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ZEROミッシングリンクⅢ【3】ZERO MISSING LINK 3  作者: タイニ
第十九章 シンクタンク

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35 次から次へと



2B出口。こちらは入退場口にも搬入口にもなっていないのでほとんど人はいない。

施設外のエクステリアには人気(ひとけ)はない。


前の学校に荷物を取りに行った時以来、初めてラスに会う。久々に幼馴染3人が揃った。


「………ラス。」

「…なんだよ。」

リゲルが「よう。」と言う感じで手を振ると、ラスは仕方なくという感じで手をあげる。


「お前何してるんだよ。ニューロスの事でも勉強しに来たのか?」

「…ラスに会いに来たんだよ。メカニックには行かない。将来は小中学校の先生になるよ。」

「………。」


ため息をつくラス。

なんでお前が先生なんだ…と言う顔をしている。


「先生だっていい仕事だろ?」

「そうじゃないだろ。両親にも環境にも恵まれて、なんでSR社に来ないんだよ。」

「ニューロスに関わるのはウチの母さんが嫌がってるし……今日はそういう話をしようと思ったわけじゃなくて…………」

「親は親だろ。ファクトは何がしたいんだよ。」

だから先生だと言っているのに。


リゲルが思わず口を挟む。

「…なあ、ラス。ファクトがニューロスの道に行く前提なのはおかしいだろ?ファクトの人生なのに。なんでそんなにこだわってんだ。どっちにしろ、そこまでの頭はねーよ。こいつは。」

「………。」

そうである。脛をかじってSR社なんて行っても恥をかくだけだ。ファクトのジュウシー君事件を知らない他の研究所なら、もっと辛辣に評価されるだろう。親の10分の1の頭脳もないのに、なぜそんなにこだわるのだ。ファクトはそこらの大学なら普通に卒表できるだろう。でも、アジア有名大の首席卒生でも親には全く追い付けないし、十四光の下にいるなんて馬鹿だと言う人も多いのに、なぜ。


「お前はパイロットタイプだから。」

ラスが突然変なことを言う。

「パイロット?」


「そこに向いているかもしれないって言われていたんだ。」


「………。」

ファクトもリゲルも言っていることが分からない。パイロット?ヘリなどに設置されているニューロス頭脳の事か?他のAIより臨機応変な自動運転や運転機能に優れているAIだ。それに関わるということか?開発どころかメンテもできるわけない。


それとも搭乗用ロボットでも動かす才能とか?

それってアニメみたいでチートでかっこいい才能だけれど、そんなのに乗ってどうすんだ。この時代、緊急時や工事現場に役に立つくらいである。ミリタリーからSFにまでなってしまったら、クルバトノートのジョブは何になるのだ。これ以上ファンタジーから外れてどうする。


ロボットに乗って戦争でもしろと?

それだって遠隔でいい。



それに地上で使うような搭乗ロボなら、大型免許や特殊免許所持者でも十分動かせる。それとも深海や原子力や宇宙開発系?もっと大変な所には、ヒューマノイドを送ってしまうので人間でなくてもいい。危険な場所にあえて人間を搭乗させる意味などない。なんのためのロボだ。




