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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第二十章 エキスポ前夜

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40 突然のドナドナ



偉いさんっぽい人の中に連行されるラムダに、手を振るファクト。平穏な道を生きてきたのに人生分からないものだ。

「ドナドナされていったな…。」

「改造されて戻ってきそうじゃね?」


ジェイも驚いている。

「なぜラムダ???(ほふ)られるのか?」



会議室には、不機嫌そうなサダルに、笑いもしないシャプレーにミザル。向こうからペラペラ話しかけてくる商工会や経済クラブのおじさんたちと違って、真面目な顔で人を品定めするような、おそらく研究者たち。


リーダー勢とラムダは、会議室の一角の椅子に適当に座るように言われ、机に向いていた人たちもアーツの方を見る。ここでのことを外部に口外しないようになど、簡単に説明を受ける。サラサも入って来た。

サルガスはミザルと目が合ったので、頭を下げた。はじめ、髪型が違うので分からなかったようだ。


「こんにちは。」

1人の研究員が言うと、取り敢えずアーツも「こんちは」と言う感じで挨拶をする。


「我々はSR社の古株でね。来年度から君たちの支援もさせてもらうことになった。」

「ありがとうございます。」

そこは心からお礼を言っておく。でも社長はともかく、それと研究員は関係ない気がする。大きい会社は技術者たちに会うことはまずなく、社会貢献や広報などは担当部署が違うはずだ。



「なぜかニューロスやサイコスターがここに集まってくるようでね。理由を探しているんだ。」

「ニューロス?」

「チコ・ミルクがいたりサイコスや霊性の啓発をしているのもあると思うが、ここ1年なんだ。とくにいろいろあって。」

急にベガスが発展しだした。


そこで、サダルが口を挟む。

「そういえば、呼んだのにチコは何をしているんだ…?」

さらに不機嫌そうなサダルに、サラサが即答する。

「河漢で人に会っています。」

「そんなもの後回しにすればいいだろ。」


怒っていらっしゃる………。


「あの…メカニックの襲撃が何度かあったことですか?シリウスが来た事ですか?」

タウがどの話か分からなくて質問で話を戻す。


「襲撃が目立つのはベガスが移民都市と言う理由の方が大きいかもな。ただ、他でも点々と起こっているから。聞きたいのはシリウスが来たことだ。」

「シリウス?来たのか?」

「…ファクトじゃね?」

「ファクト?心星ファクトか?」

「シリウスが来る理由はファクトじゃないでしょうか。お友達のようです。」

シャウラも他もそれ以外思い浮かばない。

「人たらしだけでなく、いろいろ好かれるよな。あいつ。」

「話しやすいし。」


「…………。」

ミザルの顔が曇る気がして、シリウスがファクトに会いたそうだったことは言わない。もう知られているが。


「ラムダ君は誰かな。」

「はひ?!」

主にアーツAチームの男女共に比較的ガタイのいい中から、160センチくらいの怯えた少年が手を上げる。成人だけど。


「どうやってシリウスと友達になったのかな?」

「はいぃ?!」

リーダーたちも反応。

「はあ?!!」

「いつっ??!」


「いや、河漢で一緒に荷物を運んで談話しただけです!」

「シリウスに君たちの名前を出したら、『挨拶をする約束をした友達だ』と言っていてね。」

リーダーたちは、既にシリウスがボランティアに来ていたとはと驚く。シリウスとしては友達の引っ越しの手伝いをした気分だが。

「…それ以外何もありません!!僕はシリウスのただのファンです!!」

ファン。普通のようで斬新な答えだ。


研究員が質問の仕方を変える。

「シリウスはなんで君たちと一緒にいたかったんだ?」



これは、前にシリウスが来た時に会話をした河漢メンバーも、なんとなく覚えている。


『自分でも手応えのあることをしたいんです。』

『…皆様は自由でしょ。それに私を守ってくれる。』

『自由があっても一人きりなんです。』


今言うべきなのか、サルガスは悩む。

SR社はそんなシリウスを知らないのだろうか?


