出す。異空間に飛ぶのか?波長を変えるのか?


「帰り方が分からなかったら、このペッドボトルを構成する分子や原子、電子、素粒子などを思い浮かべろ。それは銀河や恒星と惑星に似ているだろ?宇宙も原子も同じだと思えばいい。

ルートやルーツは同じだと思うんだ。それで世界は構成されている。このペッドボトルも宇宙であり、クォークだ。

単純だろ?」

しかし、サダルはこいつらは下手をしたら中学校レベルも怪しいことを思い出す。


「あ………。銀河とか分かるか?写真や絵で見たことがあるか?」

流石に憤慨する。

「知っているに決まっています!!」

「太陽系もか?」

「バカにしないでください!!」

「バカにし過ぎです!!」

学校では覚えていなくとも、そんなもの映画や漫画やアニメで見ている!


「原子構造を知っているか?」

どこまでバカだと思っているんだ!バカだけど。

一応バカでも中高は行ったんだ!響さんがどっかの科から貰って来たTシャツに描いてあったわ!と思う。原子以降は核っぽいのと電子しか知らんけど。クォークってなんだ。



「それから、自と他を分けるな。」

「…?」


「宇宙の道理で本来の分離は、誕生と成長以外にはない。それ以外の分離は人間の不貞と怨みを抱えた人間だけしか持っていない。それが人間以外にあれば、人間の影響を受けているだけだ。


全てが自分であり、相手だと思え。


自と他を分けないと言っても、君たちはまだ幼い。実際の人間やその思念と思う者が近付いて来ても、基本離れろ。この道場かこのペットボトルをイメージするか、信仰が立ている者は唯一のエネルギーを思えばいい。何かあったら助け舟を出す。」


考え込んだジャムが手を挙げた。

「そうしたら誕生は膨らむだけだし、自と他は分けるなって、人は何でも我慢しなくちゃいけなんですか?」

シャムは牧師から入学式の時に祝福は受けているが、神学は学んでいない。

「分離は何でも成長のためだと言ってしまえばどうにでもなりますよね。不義なことやごまかしでも。」


「今の人間の概念ではな。人間の話は宇宙より複雑で一言では難しい。今はやめよう。

宇宙の道理の話をすれば、宇宙は全て新しくなりながら広がりと分離、拡大と縮小を繰り返している。正確には結合と分離かな。離れ、また結合するんだ。


世界の原理は表裏一体だ。」



広がりと結合は違う気もするけれど、イメージすればするほど、それは似ているようにも思え、頭が混乱して来る。結合すると1になるのか、それとも拡大するのか。個数の話か、容量の話か。



少し、簡単なトレーニングをしてから「宇宙旅行」とやらをしてみることにし、目をつむって戻れと言った時にこの道場や、ペッドボトルをイメージする練習などをする。ベガスの街でもいいとのことだ。人によっては、ほんの小さな空間の揺らぎでも少し目が回る者、酔う者がいた。

でも何度か試し、全員吐き気はもうない事を確認する。



それから、始めることにした。

座りやすい姿勢でいいし、必要ならひざ掛けをしてもいいという。みんな男なのであまりその辺は気にしない。



「これは、現代の宇宙業界や特殊分野に関わる人間は、みんなするトレーニングだ。」



しばらくサダルが目を閉じて祈り、指で指し示すように全員がいる周りを囲った。そこにパチパチと光が現れる。

ファクトは、霊性使い?サイコス?それともだろうかと不思議そうに眺める。


「目を閉じて自分の中に、自分以外のものを受け入れ、宇宙と同化するイメージを作れ。」




ファクトは静かな…合気道の道場を思い出す。スーと気が流れ、音も無く電気が走る。



しばらく瞑想をしていると、サダルが「始めるぞ。」といい、

バングルをはめた右手でダン!と床を手で打つ。


マットレスは音を吸収したが、それでもバズ!と鳴った。



すると、

バン!と空間が弾ける。





一気に世界が全てを吸収し、全てを放っていく。


吸収に注目すれば吸収が主役になり、放っていく世界に注目すれば何かが広がっていくのが見える。どちらがどちらなのか、だんだん分からなくなる。


数億光年先の世界が目の前に拡大し、世界がまた回転する。自分の視界以外は何も見えない。




それがひどく熱いのは分かるのに、熱いのか寒いのかも分からない。


目の前に真っ白な星が見える。視界に入らないほど大きいが、恒星だということが分かった。星なのか見たいと思ったら、一気に視界が引いて全貌が見える。


あの中には何があるのか?と思ったら、今度はその星の中に入って行く。幾つもの霧のようなガス溜まりのような溶岩のような層を潜り抜ける。




近付いているのか、遠のいているのか分からないあの感覚。ファクトは知っている、この感覚を。




暫くその感覚が楽しかったが、なぜかだんだん時間間隔が分からなくなってきた。



あれから何時間経った?まだ数分?


それとももう何万年と経ったのだろうか。もう時間は関係ないのだろうか?



進んでも、近付いても誰もいない。





人が…


人が恋しい。この光を、この感覚を持っていたあの人は誰だっけ。



でも、どこにも人がいない。


宇宙を数万光年行っても、数億光年行っても、人がいない。


太陽系の星の数よりも多い、他の銀河にも人はいない。

始発点から反対側に行っても人がいない。


微妙な生命、

反応はあっても人はいないのだ。





地球にしか人はいないのか?


宇宙はこんなに孤独なのか?



電波や形はあっても、それは自然の産物でしかない。


まだ、誰も手を付けていない先の先の、おどろおどろししくも美しく壮大な宇宙。100年以上前に放った地球の信号さえ届いていないそこ。




そこに人がいない孤独さと、


何もない清らかな場所だからこそ、

誰にもここを今の人間の手で汚させたくない思いと、


正反対の恋しさが募る。



そして反射する何か。

その瞬時に人類の全てを感じる。

人の跡?!一瞬だけ人の跡を感じるが、それと自分が重ならない。



通過していくだけ。


あれは今なのか。過去なのか未来なのか。全く別のものなのか。それとも同じものなのか。



どんなに宇宙が広大でも、可能性があっても…。




会いたくて…抱きたくて…


恋しいのは…





そこでバン!とまた弾ける。


ファクトはハッと思い出した。

タンタンタンッ!と音がする。あの水のペッドボトル!


自分がキファに投げたはずのペッドボトルを自分がなぜかキャッチした…その時、



「ハ!」と目を開けた。




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