その時、上から少しだけ低い、でもきれいな声がした。

「お前、何がパイロットだ。」


そこに立つのは久々に見るムギ。

「ムギ?!」

「ファクトの間抜け!なんでこんなところに来てるんだ。帰れ。」

「ムギ先生こそなぜここに?」


それには答えず、上階から外に出たのか屋根にいたムギは、壁に幾つか足をついてスタッとファクトとラスの間に飛び降りた。

「お前、勝手なこと言うな。」

ムギはラスを睨みつける。


「ファクトを戦争にでも駆り出すつもりか?」

「なんだ?…そうじゃないだろ?他にもいろいろ可能性はあるだろ!」

ラスが食って掛る。

「はッ?くだらない。こっちが必死に戦争を止めようとしているのに、人間はバカだからな。豚に真珠がこれのことだって、まだ分からないのしかいないから!」


ムギはラスの前に出て、

「そういう事しか言えないなら、ファクトの前から去れ!」

と、辛辣に言い放った。


「ちょ、ちょっと待て!そうじゃなくて!」

仲直りしに来たのに、それはない。しかもこっちが探してやっと会えたのに。

「ラス、一度さ。父さんでもいいし、一緒に食事でも行こうよ。」

まず、チコがユラスやベガスの人間である前に、心星家の人間だとラスに説明した方がいい。

「………。」

ムギの登場で余計に引いてしまうラス。





しかしここで、ムギを超えるとんでもないのにも出くわしてしまう。


「なんだ?にぎやかだな?」

「っ?」


聴き慣れないが知っている声が、先ムギが降りて来た上方からすので、ファクトは思わず振り向く。これはヤバいと、声の主を見た。


日の光の下で見ると、少し金が混ざるグレーのような銀のような、黒にも見える髪のあの男。


チコを襲撃したシェダルだった。



「?!!」



ダーーー!!マジ、カオスだ!!!げんなりするファクト。

リゲルに、警報しろサインを出しておく。


シェダルは、スタっと地上に降りると、なんでもない顔でなんでもないように聞いた。

「よう兄弟。そういえばお前名前は?聞いたっけ?」

「………ファクトだけど…。」

お前、大房一味みたいな面すんな!違うだろ!と、心の中で突っ込む。普通の顔して普通そうに出て来るな!


「…誰だ?」

ムギがシェダルを怪訝そうに見た。後ろを取られていることに全く気が付かなかったのだ。

リゲルも知らない顔だが、今のファクトの人間関係を知らないラスは、大房かベガスの人間かと勘違いしていた。


なんだこのカオス。シェダルってヤバくないか?