一応ラムダは勇気を出して答えておく。これで自分の役目は終わりであろう。

「『楽しい』とか言ってました。」

「ほう…。」


「それだけです!もういいですか!!」

サラサの方を向いて目で訴える。もっといろいろ話した気がするけれど、思い出せない。


「分かった。行け。」

哀れに思ったのか、サダルが退出許可を出したので、ラムダは礼をして出て行く。



そして廊下に出て気が付く。

会議室ドアの2メートル先に、誰かの長めのタオルがゴールテープ代わりに伸ばしてある。

よく分からないが、ラムダはドアを閉めてから考えながら歩き、シグマとシャムが伸ばすそのタオルを泣きそうな顔になりながら、両手を上げて切った。



場面は戻って室内。


会議室の外から、

『1位~!!』

『おーーーー!!!ラムダ生還ーーー!!!!』

という、アホな歓声と盛大な拍手が沸き起こっている。


思わず固まる会議室内。


『屠られなかったのか?!』

『すげー!勲章授与!!!』

『脱走兵だろ。逮捕だっつーの!!』

『ラムダは民間人だ!保護対象だろ?!』

『うわ~!ファクト!なんで見捨てたんだ!!友情はどこに~!!』

『どの辺改造された??』


息子の声も聞こえるので、ミザルは頭を押さえる。


「お見苦しいところごめんなさい。」

サラサが頭を下げた。

「いいけど。私でも理解できない子だから。」

ミザルの脳内にいなかったタイプの子供がなぜか生まれた。ミザルは眉間を押さえ、サダルはやはり無表情で目の前にあったお菓子に手を付けていた。


「俺も脱走したい…。」

と、普通人ベイドがつぶやく。


この後いくらかの聴き取りの後、タウとサルガス、イータが残り、最後にサルガスのみ残される。


彼らは、退出する度に、廊下で盛大な歓迎を受けたという。



そして、SR社やサダルが会議室から出てくるときは、全員平然を装い、外にいた護衛たちだけが笑いをこらえていた。




***




もう少し見学をしたいという感じで、SR社の社員たちがエントランスなどに残っている。


こういう時、お客様に話を振るのがよいのだが、サルガス的にもこの人たちが何をしたいのかいまいち分からなくて、怖い集団を放置することにした。サイコスターの話をしていたので、あまり口を挟まない方がいいのかもしれない。大房民は同じ中央区でも倉鍵とはあまりにタイプが違い、推測できないことが多く会わなければ分からない事も多かったのだろう。


南海の施設や活動については話してもいいと言われているので、一部の博士たちに聴かれたことをゼオナスがやタウが説明していた。


そして、あまり姿を見せないアッシュグレイにエメラルド髪の護衛アンドロイド『ヒューイ』にラムダやクルバトなど一部メンバーが感動している。

「すごい。初めて見た…。」

「Sクラスだよ。普通は触れることもできない……」

「見た目もかっこいいな。」


みんな、スピカもアンドロイドだとはまだ気が付いていないようだ。



そんな中、1人すっかり忘れられていた人が戻って来た。


「あれ?もしかしてー」

ひょろ長い背丈の、茶髪くせ毛の男。

ファクト父、ポラリスだ。


「ちょっとカフェに行ってたんだけど終わっちゃった?ケーキ褒めたら、おばちゃんに捕まっちゃって話が長い長い。その後迷子になって歩いてたら、建物がシンプルでおもしろいから見入っちゃって!」


全然楽しそうでないサダルやシャプレーにも「すまん!悪かった!」と、学生のノリで話している。


「ポラリス。帰ったらシリウスに聴くぞ。情報が入った。」

「あー、ごめんな!でも、もう少しここ見学したい。」

誰も笑っていなくても楽しそうで、相手もポラリスのテンションを気にしていない。


つえ―!

と思う一同。



そんな中ポラリスは、ミザルから離れた場所に息子を見付ける。

「ファクト、みんな何の話してたんだ?」

息子に聴くなと思う。

「そんなの知らないよ。ダメじゃん。さぼったら。」

「違うんだ。ケーキを買っていたんだ。お前も食べるか?」

なにが違うんだ。大人の説明とは思えない。しかもファクトにサボりだと注意されている。完全に先の博士集団から逃げたとしか思えない。


「昨日ファクトが逃げたから、母さん機嫌が悪いだろ?これ、お前から渡して仲直りしろ!」

「えー。今日はヤダよ。父さんが渡しな。」

「おい!ケンカしたら日が過ぎる前に仲直りしろっていうだろ?遅いと拗らすぞ。私が渡しても、もっと仲良くなるだけだからな。」

「それは夫婦の話だよ。それにもう1日経ってるし。」

「親子も一緒だ!」

「だめ。俺、今反抗期だから1日、2日で終わるわけにはいかない…。」

なんだこの会話と思いながら、ジェイたちが冷めた目で見ている。


受け取らないので、ファクトからという事にしてミザルの方に行く父ポラリス。


遠目で様子を眺めていると、ポラリスは何かミザルを怒らせていて、受け取ってもらえなさそうだ。

当たり前だ。会議をサボっていたのに。




一方こちらは、ミザルサイド。


「ファクトと仲直りしよう。今あっちにいるから。」

「今日は仕事で来てるの。いい加減にして!」

「いったん解散でいいだろ?スピカー!解散していいか?」

スピカが頷く。

「ただ、警護のついている車でお帰り下さい。」


「えー、いいよ。社長じゃないし。じゃあママ、あっちにライトアップされた水場があったから、あっちに行こう。きれいだったよ。ロマンスが生まれそう!」

ここでデートしようとする、どこまでも自由人ポラリス。南海広場のどこがロマンチックなんだ。花札おじさんたちがこの時間まだ健在で、夜11時ごろまで明るい競技場や広場で酒を開けて花札をしているのだ。

理解に苦しむギャラリー。



「何言ってるの。まだ仕事があるのに!」

「これ以上仕事したら、労働基準法違反だよ。」

「時間制じゃないでしょ?帰るよっ。」

声は押さえているがキレ気味だ。ポラリスはそんなミザルの手を取って、無理に連れて行こうとする。



「うわ!こわ!」

「お前のとーちゃん、こえー事すんなよ!」

チコへのビンタで記憶が止まっているメンバーはハラハラする。


ポラリスはミザルをまた縦に抱え上げた。

「ひい!!」

ミザルが一瞬声をあげるが、大声を出すと目立つのでどうにか堪えて頭など叩く。

「降ろして!人前でそういうことをしたらタニアに帰ってもらうって言ったでしょ!!」

「分かった。次回からそうする。」

そのまま二人は外に出て行ってしまい、護衛が一人その後を付いて行った。



あの怖い人たちを全然恐れていない…。


「…本気(まじ)、つぇーな。お前の父ちゃん。」

ジェイたちが呆気にとられている。ミザルより強い夫がいるとは。



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