混乱した頭でこの場を見渡した。ラス、ムギ、シェダル。誰を先に収集すればいいんだ。自分にできるのか。


「俺が用があるのはファクトだけだ。他の奴は下がれ。」

シェダルがいきなり俺様口調で全員を蹴散らそうとする。


そしてファクトに命令する。

「チコ・ミルクを呼べ。ここに来ていないのか?」

「呼ぶわけないだろ!前も言っただろ?お前自分が何したか分かってないのか?」

流石のファクトもそこまでバカではないのだ。ただ、ムギの前でそれを言ってしまったのはバカだったが。

「あの女は、前よりどうなんだ?体調はいいのか?」


そう言ったところで、今度はムギがシェダルの目に前に来てショートショックをシェダルの頭に向けた。

「はあ?今なんつった?」

ムギがチコの名前に反応し、かなり怒っている。


「ああ゛?」

シェダルは頭に銃を向けられたまま、うっとおしそうにムギを見た。

「?!」

そんな風に、人に銃を向けるよな風景を見たことのないラスが固まってしまう。



「もしかしてお前か?チコにあんなことしたのは?」

ムギがそれだけ言ったところで、シェダルが動くのを察知したファクトが、ザン!と空を切る手からムギを抱き()けた。


「リゲル!ラスを連れて逃げろ!!」

「あ゛?!!」

ファクトが叫ぶが、ムギへの手刀を外したシェダルが、地面に転がった2人にそのまま踵を落とそうとする。

「ファクト!!」

寸でのところで、リゲルが気が付いて踵を蹴り打った。


今度はリゲルに向かおうとするシェダルに、ファクトは大き目の電気サイコスを放つ。当たらなかったが、少しひるんだ隙に後ろ回し蹴りを入れた。


ダン!とサダルが石の地面に叩きつけられるが、すぐにひょこっと上半身を起こし、笑っている。

「この前のお返しができてよかったな。兄弟。俺を叩き蹴って少しは気が晴れたか?」

ファクトの腕が折れた時の事だろう。


「今後は反対の腕か?脚がいいか?」

おどけて言う。ムギが動こうとするので、先のようにムギを胸に抱えて動けないようにする。

「ムギ、動くなっ。」

「離せ!あいつがチコをあんな風にしたのか?!!」

「あいつはニューロスだ。余計なことするな。カウスさんたちでも危ない。」

「っ?!」


ファクトは真っ直ぐシェダルに向き直った。

「チコに会ってどうする。」

「甘そうな女だから、肉身の情に訴える。まずこの前のを不起訴扱いにしてほしい。このままだとアジアで動けない。」

「………。」


腕の中でムギが歯ぎしりしているのが分かる。だが、とにかくあいつを怒らせてはいけない。


瀕死のところまで暴力をふるって、不起訴になるのだろうか?そもそも普通の犯罪じゃないだろう。ユラス軍だけでなく、東アジア軍も動いたのだ。

「法の事はよく分からないけれど、民間でどうのこうのする話でもないし、チコはそれに関してなんの決定権はないよ。」

東アジアやユラスが許さないだろう。

「でも、言い繋ぎはしてくれるだろ?」

犯罪者の前に正体も分からない人間なのだ。

「だけど、お前のせいで今チコはずっと護衛が付いてるから、今は俺も二人での話もほとんどできない。」

「はあ。頼りない弟だな…。」


あまりに納得いかないのはムギだ。

「…なんなんだ?!お前…、うググっ。」

喋ろうとするムギの口を塞ぐ。ファクトはムギを制してシェダルに言い聞かせる。

「この子にも手を出すなよ。この子が怪我したら、チコが激怒するからな。間に入るどころじゃなくなる。」

「…ふーん。」


……ん?


そこで、このファクトのクソ野郎、話せと思いながらも、ファクトに押さえつけられていることを初めて意識したムギ。急に真っ赤になって抵抗する。

「ちょ!放してよ!」

「あいつに何もしないって約束したら。」

「する!するから!」

パッとファクトが放したところで、ファクトはバゴ!とムギに思いっきり頭を叩かれた。

「いで!なんで…。」


ため息をついているシェダル。

「つまらね。」



その時ムギが、一瞬時が止まったように何かを思い出す。

そして、考えながらふっと気が付いたように、揺れた目でシェダルの顔を見た。


「…ギュグニー…?」


正体不明の連合国も把握していないだろうニューロス。ファクトだけでなくチコも手を出さなかった存在。


「!?」

その声に反応するシェダル。


シェダルは瞬時で動いてファクトを蹴る。強く入らずどうにか受け身をしたが、シェダルはそのままの勢いでムギに飛び掛かり、口を掴んで背中から地面に叩きつけた。

「グハっ!」

「お前…なんでそう思う?」

地面に押さえつけられたムギに脅すように言うが、押さえつけられて答えられるわけがない。

「グっ…」


そして、近付こうとしたファクトへ牽制する。

「来るな。一歩でも近付いたらこの女の口を砕く。」

隙を見て去ろとしていたリゲルとラスにも言う。

「お前らも行くなよ。」

「背骨……」

あの女の子の腰や背骨が折れていたらと、ラスの目がひどく動揺していた。女性が叩きつけられるところなんて見たことがない。しかもイサナ女の子だ。



そして、さらにその瞬間。


斜め上から飛んできた女の蹴りがキレイにシェダルに入り、覆い被さったムギを開放した。

「ガハっ!」

ズダ!とシェダルが横に叩きつけられそうになるが、反動を利用して起き上がり、その女に掴みかかる。

SR社シャプレーの秘書、スピカだった。


「クソ!」

シェダルはそれがSS級ニューロスアンドロイドだとすぐに判断した。


ゲホッ、とムギが起き上がったところでファクトはムギを支え、後ろに引く。ラスたちの周りにはすでにSR社の警備が銃を構えて付いていた。


シェダルとスピカが両手を掴み合い押し合うが、スピカが強い。が、そうと分かるとシェダルも容赦なく、体勢を変えてスピカに蹴りを入れようとする。

スピカはシェダルの動きに連動して、一瞬にしてその蹴りを塞ぐ。スピカがサイコスを放とうとした時だ。



「待て。」


そこに低い声が響いた。



「ようこそ。弟。」

シャプレー・カノープスだ。


スピカは、シェダルから殺気が引いたのを感知すると、サッと身を引いた。

シェダルはシャプレーの方を向くと、ひどい敵意と怪訝な表情を隠さなかったが、分が悪いと思ったのか攻撃はやめてた。

「は?何が弟だ。なんだお前は?」

「監視カメラや、霊性が騒がしくてね。」


ヤバすぎる。シャプレーまで来てカオスがさらにカオスになったのか。カオス脱出か。


ただ、少なくともこれで殺されることはないし、自分よりはこのカオスを収拾できる人々であろう。顔的にはシェダルより悪党そうだが、彼は連合側だ。それに正直、自分よりアンドロイドのスピカの方が賢そうだ。いや…確実に、遥かに賢いに違いない。


こんな場面に出くわしてしまい、ファクトはラスには申し訳ないと思った。これで、もっとベガス滞在を反対されるに違いない…。さらに自分もチコ襲撃者に襲撃されていると母ミザルが知ったら、一体どうなるのか。いつもの如く、母に知られずこの時を過ぎ去りたい。


ラスに会いたかっただけなのに、なぜ…。



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